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アーミッシュの集落へ訪問診療

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

内側から見た米国医療13

反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。12年7月からメイヨークリニック勤務。

 先日アーミッシュの集落へ訪問診療に同行する機会がありました。以前にも書いたように、彼らは宗教上の信条から近代的な生活様式を営まず、昔ながらの農耕や手芸を中心とした生活をしています。その集落は広々とした畑に囲まれ、一見ミネソタでよく見る風景と変わらないのですが、自動車の代わりに馬車が道を行き来しています。

 今回訪問診療に連れて行ってくれた先生は13年間、月に1回その集落を訪れています。ある家を訪れると、白いフードをかぶり、青色のワンピースを着たおばあさん(仮にエミーさんとします)が迎えてくれました。彼女は集落の保健婦かつリーダー的な存在で、西洋医療に理解があり、集落のお産すべてを手掛けています。妊娠経過が順調でなければ産婦人科に紹介し、自宅出産が危険だと判断すれば救急車を呼ぶことも躊躇しません。出産直後の新生児にはビタミンKと眼軟膏を使い、ワクチン接種も推奨しています。その結果、集落では皆がワクチンを接種しています。アーミッシュは基本的に避妊をしないので、多くの家族が子だくさんです。集落内にエミーさんがいることで、多くの子どもの健康が守られています。

 アーミッシュの中でも、医療に対する考え方は人それぞれです。例えばエミーさんの夫は多くの慢性疾患を持ち、冠動脈バイパス手術や、最先端の治療である経カテーテル大動脈弁植え込み術を受け、睡眠時無呼吸症候群に対してCPAP(持続陽圧呼吸療法)装置を使っています。同様にCPAP装置を使っている別の方は高血圧の薬も飲んでいますが、同時に健康維持のためにハーブを使っています。車で3時間ほどの所には、アーミッシュ内で有名なカイロプラクティックの診療所があり、調子が悪いとそこへ行く人もいます。様々なサプリやホメオパシーを使う人もいます。西洋医療を受けることを拒み、メキシコまで行って治療(詳細は不明)を受ける人もいます。一方で、死に対する考えは概ね一致しているようです。病気や死を自然のものとして受け入れ、最期を病院で過ごすことは稀です。

 アーミッシュの生活は極めて質素です。その集落でも、普通の体型の人がほとんどでした。3人に1人が肥満の一般的な米国人と比べると、とても健康的なように思えました。しかしながら、心不全やガン、うつ病などの疾患は普通に存在しますし、寿命も特別長くはないようです。

 エミーさんが、アーミッシュに伝わる診断法を教えてくれました。Testingと呼ばれるその手法では、片方の手で鎖を持ち、もう片方の手の平に載せた薬の上に垂らします。鎖の先が時計回りに回れば、その薬を摂るべきだという印。反時計回りなら摂るべきではないという印です。回らない場合は薬の量を減らし、時計回りに回る所が適量と判断します。

 このような伝統を科学的でないと切り捨てることは簡単ですが、切り捨てて彼らはより健康に、幸せになれるのでしょうか? そのようなことを深く考えさせられました。

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