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医療にも「フリーランチ」はないことが分かりにくいわけ

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 突然ですが、あなたは昼食に500円の幕の内弁当を毎日食べていたとしましょう。多彩なおかずの組み合わせにあなたは夢中です。しかし、ある日突然、原材料の値上がりで幕の内弁当が600円に値上がりしました。あなたならどうしますか?

(2013年2月、【山大GCOEコホート通信】vol.29 コラムとして配信)

成松宏人 山形大学グローバルCOEプログラム 先端分子疫学研究所 准教授

 「やっぱり、幕の内弁当はおいしいので、飲みに行くなどの遊興費を減らしてでも幕の内弁当を食べ続けよう。」と考えるか、もしくは、「他のものは削れないので、幕の内弁当はあきらめて400円から500円に値上がりしたばかりののり弁当にして、昼食代の支出はこのまま維持しよう」と考えるかの選択肢を選ぶと思います。どちらもうれしい選択ではありませんがしょうがないです。納得せざるを得ません。

 では、あなたの会社では、月に定額の弁当代を弁当係が回収して、弁当係がまとめて頼むシステムだったらどうでしょう? 幕の内弁当が値上げになったことを社員に伝えて、月額の弁当代の値上げをするか、のり弁当へグレードダウンするかを提案します。が、しかし......

 「収入が多い人から多く弁当代を徴収して幕の内弁当を維持するべきだ!」とか、
 「いやいや、年齢の高い人から多く徴収するべきだ!」とか、 
 「いやいや、年齢の若い人から多く徴収するべきだ!」とか、
 「いやいや、職位の高い人から多く徴収するべきだ!」とか、
 「何がなんでも今のままでの値段で幕の内弁当が食べたい!」とか、
 (中略)色々な意見が出て収拾がつかなくなります。

 そこで、弁当係が「では、お金を出せる人は追加料金を払ってもらって幕の内弁当を注文し、お金を出せない人やお金を出すことを望まない人にはそのままの料金でのり弁を注文することにしましょう」と提案すると、今度は、「幕の内弁当を食べるのは、人間の権利だ!」と主張する人も出てきます。それでもって、ますます収拾がつかなくなります。

 ただ、気づくと大きな声を上げているのはごく一部で、大部分の社員は「俺にはカンケーねーよ」と無関心です。困った弁当係は、そこでいいことを考えます。社員全体名義でお金を借りて、これで値上げ分を補填するのです。月額の弁当代を値上げすることなく、幕の内弁当を食べ続けられます。今の社員は誰もフトコロが痛みませんので、みんな大賛成です。たとえ、未来の社員が借金返済のために2000円ののり弁当を食べる羽目になろうとも...。そもそも、彼らは社員でないので、今意見することもできません。
 
 めでたし。めでたし。以上、弁当物語でした。

 さて、「値上げされる弁当」を「高齢化社会により高騰する医療費」、「社員」を「国民」、「弁当係」を「厚労省」、「社員全体名義の借金」を「国債」に置き換えてもう一度上の文章を読んでみましょう。

 一度、自分の元を離れてしまったお金に関しては当時者意識を持ちにくくなり、それで余計に意志決定やコンセンサス取得のプロセスが複雑になってしまう。そこが医療改革の難しさの一つの要因だと思います。

 ちなみに、この弁当物語には後日談があります。ある日社長が、積み上がった社員全体名義の借金に気づきます。

 「これは、弁当係が集めた弁当代を横領したからに違いない!」と、弁当係を問い質しました。しかし、弁当係はまじめに仕事をしてきているだけなので、(僅かなピンハネはあったとしても)何もお金は出てきませんでした。

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