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素晴らしい技術 紛争のタネ

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 日本メドトロニックが10月から、装着している人も一定の条件下でMRI撮像可能なペースメーカーの発売を始めていたそうです。本日、その記者発表会があったので、出席して勉強させてもらってきました。実に素晴らしい技術だなあと感心した反面、現場でどんなことが起きるだろうと考えたら、何だか釈然としない気持ちにもなりました。

川口恭 『ロハス・メディカル』発行人

 大前提として数を押さえておくと、2011年に37714人(日本不整脈デバイス工業会調べ)の新規ペースメーカー植え込み患者がいたそうです。交換について触れない理由は最後に書きます。

 さて、今回のデバイスそのものに関する詳細は、これをご覧いただくのが良さそうです。

 素人の私にすら、極めて画期的な製品であることは分かります。

 まずMRIが強力な磁場を発生させることは、皆さんもご承知でしょう。磁場の影響で、デバイスが吸い寄せられたり振動したり、はまたま発熱したり、誤作動したりという危険があるため、これまでペースメーカーを装着している人に対してMRI撮像は禁忌だったわけです。

 一方で、ペースメーカー装着者の年齢層とMRI撮像の必要な疾病を発症する年齢層が重なっており、MRI撮像にしか得られない診断上のメリットもあるため、何とかならないかということから話が始まっています。

 メドトロニック社では、97年に素材レベルの基礎研究から始め、磁気の影響を受けやすい材料の削減、ホールセンサによる磁気の影響緩和、「集積回路」を守る構造、センシングかペーシングのどちらかしかしない検査専門モードの採用といったことを組み合わせて、この難しい課題をクリアしました。

 そこから、ファントム(検査用人型)や動物で安全性テストを行い、またコンピュータによるシュミレーション技術を開発して事故につながりかねない40万のシナリオを分析し、その後で450人の患者でのランダム化臨床試験を行って、08年にヨーロッパで承認にこぎ着けたそうです。当初は胸は撮像できないという条件での承認でしたが、10年に全身で承認、11年に米FDAで承認、12年に日本でも承認という流れになっています。

 MRI撮像が可能という以外、患者の費用負担も含めて、既存のペースメーカーと何ら変わるところはないそうで、発表会でMRI撮像の臨床的意義について講演した奥村謙・日本不整脈学会会頭(弘前大学大学院教授)が、質疑応答の際「今後、MRI撮像できないペースメーカーを植え込みしようという場合、患者さんにそのことを説明しないわけにいかないのでないか」と述べたように、「なぜMRI撮像可能なペースメーカーがあったのに、それにしてくれなかったのか」という将来の紛争リスクを考えると、医療機関としては他のものを使えないだろうと感じます。

 画期的な装置である以上、それで構わないのかもしれません。

 しかし一方で、ではそのペースメーカーの植え込みを受けていれば、確実にMRI撮像してもらえるのかという点が、どうも怪しいのです。医薬品医療機器総合機構(PMDA)から承認条件として、日本医学放射線学会・日本磁器共鳴医学会・日本不整脈学会の三学会で策定された施設基準を遵守するよう求められています。

奥村会頭の資料に従って以下に列挙しますと

(施設基準)
循環器科/放射線科を標榜
1.5T円筒型ポアMRI装置
単純X線装置
MRI検査技師のスキル
臨床工学技士
所定の研修の受講
となっており、それはよいとして
(実施条件)
循環器科医師の役割
患者カード
MRI検査マニュアル
検査中の患者モニタリング
不測の事態への対応体制
というのも付いています。

 これだけ読んでも分からないと思うのですが、具体的にはMRI検査を行う場合、必ず主治医→【循環器内科医→ペースメーカー管理医師・技士→放射線科医師・技師】(【】の中は同一の施設)というフローを辿らないといけないのだそうです。

 奥村会頭は、MRIの臨床的意義として、脳梗塞の早期鑑別を例に挙げました。しかし、脳卒中に対応する救急の現場で、しかもどんどん救急崩壊が進んでいくなかで、このフローを「守れ」というのは不可能だと思います。でも基準がある以上、守らなかったら医療側がペナルティを食らうわけで、結果としてMRIを撮ってもらえると思っていたのに撮ってもらえなかったという患者が続出するような気がします。事故があったらいかんからという恐れは分からないでもないのですが、MRI撮像できないんだったら装置のメリットもないわけで、一体何をやっているんだかと釈然としない気持ちになります。

 ペースメーカー植え込み施設の集約化が進むという意義はあるのかもしれませんが、救急施設を同じ規模までは集約できないはずなので、やはりミスマッチは残ることでしょう。紛争のタネとなって、現場の人たちが困らないとよいのですが。

 なお、既にペースメーカーを植え込んでいる方々が、この装置に植え替えるのは「植え替えの際も元のリードをそのまま使うので原則としてやらない。リスクが高いから、感染でもない限り、リード抜去はしない」(奥村会頭)とのことでした。

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