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新年の抱負、"実現させる秘訣"は?
「今年こそ痩せる」「禁煙」など、新たな目標とともに新年を迎えた方も多いのではないでしょうか。「言うは易し、行うは難し」は世の常。それでも目標達成の"秘訣"があるとしたら・・・? 抱負にちょっとした修正を加えるだけのようですから、今からでも間に合います。今年こそ自分の殻を打ち破りましょう!
大西睦子の健康論文ピックアップ71
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
あけましておめでとうございます!今年もどうぞよろしくお願い致します。2014年という新たな年を迎えて、多くの方が新年の抱負を立てられたことと思います。でも抱負を達成することって、結構大変ですよね。米国のニュース雑誌『Time』によると、「もっとも挫折する新年の抱負」ランキングは以下のとおりです。
1. 減量して健康的になる
2. 禁煙
3. 何か新しいことを学ぶ
4. ヘルシーな食事にして、ダイエットをする
5. 借金から抜け出し、節約する
6. 家族と過ごす時間を増やす
7. 新しい場所に旅行をする
8. ストレスを減らす
9. ボランティア活動をする
10. アルコールの量を減らす
いかがでしょうか?昨年のみなさんの抱負が、このリストの中にありませんか?そこで、"今年こそ抱負を実現させるための秘訣"を伝授させて頂きます。それは、
「具体的に限定した目標より、漠然とした目標を設定した方がいい」
というもの。米国スタンフォード大学経営大学院のババ•シフ教授らが、雑誌『Psychological Science」に、成功の秘訣として報告したものです。意外に思われた方も多いでしょうか? 詳細を見てみましょう!
多くの人は、「具体的な情報を知れば、パフォーマンス※1が向上し、目標が達成できる」と信じています。近頃では実際、様々なテクノロジーの進歩のおかげで、私たちは高精度の情報をすぐに知ることができます。例えば、新しい体組成計(体脂肪計)は、体脂肪率※2、内臓脂肪※3や筋肉量などを測定できますし、他にも摂取カロリー、万歩計など、様々なデータをすぐに数値化できます。ところが、ババ•シフ教授らは、3つの研究の結果、「目標に向かってモチベーション※4が活性化されているときは、正確な情報よりも、柔軟性のある曖昧な情報の方が、よい結果を生み出す」と論じています。教授らの3つの研究(知力、体力、減量)とはどのようなものだったのでしょうか?
研究1:知力
まずプレ実験として、38人の参加者に同じサイズのチョコレートを与え、「1gのココアは知力を向上させるのに十分なフラバノール※5が含まれている」という情報を伝えます。参加者を2つのグループに分け、グループ1の参加者には、「あなたたちが受け取ったチョコレートは、ココアが正確に1g含まれている」と伝えます。一方、グループ2の参加者には、「ココアが0.5−1.5gの範囲で含まれている」と伝えます。その上で、各参加者が「チョコレートの摂取からどれだけ知力向上を期待するか」を評価します。その結果、グループ2の参加者の方が、グループ1より期待度が強いことが示されました。
次にいよいよ本実験として、106人の参加者をランダムに2グループ(ココア含有量が「正確に1g」と「0.5−1.5g」)に分け、その情報とともにチョコレートを摂取してもらいます。その後、ニンテンドーDSの脳年齢ゲームをプレイしてもらい、チョコレートでどれだけ知力が改善するか調べました。その結果、グループ2の参加者は、より知力テスト向上を認めました。
研究2:体力
研究1と同じような手法を用いた、体力に関する調査が行われました。参加者は、ケンフェロール※6と呼ばれる天然の栄養素が含まれているフルーツジュースを摂取します。ケンフェロールは、筋力や身体能力を高めると言われています。
まず参加者137人を2つのグループに分け、グループ1の参加者に、「ジュースにはケンフェロールが正確に1g含まれている」と伝えます。一方、グループ2の参加者には、「ジュースにはケンフェロールが0.5−1.5gの範囲で含まれている」と伝え、飲んでもらいます。その後、137人の参加者全員の握力を測定しました。握力測定器に加えられた力の大きさと持続時間は、接続されたコンピューターに記録されます。そうしたところ、グループ2の参加者は、より多くの力を発揮しようと頑張りましたが、結果は両グループで変わりはありませんでした。
研究3:減量
研究3は、漠然とした情報が、食べ物などの外的要因よりも、健康・身体測定結果など内的要因に関するものであっても、同じくパフォーマンスに影響するかをテストするために行われました。
参加者41人は3週間、週に1回の健康測定に参加し、研究者らは、その結果を「BMI※7をベースに計算されるホリスティックヘルス指数」という値に置き換えます。毎回、41人の体重や体内水分量などの測定値がコンピューター入力され、個別の指数結果を得ます。参加者は、「ホリスティックヘルス指数は近年、BMIに代わって提唱されている指数で、個々のライフスタイルの健康度を測るものであること、今回はその妥当性をテストする研究だ」と告げられています。毎回、グループ1の参加者には正確な値を、グループ2の参加者には±3%の範囲の値が告げられ、。加えて、最も理想的なホリスティックヘルス指数の値(グループ2には±3%調整したもの)との比較も報告されました。
3週間後、グループ2の参加者は、モチベーションが最大に活性化され、グループ1の参加者に比べて体重が減りました。ただし、すでに健全なホリスティックヘルス指数の参加者では、両グループに減量効果の差はありませんでした。
以上、この3つの研究を通し、数値にこだわるよりも、漠然とした目標を立て、柔軟性や適応性を備える方が、モチベーションも上がって結果に結びつくことが示されました。摂取カロリーの計算や徹底した体重管理は、健康的なライフスタイルあるいはダイエットにとって、必ずしも得策ではないようですね。
ですから、例えば「2月末までに体重を3キロ減らす」という目標より、日々の食生活や身体活動の問題点を考え、ライフスタイルを改善して、「夏頃には体重が2キロから3キロくらい減ったらな」という方が、より実現しやすい方策というわけです。その方が、途中で失敗した場合にも失望してやる気をなくすこともなく、原因を考えて試行錯誤しつつ、再挑戦できますよね。
まだまだ2014年は始まったばかりです。今からでも新年の抱負を修整するのは遅くありませんよ!