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フィトケミカル、食べ方で損してる?その3
調理過程で失われがちなフィトケミカルを、逃さずに摂るには?という話の第3回(最終回)です。今回は、抗酸化作用により生活習慣病予防やアンチエイジング効果が期待できるとして、一気にその名が広まったポリフェノールについて詳しく見ていきます。
大西睦子の健康論文ピックアップ81
大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。
大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
フィトケミカルをできるだけ無駄なく、上手に体に取り入れる調理法の話、第3弾です。引き続き、以下の論文をもとに、今回は「ポリフェノール」(詳細は前回をご覧ください)の具体例について解説していきますね。フィトケミカルの種類や効果については、前回の表もぜひ参考にしてください(なお、表ではフラボノイドやイソフラボンがポリフェノールと別になっていますが、どちらもポリフェノールの一種です)。
まずは、おさらいです。ポリフェノールは、私たちの食生活で最も豊富なフィトケミカルと言われ、すでに同定されているだけでも約8,000もの物質の総称です。
食品中のポリフェノールの内容は、質的にも量的にも、食材によって大きく異なります。多くの野菜・果物に幅広く存在するポリフェノールもあれば、特定の野菜・果物やその品種に限って存在するものもあります。いずれも食品の調理・加工の過程で多くの物理的・化学的影響を受けますが、総じて、蒸し調理が損失が一番少ないと考えられます。
ポリフェノールは化学構造に応じて、フェノール酸やフラボノイド植物エストロゲンとも言われるイソフラボンやスチルベン(特に話題のレスベラトロール)、リグナンなど、様々なグループに分類されています。それでは具体的に見ていきましょう。
●フェノール酸
フェノール酸は、研究者らは、18の論文をもとにフェノール酸に対する調理効果を評価しました18論文全てが、野菜を煮込んだときの影響について調査しており、ほぼ全てでフェノール酸濃度の減少が観察されました。具体的には、7論文で大きな損失(50%以上)、4論文で軽微な損失(50%未満)が報告されました。Podsedek博士らは、時間と水の量を変えて赤キャベツをゆでた際の影響を調べました。結果、フェノール酸は平均21%損失しました。特に、より長時間、より大量の水で調理すると、損失もより大きくなりました。
残念ながら、フェノール酸への影響については他の調理方法はあまり研究されておらず、あっても結果にばらつきがありました。高圧調理とオーブン調理は、フェノール酸を大く損いました。3つの研究で揚げ調理の影響を報告しており、うち2つの報告で大きな損失、1つの報告では大きな増加が認められました。いずれにしても、総フェノール量と同じく、蒸した場合にフェノール酸が最も保持されました。
●フラボノイド類
フラボノイドは果物・野菜の色や風味の成分で、ポリフェノールの中で最も種類が多く存在します。フラボン、フラボノール、フラバノン、カテキン、アントシアニジン、イソフラボンの6つに分類されます。
フラボノイドは、一般的な果物、野菜や種子に広く存在しています。熱の影響を受けやすいため、調理によって減少する可能性があります。
研究者らにより、18の論文が調査されました。他のフィトケミカルと同様、煮込み調理が最も多く研究されていました。ほぼすべての報告で、調理後のフラボノイド損失(重大・大きな損失あるいは軽微ともな損失)が明らかになりました。
Rodrigues博士らは、短時間(30分)あるいは長時間(60分)でタマネギをゆでた結果、平均して48%のフラボノイド損失を認め、より調理の程度が強いほどフラボノイド損失が大きくなりました。具体的には、ゆで野菜はフラボノイドがゆでこぼしたお湯へ移りってしまい、失われました。電子レンジや高圧調理でもフラボノイドの損失を認めました。油調理(炒める、揚げる)やオーブン調理の調査は数が少なく、結果にも差がありましたが、しかも最も重要とされる論文では、フライパン調理とオーブン調理いずれも、どちらかもフラボノイド濃度に影響はありませんでした。
結論としては蒸し野菜が、フラボノイド濃度の深刻な損失(50%以上)も報告されず、最高の調理法でした。例えば、4つの研究が、で、蒸した場合、豆類やジャガイモ、アーティチョークを蒸した場合には、フラボノイドの損失を最小限(50%未満)に抑えることができたと報告。2つの研究報告で、ゆでたブロッコリーやほうれん草に含まれるフラボノイドの増加がを観察されしました。
◎植物性エストロゲン
植物性エストロゲンは、女性ホルモンであるエストロゲン化学構造が似ているため植物性エストロゲンと呼ばれ、エストロゲン受容体に結合することによって、エストロゲンのと同じように作用したり、エストロゲンの分泌や働きを調節すできます。代表的な植物性エストロゲンとして知られるのが、イソフラボンやリグナン、スチルベンです。最も広く研究されている植物性エストロゲンはイソフラボンですが、リグナンはヨーロッパの食卓に上る食品に多く含まれ、普及しています。
●イソフラボン
イソフラボンは、ダイズなどのマメ科の植物に多く含まれています。11の論文が、生の状態および調理後の食品中のイソフラボン含有量を評価しました。うち2つの論文では、様々なな調理法のがイソフラボン濃度に与える影響を評価し、イソフラボンの保存には「蒸す」のが最高の調理法であると結論付けています。
●リグナン
アカゴマ(亜麻仁)やライ麦、ゴマは最も知られているリグナン含有食品です。8つの論文を調べたところ、多くは、生の状態や調理済み食品中に含まれるリグナンの値を評価していました。アブラナ科野菜のサンプルはいずれも、沸騰調理後にリグナンの減少を示しました。ライ豆で最大の損失(85%)が観察され、ニンジンは観察されませんでした。調理後にリグナン含有量が増加した野菜もありました(特に根菜、根セロリで最大169%)。
リグナンは、ポリフェノールとしては熱処理による影響が一番小さいことが示されました。例えばWu博士らがゴマ油を使った揚げ物と焙煎調理を調べたところ、ゴマ由来の総リグナン含有量は調理の前後で変化しませんでした。
●スチルベン
スチルベンは苔類や高等植物など、主に日常食品として消費しない植物に広く存在しています。今最も一般的なスチルベンと言えばレスベラトロールですが、これはただ2つの食品、ブドウと落花生(とそれらから作られる食品)に含まれています。
調理後のレスベラトロールの変化については、2つの研究報告があります。Lyons博士らは焼きベリー類を研究し、コケモモに含まれるレスベラトロールの17%、ブルーベリーに含まれるレスベラトロールの46%が、加熱によって失われたと報告しています。落花生は高い熱安定性が報告されていますが、Lee博士らは、オーブンで焼いた後にレスベラトロールの30%が失われると算出しました。
さて、このレビューでは100以上もの科学雑誌から、様々なフィトケミカルについて、様々な調理による影響が検討されました。すべての証拠を検討した時、特にフラボノイドやグルコシノレートなどのフェノール性化合物を維持するには、蒸し調理が最高の調理法ということが判明しました。蒸し調理は、野菜組織が高温の物質(水や油)と直接触れずに済み、温度も95℃を超えず、沸騰したお湯へのフィトケミカルの浸出を最小化できます。是非、色とりどりの蒸し野菜を、いつもの食事に取り入れてみて下さいね!