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粉末アルコール、解禁はいつ?

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粉末アルコールが今、米国でかなり話題になっています。粉末アルコール、って皆さんは聞いたことありますか? 実は日本生まれだそうです。どんなものなのでしょうか。どうして今、人々の関心を集めているのでしょう。

大西睦子の健康論文ピックアップ87

大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。

大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

米国では先週、「パルコール」のニュースで大騒ぎでした。

パルコール(Palcohol)とはPowdered Alcoholから採った商品名で、要は水を加えるだけで飲料用のアルコールが出来上がる、粉末アルコールです。

米国アリゾナ州にあるリップスマーク社の製品で、このほど、市販に向けて米国財務省の酒類・タバコ税貿易管理局(TOBACCO TAX AND TRADE BUREAU:TTB)の認可が下りたとか、下りないとか。その動きを巡って、米国内ではかなりの話題になっているのです。


日本では30年前から業務用販売

そもそも粉末アルコールってどんなものか、耳慣れないだけに気になりますよね。

ただ実は、"粉末アルコール"そのものを初めて開発したのは、日本の企業です。愛知県小牧市の佐藤食品工業が、1966年に初めてアルコールを粉末状にすることに成功したのです。当初は水に溶かした際のアルコール度数が低く、また溶液がゲル状になってしまうなど、飲み物には適さず、用途は限られていたという話も聞こえてきます。

1977年のシアトルタイムズにも、佐藤食品工業が粉末アルコールの製造過程(カプセルのように粒子中に封じ込む手法)について特許を取得していたことや、ゼリーやチョコレートなどの食品への添加物として販売されてきたことが記事として掲載されています。当時、米国企業は佐藤食品工業の製品を米国市場に導入しましたが、失敗したようです。

佐藤食品工業の成果に刺激を受け、米国内でも食品化学の研究者や実験者が我先にと同様の技術の開発に乗り出しました。ある企業では開発には一応成功し特許まで取得したものの、コストが尋常でなく、商品化には至らなかったとのこと。

一方、その後も研究が続けられた佐藤食品工業の粉末アルコールは1981年、酒税法の改正の際に酒類の新しい1品目「粉末酒」として正式に認可を受け、粉末酒酒造免許第1号を取得しています。現在、世界主要17ヵ国で製法特許を取得しているといいます(ホームページより)。


ただし、佐藤食品工業の粉末アルコールは、一般の人向けに市販されていません。業務用のみの販売で、食品添加物という扱いになっています。それに対し、リップスマーク社のホームページを見ると、パルコールは人々に新しいアルコールの飲み方を提供すべく、カジュアルでセンセーショナルなコピーが並んでいます。ラムとウォッカが各2種類、他にカクテルとしてコスモポリタン、モヒート、マルガリータ、レモンドロップといったラインナップが紹介されています。


市販しても大丈夫?

さて米国での大騒ぎの原因ですが、まずは4月8日、TTBのウェブサイト上で、パルコールの認可が発表されました。ところが約2週間後の4月21日、その承認の撤回が報告されたのです。

何がいけなかったのでしょうか?

撤回の背景とされているのが、ホームページ上の宣伝のコピーです。当初の宣伝では、

「コンサートやスポーツ等のイベント会場で高い飲み物にお金を使わないように、パルコールを持って行きましょう」
「食べ物にパルコールをふりかけてみましょう。例えば、バーベキューサンドイッチにラム、朝食の卵にウォッカなど」

といった、ちょっと過激な謳い文句が並んでいました。

その後、大分おとなしい宣伝に差し替えられ、リップスマーク社はラベルをTTBに再提出しているとのこと。それにしても、パルコール始め粉末アルコールを市販するとなれば、法的な問題のみならず、安全性その他の論争を過熱させる可能性を大いにはらんでいるようです。


パルコールを始めとする粉末アルコールの魅力は、持ち運ぶには重い液体のアルコールと比べて、非常に簡単、便利に持ち運びができることです。しかし一方で、簡便さから、安易にあるいは誤って乱用する可能性も高まります。

パルコールはアルコールをフリーズドライのようにそのまま粉末にしたわけではなく、還元オリゴ糖の一種の粒子の中に封じ込めたもの。いわばごく小さなカプセル構造をしているので、溶かすには水でなくお湯が必要です。ところが、リップスマーク社が謳うようにコンサート会場で使おうとした場合、わざわざお湯を持参して溶かし、その上で冷たい水や氷で埋めたりするでしょうか? 最初から冷たい水だけで作ろうとするのではないでしょうか。となると、溶けていないパルコールまで過剰に摂取せざるを得なくなります。

過剰接種については、粉のまま食品に振り掛けて使う場合も同じこと。それどころか、未成年やアルコール依存症の患者が直接口に含むことも十分想定できますよね。


こうしてみると、パルコール等の粉末アルコールの市販解禁が急性アルコール中毒患者の増加につながる可能性は、枚挙にいとまがありません。

特に、過剰摂取による影響の大きい未成年でも手を伸ばしやすくなることには、危機感さえあります。米国はもとより公共の場での飲酒が禁止されているくらい、飲酒には厳しい文化です。当然、飲酒の年齢制限も徹底して遵守され、酒屋さんでの購入やレストランでのオーダーには身分証明を提示しなければなりません。パルコールは愛飲家には朗報ですが、未成年の子供を持つ親や、政治家にとっては悪夢そのものなのです。

安全上の問題に加え、実際にビジネス展開していくこととなれば、他のアルコール業界との関係も見過ごせない問題となってくるでしょう。もしパルコールが解禁されたら、アルコール産業に大きな影響を与えるのは必至です。


こうした様々な観点から、パルコール解禁にはまだまだ、相当時間がかかるものと予想されます。

粉末アルコールは日本では市販されていないため特別問題にはなっていませんが、今後もし米国での動きを受けて用途が広がり、市販化の動きが出てきた場合は、現行の法律や規定も見直す必要が出てくるかもしれませんね。

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