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がんにならない食べ物
内科医の私が診療しているとよく患者さんから訊かれることがあります。
「先生、がんにならないためにはどんな食べ物を食べればいいですか?」
(2012年12月、【山大GCOEコホート通信】vol.28 コラムとして配信)
成松宏人 山形大学グローバルCOEプログラム 先端分子疫学研究所 准教授
がんの治療をしている患者さんから「このがんに効く食べ物はありますか?」と訊かれることもあります。
確かに、「これを食べればがんに効く!」とか「これを食べてがんが治った!」など、広告などで目にするような気がしますが、果たしてどこまでは科学的に信じられる話なのでしょうか? このコラムで考えてみたいと思います。
がんと食べ物の関係を明らかにするためには、私たちの行っているような「コホート研究」が最もいい方法です。健康な人を集めて、まず、食生活を調べます。例えば、コーヒーとがんの関係が知りたければ、コーヒーをどれくらい飲むかあらかじめ調べておきます。それから、10年、20年後、コーヒーをたくさん飲む人と飲まない人のグループでそれぞれがんになった割合を比べます。もし、コーヒーを飲むグループの方ががんの割合が多ければ「コーヒーはがんと関係があるのかも!」ということになります。そして、その因果関係をはっきりさせるには、研究室での細胞を使うような実験や、動物実験などの結果もあわせて結論が得られることが実際には多いです。
さて、ではどんな食べ物を食べればがんにならないのでしょうか?国立がん研究センターでは今までの研究をまとめて公表しています。
それを見てみることにしましょう。
まず、野菜とがんの関係をみると食道がんでは罹患リスクが下がるという関係が「ほぼ確実」にあるようです。胃がんでは罹患リスクが下がる「可能性」があります。しかし、一方で他のすべてのがんではデータが不十分でこれといったことが言えません。果物でみると食道がんで罹患リスクが下がるという関係が「ほぼ確実」にあるようで、胃がん、肺がんでは罹患リスクが下がる「可能性」があると言えます。
その他のがんと食事をみてみると、罹患リスクが下がる関係が「ほぼ確実」にあるのはコーヒーと肝がん、上がる関係が「ほぼ確実」にあるのが熱い飲食物と食道がん、食塩と胃がんです。
実はこれだけなんです。実はそれほど分かっていないのが実情です。それには色々な理由があると言われていますが、私はがんの発症にかなりの部分関係していると考えられる遺伝的素因、すなわち体質の関係を今までの研究では考慮することができなかったことが大きいのではと考えています。
今後、新しい発見が山形分子疫学コホート研究から出て行くことを期待しますが、当面は当たり前といえば当たり前ですが、「色々な食べものをバランスよく」ということに尽きるでしょう。色々な食べ物を食べることにより何よりも、「リスクを分散」することができます。例えば、ある食べ物にがんに関係するような今まで分かっていない物質が入っていたとしても、たくさん色々な食べ物を食べることによって、多くの量を日常的に取ることを避けることができます(もちろん他にも色々な利点があります)。
現時点では、「健康に王道はなし」です。