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遺伝子組み換え食品、良いの?悪いの?

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かなり以前から問題が指摘されながらうやむやになり、時折思い出したように日本でも議論が再燃するのが遺伝子組み換え食品。(たいていは貿易問題とあいまって、ですよね)本当に健康に害はないのか、「分からないけれど、分からないからなんとなく避けたい」という人も多いのではないでしょうか・・・。

大西睦子の健康論文ピックアップ62

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。


米国では、遺伝子組み換え食品(Genetically Modified Foods: GMO foods)の安全性などの問題について、激しい議論が繰り返されています。先日、雑誌『Annals of Agricultural and Environmental Medicine」に、遺伝子組み換え食品の長所とリスクが報告されました。


この論文を参考に、現在議論になっている問題点をご紹介させていただきます。


ところで、遺伝子組み換え食品って何でしょうか?


私たち人類は、人類にとってより有用な品種を作り出すため、古くから食物や家畜の「品種改良」を行ってきました。その古典的な方法が、「交配」です。人為的に、同じ品種間でも違う性質の個体同士を、あるいは突然変異で発生した品種と掛け合わせることで、両者の長所を兼ね備えた新たな品種を作りだそうというものです。しかしながら思い描いた通りの品種を交配によって作り出すには膨大な時間と労力を費やしますし、生物の「種の壁」を越えることはできず、限界がありました。そこで新たに出現した技術が、「遺伝子組み換え」です。


私たちは、親とよく似た姿、形や性質を持って産まれますよね。それは、親から子へ生物としての情報が受け継がれること、つまり遺伝によるもので、この遺伝情報を担う主要な因子が遺伝子※1です。「遺伝子組み換え」技術は、目的の遺伝子だけを切り取って動植物の細胞のゲノムDNA※2に組み込むもので、これにより既存の動植物に全くもって新しい性質を持たせることが可能となりました。特に重要なのはこの技術を応用することで「種の壁」を越えることもできるようになった点です。例えば、特定の除草剤を分解する性質を持つ細菌から、その性質の情報を担っている遺伝子を取り出し、大豆の細胞に挿入します。すると、その除草剤に強い大豆ができる、といった具合です。そうしてできた作物や、その作物を原料とした食品を、「遺伝子組み換え食品」と呼びます。


遺伝子組み換え技術が誕生したのは、1970年代のこと。1973年、コーエン博士とボイヤー博士は、大腸菌※3を使って初めて遺伝子組み換えに成功しました。その後、先駆的な遺伝子組み換え植物として、たばこやペチュニア※4が品種改良されました。そして1994年、遺伝子組み換え食品として初めて市場に「日持ちのよいトマト」が導入されました。これは、遺伝子組換え食品の商業化を予想させる出来事だったと言えます。実際、今では多くの食品(作物)に広がり最も一般的なところでは、大豆、トウモロコシ、菜の花、ジャガイモ、トマト、綿などが挙げられます。


専門家によると、米国のスーパーマーケットに陳列された加工食品のうち、約70〜80%が遺伝子組み換え食品と言われています。特に、豆やトウモロコシを使用した食品の約90%は、遺伝子組み換えと言われています。以前ご紹介した異性化糖※5の多くが、遺伝子組み替えのトウモロコシから生産されます。米国に続き、アルゼンチン、ブラジル、インド、カナダ、中国などでも、遺伝子組み換え食品が普及しています。それに対してヨーロッパ諸国はアメリカとは反対の立場にいます。遺伝子組み換え食品に反対する向きが強く、厳しい規制が敷かれているのです。


なお日本では、厚生労働省のホームページによると、現在までに安全性が確認され、販売・流通が認められているのは、食品8作物(大豆、じゃがいも、なたね、とうもろこし、わた、てんさい、アルファルファ、パパイヤ)と、7種類の添加物です。言い換えれば、日本には、遺伝子組み換え食品がたくさん流通しているということです。(疑問の声は上がっても国民的議論に発展せず、総じて無関心という印象を抱いてしまいます・・・)


こうして、この20年間に米国を中心に遺伝子組み換え食品が急増してきた一方で、欧米を中心に、安全性など多くの議論が繰り返されてきました。


指摘されている長所とリスクは、それぞれ以下の通りです。


●遺伝子組み換え食品の長所

1) 低コストに食品生産
2) 食糧難解決
3) 特定の栄養成分に富む品種の生産
4) 日持ちの良い品種の生産
5) 寒さや乾燥など、厳しい気候条件の土地で栽培できる品種の開発
6) 害虫に強い品種の開発
7) 農薬使用量の減少


●遺伝子組み換え食品のリスク

1) ホルモン障害
2) 臓器障害
3) 不妊
4) アレルギー
5) 毒性
6) 農薬使用量の増加
7) 遺伝子汚染※6
8) 環境問題


この長所とリスク、どう思われますか? 次回は、その詳細をご説明いたします。

 

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