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肥満がイヤならアルコールのカロリーをチェック!
アルコール自体にカロリーがあること、みなさんは気にかけて飲んでいますか? 先日、英国王立公衆衛生協会(THE ROYAL SOCIETY for PUBLLIC HEALTH:RSPH)が調査報告を発表し、肥満対策としてアルコール飲料のカロリーをラベル表示するようEU当局と飲料メーカーに呼びかけ、話題となっています。記載のない英国では、飲酒によって知らないうちにカロリーを摂取している人が多いと言います。肥満とアルコールの関係については更なる調査が求められますが、表示の進んでいる日本でも他人事ではありません。
大西睦子の健康論文ピックアップ102
大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。著書に「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側 」(ダイヤモンド社)。
大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートと編集は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
知らずにカロリー摂取
RSPHは、英国の公衆衛生の専門家らで構成された慈善団体です。2014年10月、RSPHは英国の成人2117人を対象に、アルコール飲料のカロリーに関する知識を調査しました。
http://www.rsph.org.uk/en/policy-and-projects/areas-of-work/alcohol-labelling.cfm
その結果、ほとんどの人がきちんと理解できていないことが明らかになりました。80%以上の人が、 ワイン大グラス1杯のカロリー(160kcal強)を知らないと答えるかまたは正しく推定できませんでした。ほぼ60%の人が、ラガービール1杯のカロリー(180kcal強)を知りませんでした。
またRSPHは、被験者を、ドリンクメニューにカロリーを表示したグループ1と、カロリー表示のないグループ2に分け、ロンドン中心のパブでの行動が変化するかどうか実験しました。結果は、アルコール飲料から摂取したカロリーは、グループ1が一人当たり平均381kcal、グループ2が平均764kcalでした。カロリー表示なしのグループは、約2倍のカロリーのアルコール飲料を消費していたのです。カロリー表示は、確かにメニューの選択に大きく影響すると言えそうです。
これを踏まえて同11月、RSPHはアルコール過剰摂取への対策として以下2点を求め、声明文を発表しました。
http://www.rsph.org.uk/filemanager/root/site_assets/our_work/themes/alcohol_labelling/alcohol_and_obesity_final.pdf
1)EU保健局長および飲料メーカーに対し、全アルコール製品へのカロリー表示導入を求める。消費者の67%が、アルコール飲料のラベルへのカロリー表示に対し、歓迎の意思を示している。
2)アルコールの過剰摂取を減らすため、カロリー表示および基準飲酒量(飲酒量をアルコール量に換算したもので、単位は「ドリンク」。設定は国ごとに異なり、英国では1ドリンク=アルコール8g)による表示の有効性について理解を深める研究の推進を求める。
RSPHは、食品へカロリー情報を添付し、個人が読んで理解した場合には、より健康的な食品の選択を促進できることが立証されているにも関わらず、アルコール飲料のカロリー表示の効果についてはほとんど研究されてきていないと指摘。パブやバー、スーパーその他でもアルコール飲料のカロリー表示の議論を強化するべく研究が必要だとしています。
声明文に対する反応として、英国大手メディア「ガーディアン」は以下のように報道しています。「欧州委員会は、アルコール飲料のラベルにカロリーを表示するかどうか、12月までに決めると約束している。 健康の専門家はラベル表示に賛成し、英国の飲料メーカー各社も、個々の商品がアルコール何ドリンク分に相当するか表示することは合意したものの、カロリー表示には抵抗している」
http://www.theguardian.com/society/2014/oct/31/put-calorie-labels-on-alcholic-drinks-to-curb-obesity-experts-urge
肥満と過剰飲酒に悩む英国
今回の声明の背景として、RSPHは、英国が直面している深刻な肥満とアルコールの過剰摂取の問題を指摘します。
英国では、男性の66.6%、女性の57.2%が過体重グループに属し、男性の24.4%、女性の25.1%は肥満です。
飲酒量については、英国政府は国民の健康と社会福祉の観点から、女性は毎日2~3ドリンク(ビール1杯、ワイン中グラス1杯)まで、男性は毎日3~4ドリンク(ビール1杯半、ワイン大グラス1杯)までとし、それ以上飲むべきではないとしています。ところが最近の研究では、日常的に飲酒する成人は、日々のカロリー摂取量の10%近くがアルコールに由来するとの研究報告もあります。
過剰な飲酒は、怪我やアルコール中毒、危険行動などの短期的な健康問題に加えて、高血圧や肝疾患、がん、うつ病や不安症を含む精神衛生上の問題にもつながるとされています。また、肥満は、糖尿病や心臓病、変形性関節症、複数のがんなど、多くの深刻な病気の発症リスクを増加させます。RSPHの警告には、アルコール常飲の長期継続による体重増加を絶ち、国営医療サービス事業(NATIONAL HEALTH SERVIS:NHS)への大きな負担を避ける狙いも含まれています。
正反対の研究報告も
肥満とアルコール、個々の健康問題についてはこれまで様々な研究が行われてきました。しかしながらRSPHによると、両者の相互関係に着目した研究は限られていると言います。正反対の結果を示す報告が併存することもあります。
肥満につながる一番の要素は、アルコール自体にもカロリーがあることです。1g=7.1kcalとされており、英国では1ドリンク=56kcalに相当します。アルコールは摂取後、胃で20%、小腸で80%吸収され、肝臓で酵素により有害なアセトアルデヒドにいったん分解され、別の酵素で無害の酢酸に変えられます。この酢酸が血流に乗って筋肉や心臓などに運ばれ、エネルギー源(その単位が「カロリー」)となるのです。エネルギーが余れば脂肪として蓄えられることになりますし、肝臓から血中に放出された酢酸も脂肪の消費を妨げる働きを持っており、体重増加に寄与します。加えて、アルコール飲料はアルコールだけでなく糖分などを含みますから、そのカロリーも考慮しなければなりません。飲酒が食欲を増すことも、肥満に加担していると考えられます。事実、アルコールを多く摂取する人ほど不健康な食品を選んで過食しがちで、太り過ぎや肥満の人が多いという研究報告もあります。
そうかと思うと、アルコールが体重増加とは反対に働くこともあります。アルコールは体内に吸収された後にすぐ熱になって消費されやすく、蓄積されにくいと言われます。そのため実質的なカロリーは体内に入った70%程度で、アルコール1g=5kcal程度ではないかとも言われています。それどころか、アルコールは体内エネルギー消費を増加させるとの報告もあります。また、アルコール中毒の人は食事替わりにアルコールを代用するために体重が減少する可能性があるほか、若い女性では摂食障害との合併が高い割合で見られます。
この他、肥満とアルコール摂取の関係を扱った数少ない研究報告でも、両者の相互関係以外に、運動やライフスタイル、遺伝的要因、社会的背景などの介入が大きいことが示唆されています。
http://www.noo.org.uk/uploads/doc/vid_14627_Obesity_and_alcohol.pdf
ラベル表示で「敵」を知ろう
さて、日本の缶ビールや発泡酒、第3、第4のビールの多くには、表示義務がなくとも既にカロリー表示がされています。麦芽率や製法の違いによる酒税法での分類よりも、価格の安さや糖質の低さに注目し、「カロリーオフ」をうたった製品をダイエットに利用している方もいるかと思います。
http://www.brewers.or.jp/tips/display.html
では、この4種のビール類のカロリーは実際どれくらい違うのでしょうか。4大ビール企業の1つ、キリンの製品(350ml一本あたり)で比べてみると、
・「キリン一番搾り生ビール」:アルコール5%、糖質9.5g、144kcal
・発泡酒「キリンゼロ<生>」:アルコール3%、糖質0g、67kcal
・第3のビール「キリンのどごし<生>」:アルコール5%、糖質10.9g、151kcal
・第4のビール「キリン濃い味糖質ゼロ」:アルコール2.5~3.5%、糖質0g、67kcal
となっています。
ビールと「ゼロ」の2つとでは糖質の量が9.5g違い、それだけならカロリーの差は40kcal弱(糖質1g=4kcal)となるはずですが、総カロリーにはそれ以上の違いが出ています。アルコールにカロリーが含まれているからです。
「カロリーオフ」とPRされていても、アルコール飲料である限り、カロリーゼロではありません。アルコールと糖質の量によってカロリーは決まってきます。飲み過ぎればカロリー過多になりますし、アルコール自体が及ぼす体へのマイナス作用も忘れてはいけません。日本のビール類なら100mlあたりの栄養成分が大抵書いてありますし、アルコール度数も表示されています。人との付き合いや健康のためには、適度な飲酒を楽しみたいもの。ラベル表示を参考にしてみませんか。