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毎日の果物が心臓発作や脳卒中を遠ざける!
中国人を対象とした大規模疫学研究から、生の果物を毎日食べる人は、めったに食べない人に比べて、心臓発作や脳卒中のリスクが低いことが分かり、4月7日付の「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」誌に発表されました。この研究成果は、中国人と同じく、欧米人と比べて果物の摂取が不足している日本人にも大変参考になります。そこで、今回はこの論文を参考に、一緒に食生活を見直してみましょう!
大西睦子の健康論文ピックアップ117
大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。著書に「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側 」(ダイヤモンド社)。
大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートと編集は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
中国では毎日摂取は2割未満
これまでにも、果物を食べる人は心血管疾患のリスクが低いことは度々示されてきました。ただしそれらは欧米での研究成果で、アジア人種を中心とした研究ではありませんでした。今回使用されたデータは、中国全土5つの都市部と5つの農村部の地域に住む51万2891人(30〜79歳)を対象に、英国オックスフォード大学と中国医学科学院が共同で進める疫学研究「The China Kadoorie Biobank Study」によるものです。中国人は一般に日本人同様、欧米人に比べて、果物の摂取がはるかに少ないようです。
「The China Kadoorie Biobank Study」では、対象者にアンケートを実施し、喫煙習慣や飲酒習慣、食事、身体活動、既往歴の他、身長、体重、腹囲、血圧、血糖値について、訓練された医療従事者がノートパソコンで登録管理します。食事については、主要な12食品群(米、小麦製品、その他の主食、赤身肉、鶏肉、魚、卵、乳製品、生野菜、調理・加工野菜、生の果物、および大豆製品)に関し、過去12カ月間の習慣的な摂取頻度について回答を求めました。摂取頻度は5種類 (毎日、週4〜6日、週1〜3日、毎月、稀あるいは全くなし)に分類されています。
研究者は、研究の開始時に心血管疾患の既往がなく、降圧剤を服用していない45万1665人について分析しました。
参加者の58.8%が女性、42.5%が都市部在住で、平均年齢は50.5歳(30〜79歳)でした。生の果物を毎日食べていたのは対象者の18%にとどまり、9.4%は週に4〜6回、6.3%はめったにあるいは全く食べていませんでした。女性では、農村部と都市部いずれも年齢が若い方が、果物を定期的に(週4〜6日またはそれ以上)消費していた一方、男性では少し傾向が異なり、都市部の50〜55歳(中国では退職前)で最も低頻度でした。南北の地域差はありませんでしたが、 2つの都市部(青島とハルビン)で消費頻度が最も高く、2つの農村地域(河南省と湖南省)で最も低頻度でした。
総じて、頻繁に生の果物を消費するのは、都市部在住で教育レベルと所得が共に高い、若い女性で、習慣的な喫煙と飲酒の可能性が共に低く、乳製品や肉を消費する可能性が高い、という典型像が導かれました。果物の摂取量に関わらず、ほとんどの中国人(約95%)は新鮮な野菜を毎日食べていました。
毎日食べると血圧・血糖・心血管疾患リスク低く
身体データに関しては、対象者全体のBMI平均値が23.5、平均収縮期血圧は128.8mmHgだったところ、生の果物の摂取頻度が高いほど、BMI値と腹囲の値は高く、収縮期血圧と血糖値は低くなる傾向が確認されました。果物を毎日食べる人は、めったにあるいは全く食べない人に比べて、BMI値は0.5高く(ただし正常値。論文の考察で、栄養が良いためと推測)、 腹囲は0.9cm大きく、収縮期血圧は4mmHg低く、血糖値も9mg/dl低くなりました。つまり、生の果物の頻繁な摂取と、血圧および血糖値が低いことには関連が見られたことになります。
また欧米諸国に比べ、中国は脳卒中(特に脳出血)の発症が多く見られます。「The China Kadoorie Biobank Study」では、2004~2008年の5年間に、5173人が心血管疾患で死亡、2551人は主要冠動脈発作、14579人は虚血性脳卒中、3523人は脳出血を記録しました。しかしながら、生の果物を毎日食べる人は食べない人に比べて、心血管疾患による死亡が40%、主要冠動脈イベントは34%、虚血性脳卒中は25%少なく、出血性脳卒中は36%少なくなりました。この結果は、どの地域でも、男女共に同じ傾向でした。また、虚血性脳卒中については、血糖値が高く、習慣的にアルコールを飲む、教育レベルの高い男性でやや大きくなる傾向がありました。この結果は、BMI値、腹囲、血圧、血糖値で調整しても、大きく変わりませんでした。
以上から、生の果物を頻繁に摂取する人ほど、 血圧や血糖値には関わらず、心血管疾患リスクが低いことが分かりました。また、中国の食卓では、欧米型の食生活よりも、野菜が日常的に多く食べられています。つまり、上記の結果は、野菜ではなく、果物摂取の頻度の違いによってもたらされたものと考えられます。なお、今回の研究では果物の種類についてデータはなく、季節や地域によって大きく変化する可能性もありますが、中国で最も一般的に食べられている果物は、りんごや柑橘類、梨などです。
カリウムやフィトケミカルが豊富
今回の研究では、生の果物が血圧や血糖値、心血管疾患リスクを低く保つメカニズムまでは解析されていません。ただ、一般に果物は、カリウムや葉酸、食物繊維、抗酸化物質やフィトケミカルなどを豊富に含む一方、ナトリウムや脂肪をほとんど含まず、カロリーの低い食品です。そこで、以下のような要因が考えられます。
まず、カリウムは心臓の健康に非常に重要です。カリウムの摂取量が最も多い人は最も少ない人に比べて、あらゆる原因による死亡リスク(全死亡リスク)が20%低くなることが報告されています。さらに重要なのは、カリウムとナトリウム摂取のバランスです。対 カリウム比で、ナトリウムの割合が高い食事を摂っている人は、低い食事の人よりも、心臓発作による死亡リスクが2倍、全死亡リスクが1.5倍でした。なお、ナトリウムの摂取量が最も多い人は最も少ない人に比べて、全死亡リスクが20%高くなることも報告されています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21747015
http://www.hsph.harvard.edu/nutritionsource/salt-and-sodium/sodium-health-risks-and-disease/
また、フィトケミカルは、抗酸化作用や抗がん作用、抗炎症作用、免疫増強作用など多くの機能が注目されていますが、加熱に弱い性質があります。野菜は加熱調理することが多く、フィトケミカルの効果が低下する可能性がありますが、果物はそのままいただけるので、効果が低下する心配はなさそうですね。
日本人は果物が足りていない!
厚生労働省・農林水産省の推奨する「食事バランスガイド」では、果物の摂取は、1日に200g(みかん2個分、りんご1個分)が望ましいとされています。20歳以上を対象にした厚生労働省の平成26年「国民健康・栄養調査」の結果によると、所得により果実類摂取量に差が認められました。世帯所得600万円以上の女性が最も果物を摂取しているようです。ただし、どのグループも推奨の摂取量には達していません。
果実類摂取量
世帯所得200万円未満:男性72.4g、女性106.2g
世帯所得200万円以上〜600万円未満:男性91.1g、女性121.3g
世帯所得600万円以上:男性88.8g、女性127.9g
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000117311.pdf
また、同調査では、果実類摂取に年齢差や性差も認められました。興味深いことに、中国では若い人の摂取頻度が高い傾向にありましたが、日本では高齢者の摂取量が最も多くなっています。
果実類摂取量
20〜29歳:男性40.3g、女性75.7g
30〜39歳:男性39.0g、女性65.3g
40〜49歳:男性49.2g、女性68.1g
50〜59歳:男性82.0g、女性114.4g
60〜69歳:男性123.1g、女性154.8g
70歳以上:男性149.9g、女性154.9g
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000117311.pdf
特に、日本の若い女性は、果物は太ると誤解して摂取しない人もいるようです。(「やせ」(BMI<18.5kg/m2)の割合は、男女共、若い世代に多く認められます)
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000117311.pdf
今回の研究から、生の果物を毎日食べると、血糖や血圧、さらに心臓発作や脳卒中のリスクを低く維持できることが、アジア人種でも確認されました。欧米型の食生活でなく、野菜をたくさん摂っていたとしても、果物の健康効果はまたそれとは別で、捨てがたいものがあります。日本では一年中、様々な果物がスーパーマーケットの店頭に並び、簡単に手に入ります。調理せずに手軽に食べられるのも、栄養素と利便性の両方の観点でお勧めです。それなのに摂取が足りていない現状は非常にもったいないですよね。是非、毎日の食生活に、新鮮な果物をとり入れて下さい!