全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

軽度認知障害からアルツハイマー病への進行は海馬委縮とベータアミロイド負荷が鍵

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)において、軽度認知障害者を対象に、海馬委縮とベータアミロイド(Aβ)沈着がどの程度アルツハイマー病への進行を予測するのかを調べたところ、全体的には、どちらの因子も予測能力が高いこと、Aβ沈着が高い群と低い群とを比較すると、高い群で3倍近くアルツハイマー病へと進行することが分かりました。

Brain beta-amyloid measures and magnetic resonance imaging atrophy both predict time-to-progression from mild cognitive impairment to Alzheimer's disease
Clifford R. Jack Jr, Heather J. Wiste, Prashanthi Vemuri, Stephen D. Weigand, Matthew L. Senjem, Guang Zeng, Matt A. Bernstein, Jeffrey L. Gunter, Vernon S. Pankratz, Paul S. Aisen, Michael W. Weiner, Ronald C. Petersen, Leslie M. Shaw, John Q. Trojanowski, David S. Knopman and the Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative
Brain (2010) doi: 10.1093/brain/awq277 First published online: October 8, 2010

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 脳のベータアミロイド(Aβ)沈着の生物標識は、脳脊髄液(cerebrospinal fluid = CSF)のAβ42またはピッツバーグ化合物B(PiB)(*1)造影陽電子放射断層撮影(PET)画像によって測定可能である。本研究の目的は、軽度認知障害からアルツハイマー型認知症への進行時間を予測し、異常性が増すにつれてこれらの生物標識が進行リスクに与える影響を特徴づけるための、Aβ負荷とMRIでの神経変性萎縮の可能性を評価することにある。Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)(*2)から、軽度認知障害の対象者218人が識別された。主要アウトカムは、アルツハイマー型認知症への進行までの時間であった。海馬容積が測定され、頭蓋内容積で補正を加えられた。本研究では、どちらの情報源からも同等の脳Aβ負荷の測定を生み出すために、脳脊髄液Aβ42とPiB PET測定とを共同利用する新しい方法を用い、多重代入法(*3)を用いて結果分析を行った。分析は2相で実施した。第一に、アミロイド陽性か陰性かで2群に分け、一つを165人のアミロイド陽性群としてアルツハイマー病の病態は優勢と仮定し、もう一つを53人のアミロイド陰性群とした。第2相では、軽度認知障害対象者218人すべてを含めて、予期される病態のすべての範囲を含むと仮定した標本における生物標識の評価を行った。Kaplan-Meier生命表分析(*4)において、軽度認知障害を有するアミロイド陽性者は、軽度認知障害を有するアミロイド陰性者と比較して、2年以内に認知症へと進行する可能性がずっと高いことが分かり、陽性者50%に対し陰性者19%であった。軽度認知障害を有するアミロイド陽性者においてのみ、海馬萎縮がより短い進行までの時間を予測したが(P<0.001)、Aβ負荷ではそうならなかった(P=0.44)。対照的に、アミロイド陽性か陰性かに関係なく軽度認知障害対象者218人を一緒にすると、海馬萎縮とAβ負荷両方がより短い進行までの時間を予測し、四分位間での差によるハザード比は両者ともに2.6となった。しかしながら、リスクプロファイルは、海馬萎縮では値の幅を通じて直線的であったが、Aβ値では、境界値より高いある一定の値で頭打ちとなり非線形であった。本研究結果は、Aβ沈着が病態連鎖の始まりとなるが、Aβ負荷は高レベルにおいては進行リスクから分離されるという事実によって明らかなように、認知機能障害の直接的な原因ではない、というアルツハイマー病モデルに一致するものである。対照的に、海馬萎縮は、人が神経変性の道に沿ってどのくらいの所まで進んでいるのかを示しており、認知症にどのくらい近づいているかを示すことになる。多くの軽度認知障害対象者が中程度のAβ負荷であるという本研究結果の説明可能性として、以下のことが挙げられる。
1 個人個人が、異なる絶対レベルでAβ負荷安定期に達するかもしれない。
2 中には、他の人よりもAβに対して生物的に感受性の強い人がいるかもしれない。
3 Aβが中程度の軽度認知障害者は、他の病態と共存するアルツハイマー病有病者を象徴するのかもしれない。

●背景

 アミロイド蓄積は、最初に認知的症状が現れる数十年も前に始まるというエビデンスがある一方で、解剖学的なMRIは、疾病過程のより遅い段階で異常を示してくる。これらのことから、2種類の生物標識における異常と、軽度認知障害からアルツハイマー病へ進行する時間依存リスクとの関連は、異なるのかもしれないことが示唆されるのであり、知る限りにおいて、このことはまだ調査されていない。

 本研究では、CSFのAβ42測定値をPiB PET単位に変える新たな方法を用い、Aβ負荷に関するどちらかの測定値しか有さない患者データを、多重代入法を用いて蓄積した。本研究の目的は、以下の通りであった。
1 軽度認知障害からアルツハイマー病へのより短い進行予測のための、MRIによるAβ負荷と神経変性の生物標識の可能性を測定する。
2 これら2種類の生物標識の重症度がどのように進行までの時間に影響するのかを、生物標識重症度が非線形関数になる可能性として、ログ相対ハザード推定によって測定する。

 軽度認知障害の臨床的基準を満たした対象者の病原学的不均質を本研究の議論に組み入れるため、分析を2相で実施した。第一に、対象者をアミロイド陽性者と陰性者に分類し、陽性者においてはアルツハイマー病が優勢な病態であると仮定した。第2相では、軽度認知障害対象者すべてを含め、軽度認知障害の臨床的症状に関して予期される病態のすべての範囲を含むコホートにおける、予測因子としてのMRIとAβ負荷の生物標識を比較しようとした。

●方法

(1)対象者
 軽度認知障害診断を受け、1度以上追跡調査評価を受けた218人が、ADNIから識別された。対象者は、軽度認知障害診断を有するとともに、腰椎穿刺またはPiB PETを受けなければならなかった。主要アウトカムは、軽度認知障害の臨床的診断からアルツハイマー病への進行までの時間であった。認知症は「精神障害の診断と統計の手引き-第4版」
基準に従い、アルツハイマー病は「国立神経疾患・伝達障害研究所、および脳卒中/アルツハイマー疾患・関連疾病協会」の基準に従い診断された。

(2)MRIの測定方法
 ADNI研究のためにメイヨークリニックで開発された、MPRAGE法によるスキャンを全対象者が受けた。すべての画像は、歪みに対する修正がされた。海馬容積と総頭蓋内容積は、メイヨークリニックにてソフトウェアを用いて計測された。比例ハザードモデルの共変数として総頭蓋内容積を含めることにより、海馬容積は、総頭蓋内容積で補正を加えられた。

(3)アミロイド画像測定方法
 PiB PET画像撮影は13カ所で実施され、すべてのPiB PET定量的画像解析は、全自動画像処理パイプラインを用いてメイヨークリニックで実施された。空間的に登録された各対象者のMRIを用いて、PiB PET画像の部分容積効果修正および関心領域の鮮明化の作業を行った。解剖学的ラベル付けが自動的に行われた。全体的な皮質のPiB PET滞留合計は、加重平均を用いた前頭前野皮質・眼窩前頭皮質・頭頂皮質・側頭皮質・前帯状皮質・後帯状皮質・楔前部皮質の値合計として構成された。

(4)脳脊髄液測定方法
CSFはそれぞれの場所で採取され、ポリプロピレン輸送用チューブに入れられ、採取から1時間以内にドライアイスの上で凍結され、夜のうちにペンシルバニア大学メディカルセンターにあるADNI Biomarker Core Laboratoryへと、ドライアイスに乗せられ輸送された。CSFのベースライン時分取それぞれにおける生物標識濃度定量化のため、標準プロトコルが実行された。

(5)統計方法
 軽度認知障害からアルツハイマー病への進行の相対ハザードに対する、Aβ負荷と海馬容積の影響予測のため、比例ハザードモデルを用いた。モデルにおいては、相対ハザードが高まることは、発生までの時間が短くなることと直接的に関係する。それぞれの対象者に対する時間0は、PiB PET画像を持って、またはPiB PET画像撮影に参加しなかった場合はCSFとともに、最も早く訪れた日付と定義した。発症時間は、対象者が軽度認知障害と診断された最後の訪問と、認知症と診断された最初の訪問の中間点と定義した。認知症への進行が認められなかった対象者は、それぞれの最後の訪問で中途打ち切りとなった。認知症に含まれる基準を満たすものの、アルツハイマー型認知症ではない臨床的診断を受けた2人は、この時点でもはやアルツハイマー型認知症に対するリスクはなく、一方でベースライン時の基準は満たしていたので発生までの時間分析において除外するのは不適切であろうことから、発生時に中途打ち切りとした。

 対象の主要予測因子は、共変数として総頭蓋内容積を含む海馬容積とAβ負荷であった。予測因子とログハザードとの間の非線形関係も考慮し、3次スプラインを用いての分析も実施した。それぞれの生物標識に関して、25・50・75パーセンタイルでの比較に基づくハザード比を報告した。Aβ負荷に関しては高い値ほど異常であり、海馬容積に関しては低い値ほど異常であることから、Aβの75パーセンタイル対25パーセンタイルでの比較は、海馬容積での25パーセンタイル対75パーセンタイルに相当する。

 脳のAβ負荷は、PiB PETにおいて使用される皮質の小脳に対する割合で表され、幅は1.0~3.0である。これらの値は、CSF Aβ42またはPiB PETから引き出されたAβである。CSF Aβ42をPiB PET値に変換するのには、多重代入法を用い、どちらの情報源からであれ、Aβ値を蓄積した。腰椎穿刺時にPiB PETに参加した41人の基準データセットを、PiB PET滞留・CSF Aβ42・アポリポ蛋白Eε4対立遺伝子保有者かどうかにおける関係推定に用い、関係式を算出し多重代入法による置き換えを行った。

 アミロイド負荷に関しては、1.5を境界値として、1.5以下と1.5超での2分類でのKaplan-Meier生命表分析を実施した。

●結果

(1)第1相
 PiB PET値1.5を境界値として、アミロイド陽性とアミロイド陰性に分けた。アミロイド陽性者165人は、ベースライン時でアミロイド陰性者53人と比較すると、より頻繁にアポリポ蛋白Eε4保有者で、臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating=CDR)の合計点が若干だがより悪く、海馬容積がより少なかった。アミロイド陽性者は、進行ハザード比3.2(信頼区間95% 1.4~7.1、P=0.004)と高くなっており、Kaplan-Meier生命表分析では、50%のアミロイド陽性者が2年で認知症へと進行するのに対して、アミロイド陰性者では19%となった。

 アミロイド陽性者では、アミロイド負荷分布の75パーセンタイル対25パーセンタイルの進行ハザード比は、1.2(信頼区間95% 0.9~1.8、P=0.44)であった。海馬容積の25パーセンタイル対75パーセンタイルでのハザード比は、2.0(信頼区間95% 1.5~2.8、P<0.001)となった。進行のログ相対ハザードと委縮性海馬増加との関係は、基本的に線形であった(P=0.93、対非線形スプラインフィット)。

(2)第2相
 軽度認知障害対象者全員218人を一緒にすると、進行なしでの追跡調査期間中央値1.7年の間で、89人が軽度認知障害から認知症へと進行した。質的な面で、進行者と非進行者との間に年齢や教育での差異はなかったが、女性の割合は非進行者より進行者が高かった。進行者群は、ベースライン時で非進行者群と比較すると、アポリポ蛋白Eε4保有者割合がより高く、ミニメンタルステート検査得点とCDR総合点が若干悪かった。また、ベースライン時で非進行者群と比較すると、進行者群はAβ負荷がより高く、海馬委縮がより進んでいた。個々の対象者によって追跡調査期間が異なるため、進行者群と非進行者群での直接的統計的比較は不適当であり、発症までの時間に関する統計的手法の結果はハザード比によるものである。軽度認知障害の全対象者において、Aβ負荷分布75パーセンタイル対25パーセンタイルでの進行ハザード比は、2.6(信頼区間95% 1.5~4.5)となり、海馬容積の25パーセンタイル対75パーセンタイルでのハザード比は、2.6(信頼区間95% 1.8~3.8)となった。比較対象のパーセンタイルが逆になっているのは、Aβ負荷が高いほどよりリスクが高いことと関連し、海馬容積が少ないほどよりリスクが高いことと関連するからである。Aβ負荷とMRIの両方が、全体として進行に対する非常に有意な予測因子となった(両者ともにP≦0.001)。進行のログ相対ハザードと委縮性海馬の増加との関係は、基本的に線形であった(P=0.60、対非線形スプラインフィット)。対照的に、Aβ負荷と進行のログ相対ハザードの関係は明らかに非線形となり(P=0.06)、Aβ負荷2.0を超えた所でログ相対ハザードにおける天井値に達した。

 海馬容積における、25パーセンタイル対50パーセンタイルのハザード比は1.6(信頼区間95% 1.3~1.8、P<0.001)、50パーセンタイル対75パーセンタイルのハザード比も同様に1.7(信頼区間95% 1.2~2.2、P<0.001)となった。対照的に、Aβ負荷においては、50パーセンタイル対25パーセンタイルのハザード比が2.3(信頼区間95% 1.4~3.8、P<0.001)となり、75パーセンタイル対50パーセンタイルのハザード比1.1(信頼区間95% 0.9~1.4、P<0.001)の2倍となった。

 Aβ負荷とアポリポ蛋白Eε4状態は密接に関係しており、ε4保有者が非保有者よりもAβ負荷が高い傾向にあったが、アポリポ蛋白Eε4と海馬委縮との間には、ずっと弱い関連しか見られなかった。

●考察

 本研究からの主要結果は以下の通りである。
1 軽度認知障害を有するアミロイド陽性者は、軽度認知障害を有するアミロイド陰性者と比較して、アルツハイマー病の臨床的診断へと進行する可能性が高く、2年後までに進行する割合は、陽性者50%対陰性者19%であった。
2 軽度認知障害を有するアミロイド陽性者のみでは、海馬委縮がより短い時間での進行を予測する(P<0.001)のに対して、アミロイド負荷は予測することにはならなかった(P=0.44)。
3 対照的に、軽度認知障害を有するアミロイド陽性者および陰性者全員218人を対象にすると、海馬委縮とAβ負荷が同等の検出力で進行までの時間を予測した。
4 しかしながら、全対象者における分析では、これら2種類の生物標識の影響が異なっており、海馬委縮は全体的に直線的であったのに対して、Aβ負荷は境界値よりも高い所で天井に達し、直線的ではなく非線形となった。

↓↓↓当サイトを広く知っていただくため、ブログランキングに参加しました。応援クリックよろしくお願いします。


1 |  2 
  • 「認知症 それがどうした!」電子書籍で一部無料公開中
  • Google+
  • 首都圏・関西でおなじみ医療と健康のフリーマガジン ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索