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睡眠のリテラシー41

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員

 わが国の企業の8割は定年を60歳に定めています。定年までいきいきと働くことは労働者にとって第一の目標ではないでしょうか。年金のもらえる年齢を考えると、さらに5年ほど元気に働かなければなりません。20歳過ぎから働き始めたとしたら、およそ40年にも及ぶ労働生活になります。

 このような長い期間を健康で過ごすには、日々の生活を大事にする必要があります。バランスの良い食事や定期的な運動など、起きている時の見直しはもちろんです。それに加えて、睡眠をしっかりとることも欠かせない条件であることが最近の研究から明らかになってきました。

 フィンランドの約6千名の労働者(40~60歳、8割は女性)を対象にした調査で、ある年に睡眠の問題について調べました。寝つきが悪い、途中で目が覚めてしまうなどの症状がどのくらいあるかによって、睡眠問題のない群(13%)、少しある群(67%)、かなりある群(20%)に分けました。

 この調査から6~8年後までの間に、健康上の理由で退職した労働者は約5百名いました。そこで、最初に調べた睡眠問題との関連を統計的に探ったところ、睡眠問題のない群が働けなくなって退職する確率を1とした場合、睡眠問題の少しある群では1.2、かなりある群では2.2に増えることが明らかになりました。つまり、よく眠れないと、将来的には健康を害し、定年を待たずに退職しがちになると言えます。

 働けなくなった主な理由は二つありました。一つは筋肉、骨、関節の病気で、全体の42%を占めました。睡眠問題のない群に比べて、少しある群では1.1倍、かなりある群では2.4倍ほど、この病気で退職しやすくなりました。

 退職につながるもう一つの理由は精神や神経の病気で、26%を占めていました。同じように比べると、睡眠問題の少しある群では2.3倍、かなりある群では3.7倍にまで早く退職しがちになることが分かりました。

 健康上の理由で仕事を途中で辞めなければならないのは、労働者にはとてもつらいことで、なかなか受け入れにくいはずです。本人だけでなく、その家族にとっても、家計の維持など深刻な事態となります。働き盛りの世代では、住宅ローンや子供の教育費などをどう工面するかは共通した悩みです。

 経験が豊かで有能な労働者が戦線離脱するのは、会社にとっても大きな痛手になります。今はどこの職場でもぎりぎりの人数で仕事をこなしているため、1人の離職でも現場は非常に混乱します。

 今回紹介した調査からは分かりませんが、もし眠りに悩む労働者に適切なケアが与えられたら、定年前に退職する確率は減ったかもしれません。そうなれば、労働者も家族も会社も、余計な苦労をしないで済むようになります。長い職業人生を全うするには、日々の睡眠を大事にしなければなりません。

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