全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

アルツハイマー病治療薬開発の様々

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 皆さんもご存じの通り、現在のアルツハイマー病治療薬は、症状を緩和するのみであり、根本的治療を提供するものではありません。そこで、どのような研究や試験が行われてきているのかについて、特にベータアミロイドとタウに的を絞ってお伝えいたします。対象論文からの一部抜粋抄訳です。


Current advances in the treatment of Alzheimer's disease: focused on considerations targeting Aβ and tau
Yang Hong-Qi, Sun Zhi-Kun, Chen Sheng-Di
Translational Neurodegeneration 2012, 1:21 doi:10.1186/2047-9158-1-21

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 アルツハイマー病は、高齢者において、主に記憶機能と認知機能を損なう神経変性障害である。細胞外ベータアミロイド沈着と細胞内タウ過剰リン酸化が、アルツハイマー病における神経細胞機能障害をひき起こすと考えられている二つの病理上の事象である。アルツハイマー病の病因の根底にある詳細な仕組みがいまだに明らかではないため、現在の治療は、アルツハイマー病患者の症状を緩和することのできる薬剤によるものとなっている。最近の研究は、これらの症状緩和薬剤が、アミロイド前駆体タンパク質処理やタウのリン酸化を調整する能力も有していることを示してきている。このように、これらの薬剤の薬理的な仕組みは、簡易評価され過ぎかもしれない。本レビューでは、アルツハイマー病治療の現状をまとめるとともに、ベータアミロイドとタウに的を絞った潜在的前臨床的考察も議論する。

●はじめに

 アルツハイマー病は、記憶障害と認知機能障害の潜行的な開始・精神的症状や行動障害の出現・日常生活動作障害によって臨床的には特徴づけられる進行性の神経変性疾患である。高齢者において見られる認知症の最も多い型となっている。85歳を超える人でのアルツハイマー病有病率は、25~50%に上るかもしれないと推測されており、アルツハイマー病は、高齢者における最も重要な医療問題の一つとしてますます認識されていている。高齢者数の増加と寿命の延長に伴い、より多くの人がアルツハイマー病にかかり、家族・介護者・社会全体に大きな経済的負担をかけることになるであろう。アルツハイマー病の病態生理学の根底にある詳細な分子機序はいまだに明らかになっていないため、今のところ、アルツハイマー病に対する利用可能な薬物療法は、主として米国食品医薬品局(FDA)に承認されているコリンエストラーゼ阻害剤(ドネペジル・ガランタミン・リバスチグミン・フペルジンA)とNメチルDアスパラギン酸(NMDA型グルタミン酸)受容体拮抗薬(メマンチン)、ならびにいくつかの神経保護剤で構成されている。これらの薬剤はアルツハイマー病患者の心理的そして行動的症状のいくらかを確かに緩和するが、アルツハイマー病の予防と治療に対する効果的な薬理学的介入、すなわち根本的治療法は欠落しているのである。

 過去10年間の間に、アルツハイマー病の病因に対しては、多くの仮説が唱えられてきた。それらのうちで、ベータアミロイド(Aβ)カスケードとタウ過剰リン酸化が、広く受け入れられてきている理論である。このように、根本的治療法は、主としてAβ産出量とタウ過剰リン酸化を減少させる薬剤に焦点を合わせている。本レビューでは、潜在的な根本的治療法と前臨床的ならびに臨床的評価を現在受けている化合物について扱うこととする。

(2)コリンエストラーゼ阻害剤
 検死解剖研究は、アルツハイマー病の脳におけるコリン取り込みやアセチルコリン放出の減少・コリン作動性ニューロンの進行的損失を示した。コリン作動性欠損説は、アルツハイマー病の症状が前シナプスにおけるアセチルコリンが減少することによってひき起こされ、低下を抑制することでアセチルコリンを増加させることが、アルツハイマー病における記憶障害や認知機能障害を改善するはずであると主張している。
 1993年以来、FDAは、軽度から中度のアルツハイマー病治療に対して、1993年のタクリン・1996年のドネペジル・2000年のリバスチグミン・2001年のガランタミンと四つのコリンエストラーゼ阻害剤を承認してきた。しかし、タクリンは、肝毒性・胃腸への副作用・経口での生物学的利用能の乏しさ・服用回数の多さから、後に放棄された。多センター型無作為二重盲検臨床試験が、ドネペジルとガランタミンは、認知機能や全体的機能および日常生活動作の改善や維持に効果的であることを、対照群との比較において示した。ドネペジルやガランタミンによる副作用は通常軽く、使用の継続とともに弱くなり、食物と一緒に服薬することによって最小限に抑えることができる。ブチルコリンエストラーゼも、健康な脳やアルツハイマー病の影響を受けた脳において、アセチルコリンを低下させることが発見されており、アルツハイマー病治療に対する追加標的となっている。リバスチグミンは、アセチルコリンエストラーゼとブチルコリンエストラーゼ両方の阻害剤で、臨床試験は、プラセボとの比較で、アルツハイマー病患者においてはっきりとした副作用なしに認知力や機能障害を改善する効果のあることを示した。
 上述の効果に加えて、ドネペジルとリバスチグミンは、アミロイド前駆体タンパク質の処理にも影響を及ぼすことができ、コリン作動性欠損説は単純過ぎており、アセチルコリンバランス回復の他にもまだ別の仕組みが存在するかもしれないことを意味しているのである。コリン作動性系は、アルツハイマー病における神経毒性に対する原因となる二つの蛋白質、すなわちAβとタウの産生において役割を果たしているかもしれない。
 FDAによって承認されている薬剤を除いては、まだ多くの他のコリンエストラーゼ阻害剤が臨床試験中となっている。例えば、フェンセリン治療は、アルツハイマー病患者における認知力と糖に対する局所脳代謝率を増加させた。コリンエストラーゼ阻害剤でNMDA拮抗薬でもあるディメボンでの臨床試験は、アルツハイマー病における認知機能および自己対応機能を改善させる一方で、精神病的症状を減少させることを示した。中国の薬草で、可逆的に選択的にアセチルコリンエストラーゼ阻害活性を有するフペルジンAは、低から中程度の排出率で体内での迅速な吸収と広範囲への行きわたりというよい薬物動態を発揮した。臨床試験では、0.4mgの処方でアルツハイマー病における認知機能増進を示し、アルツハイマー病に対する潜在的治療選択肢であるようだ。一つの分子中にモノアミン酸化酵素AとBおよびコリンエストラーゼ阻害活性を有し複合型神経保護効果のあるラドスチギルは、アルツハイマー病に向けて第2相臨床試験で分析され、結果はまだ発表されていない。ドネペジルは、軽度から中度のアルツハイマー病患者に対して1日あたり5~10mg服用として最初は開発されたが、中度から重度のアルツハイマー病治療に対して、より多い用量である1日あたり23mgの服用が最近米国で認可された。ドネペジル23mg/日に対する第3相試験における十分な安全性と予測可能な許容度が、重度アルツハイマー病患者における有利な危険度/受益度割合を支持している。リバスチグミンは、アルツハイマー病患者での認知機能と全般的機能の改善に効果的だが、吐き気や嘔吐の発生が、臨床診療での高用量保持を困難にしている。薬剤を皮膚を通じて直接的に血流に届けることにより、経口コリンエストラーゼ阻害剤と比較して、貼付剤(経皮パッチ)は吐き気や嘔吐の割合を減少させ、アセチルコリンエストラーゼ治療の次世代を代表するものとなっている。ドイツにおける経皮リバスチグミンに対しての4週間の前向き多センター型観察研究では、患者の11.7%に、主に皮膚または消化管に影響を与える有害事象が出た。有害事象によって治療を中断された患者は、小さな割合に過ぎなかった。リバスチグミン治療とともに、向精神性併用薬を服用する患者割合が減少し、これらの結果は、比較対象臨床試験のデータに則したものとなった。まだ他の候補薬が試験中であり、データが発表されるはずである。

(3)Aβ標的戦略
 アルツハイマー病の顕著な特徴の一つは、海馬における老人斑の存在であり、主にAβ40-42アミノ酸ポリペプチドの細胞外沈着から見られるものである。Aβは、大きな膜貫通タンパク質、すなわちAβ配列のN末端でのβセクレターゼとC末端でのγセクレターゼという、二つのタンパク質分解酵素の連続的タンパク質加水分解によるアミロイド前駆体タンパク質から奪われる。あるいは、アミロイド前駆体タンパク質は、Aβ配列内のαセクレターゼによっても産生され得るもので、Aβペプチドの形成を排除するのみならず、可溶性神経栄養性の可溶型アミロイド前駆体タンパク質αを生成している。多くの実験が、Aβは神経毒であり、凝集し沈着を形成し最終的には神経細胞機能障害に至ることを示している。脳におけるAβの病的な蓄積は、酸化ストレス、神経細胞機能障害、最終的にアルツハイマー病の臨床的症状へと至る。この仮説に従い、アルツハイマー病の二次予防は、Aβ産生を減少させ、形成されたAβの排除を刺激し、Aβ蓄積がアミロイド斑になるのを防ぐことによって成される可能性がある。

①βセクレターゼ阻害剤
 βセクレターゼ、またはアミロイド前駆体タンパク質βサイト切断酵素=BACE1、の治療的可能性は、いくつかの研究によって示されてきている。BACEノックアウトマウスは正常に発育し、野生型同腹子との表現型差異を示すことなく、アミロイド前駆体タンパク質からより少ないAβを産生した。BACE阻害剤の側脳室注入は、脳のAβ40およびAβ42の有意な用量・時間依存低下、可溶型アミロイドβ前駆体タンパク質β分泌の強力な低下、可溶型アミロイドβ前駆体タンパク質αの分泌増加に至る。一方で、別の阻害剤KMI-429のアミロイドβ前駆体タンパク質遺伝子導入マウスの海馬への注入は、Aβ産生を低下させた。動物および細胞段階のどちらにおいてもデータは実用的であるが、使用された薬剤はほとんど小ペプチドで、血液脳関門を貫く能力を伴う臨床的応用には適切ではない。血液脳関門を貫くことのできる小分子による新薬剤開発が望まれる。最近、アミロイドβ前駆体タンパク質遺伝子導入マウスにおいて、非ペプチド性BACE1阻害剤、GSK188909の経口投与が、脳におけるAβ40およびAβ42の有意な低下という結果になった。抗血小板活性化因子活性を有する新しいコリンエストラーゼ阻害剤であるPMS777が、BACE1に対する効果は明らかではないが、SH-SY5Y細胞とPC12細胞における可溶型アミロイドβ前駆体タンパク質α分泌とAβ42放出を低下させることができた。モーリス水迷路テストによって明らかなように、スコポラミンによって誘発された認知症のマウスにおいて、記憶力と認知力が増加した神経保護が、治療的可能性を示唆した。小分子によるアミロイドβ前駆体タンパク質の二量化阻害は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)で測定できるようなAβ値における減少という結果になった。この効果は可溶型アミロイドβ前駆体タンパク質β値の低下に伴うもので、二量化を阻止することが、アミロイドβ前駆体タンパク質のアミロイド形成的産生でのβセクレターゼによる切断を予防できることを示している。このように、アミロイドβ前駆体タンパク質の二量化阻害は、Aβ産生を低下させる実行可能な手段かもしれないのである。最近、転写・転写後・翻訳語レベルからのBACE1の厳格な調節機構が徐々に例証されており、近い将来において臨床的応用に対する新たな識見を提供するかもしれない。

②γセクレターゼ阻害剤/修飾物質
 γセクレターゼ阻害剤DAPTでのアルツハイマー病マウス/ラットの治療は、血漿および脳脊髄液(CSF)におけるAβ値の低下という結果になった。データは、BMS-299897やMRK-560のような別のγセクレターゼ阻害剤でも実用的なものである。もう一つのγセクレターゼ阻害剤LY450139二水和物は、軽度から中度のアルツハイマー病患者70人での無作為比較対照試験において研究された。結果は、血漿のAβ40を38%、CSFのAβ40を4.5%減少させることを示し、治療はうまく耐容性を示した。軽度アルツハイマー病患者でのタレンフルビルの二重盲検プラセボ比較対照第3相研究は、認知的アウトカムや機能的アウトカムに対して何の受益も示さなかったため、残念なことに計画は中止された。成長と発現に必要となる切痕も、γセクレターゼの基質である。γセクレターゼ阻害剤の切痕関係副作用、すなわち重篤な胃腸および造血性副作用や神経変性は、今のところ臨床的に有効なγセクレターゼ阻害剤の開発を妨げてきている。このようにして、薬剤開発は、より短い非毒性Aβ断片産生のためにγセクレターゼ切断点変更を目的として、今やγセクレターゼ修飾物質の開発に集中している。タレンフルビルのような非ステロイド性抗炎症薬のいくつかは、有望な候補である。軽度から中度のアルツハイマー病患者でのタレンフルビル第2相試験は、プラセボ群との比較で、主要アウトカムである全体的機能と日常生活動作での有意な改善を示し、認知機能改善に向けてのプラス傾向となった。投与の5カ月後にPDAPP遺伝子導入マウスにおいてAβ沈着が減少し、ヒトの志願者における新たに合成されるAβでの統計的に有意な減少もあるが、第3相試験の結果は、プラセボ対照群との比較において、タレンフルビルで治療を受けた患者が認知力と日常生活動作での低下増大を示したことを証明し、中断された。作用の極めて複雑な機序を伴うので、この化合物介在性の症状悪化は、切痕信号伝達への影響と関係あることも除外できないのである。

③αセクレターゼ活性剤/修飾物質
 αセクレターゼとβセクレターゼはアミロイドβ前駆体タンパク質の同じ基質を競い合っており、αセクレターゼ活性の上向き調節は、βセクレターゼが利用可能なアミロイドβ前駆体タンパク質量を減少させるかもしれず、治療的可能性がある。多くの研究は、タンパク質のアダマリシン属、主としてADAM10・ADAM17・ADAM9が、αセクレターゼの要求基準のいくつかを満たすことを示した。遺伝子導入マウスにおけるADAM10の過剰発現は、アミロイドβ前駆体タンパク質単一遺伝子導入マウスとの比較において、海馬におけるより少ないアミロイド沈着や脳ホモジネートにおけるより低いAβ値のみならず、長期増強とモーリス水迷路テストによって評価される神経機能も向上させた。多くの研究は、今のところアルツハイマー病に対して効果的な薬剤すべてが、αセクレターゼ活性を増大させることができると示した。我々による先行研究は、プロテインキナーゼC活性剤TPPBが、αセクレターゼ活性を増大させAβ分泌を減少させることを示した。SIRT1は、αセクレターゼADAM10に対する遺伝暗号を活性化させ、アルツハイマー病遺伝子導入マウスにおけるAβ産生を抑制することができた。アルツハイマー病進行を遅らせるために使用される神経保護剤であるデプレニールは、ADAM10とプロテインキナーゼCα/εの転座を促進することにより、αセクレターゼ活性を増大させることが示された。アルツハイマー病の病因における後成的関わりがますます例証されるにつれて、プロテインキナーゼC活性とヒストンデアセチラーゼ阻害特性を有する化合物が、症状的緩和のみとは対照的に、アルツハイマー病治療における根本的効果を示す治療法への新たな取り組み方を提供するかもしれない。このことは、いくつかの経路を通じてαセクレターゼを刺激することが治療的可能性を有しているかもしないことを意味しており、研究は進行中であり、臨床的データは現在のところ利用可能とはなっていない。

④アポリポ蛋白E(APOE)がAβ除去を促進
 最近の研究が、散発性アルツハイマー病におけるAβ沈着を説明するのは、Aβの産生増加というよりは除去/分解の低下であったことを示してきている。APOEε4対立遺伝子の保有は、散発性アルツハイマー病の晩年での発症リスクを増大させるが、詳細な仕組みはまだ知られていない。核内受容体刺激を通して、APOE脂質化が高められる。脂質化したAPOEは、Aβ分解のために小膠細胞、そして/または、星状細胞を活性化する。脂質化されたAPOEは、アルツハイマー病遺伝子導入マウスにおいて、脳のアミロイド斑負荷を減少させ、行動機能を改善した。さらに、Aβ除去に対するAPOEの効果は、APOEアイソフォーム依存でもあり、Aβ除去促進において、APOE2が最も強い効果を示し、APOE4は有意により効果が劣るのである。核内受容体介在性で、APOE主導型治療法が、脳のAβ値を低下させ、アルツハイマー病予防における根本的可能性を有することができるのかもしれない。ベキサロテンは、核内受容体修飾物質でありAPOE活性化物質であるが、アルツハイマー病予防に効果的であるかどうかは、臨床的に検証される必要がある。

⑤Aβの血液脳関門輸送に影響を与える薬剤
 終末糖化産物受容体は、血管壁細胞に存在し、終末糖化産物の脳内蓄積を助長するために、Aβを体循環から血液脳関門を越えて輸送する。終末糖化産物受容体とは対照的に、LDL受容体関連タンパク質1は、Aβペプチドの脳外への輸送を取り次ぐ。アルツハイマー病患者においては、LDL受容体関連タンパク質1が低下される一方で、終末糖化産物受容体は高められている。マウスの遺伝子導入モデルにおいて、終末糖化産物受容体配位子相互作用の阻害が、脳の柔組織内のAβ蓄積を抑制している。このように、終末糖化産物受容体阻害、そして/または、LDL受容体関連タンパク質1活性化が、アルツハイマー病に対する治療的目標となるかもしれないが、臨床的データは現在のところ利用可能とはなっていない。

(4)タウ病態基づく治療
 タウは、通常神経細胞に存在する、微小管結合タンパク質である。アルツハイマー病においては、過剰リン酸化タウが、対(つい)らせん状細線維を形成する。この過程は、軸索内輸送をひどく損なう。タウ異常と過剰リン酸化を発現する遺伝子導入動物モデルの最近での開発に従い、アルツハイマー病のようなタウオパシー治療に対する、多くのタウ集中標的が出現している。

①タウのリン酸化予防
 アルツハイマー病において、タウのリン酸化は劇的に増大し、抗アルツハイマー病治療として、タウキナーゼ阻害剤が使用可能であることを示している。タウのリン酸化は、様々なキナーゼとホスフォターゼによって統制されている。タンパク質脱リン酸化酵素(PP)-2Aの活動は、タウの脱リン酸化を高めるかもしれない。PP-2Aは、タウをリン酸化するMAPKのようなキナーゼの阻害もする。サイクリン依存性キナーゼ5(CDK5)は、アルツハイマー病においてタウをリン酸化することが示されているキナーゼである。脳内でのCDK5活動が、p25活性化物質の過剰発現によって活性化された遺伝子導入マウスは、いくらかのタウ病態とともに著しい神経変性のエビデンスを示している。ヒトのアルツハイマー病脳においてp25濃度は高まることが報告されてきている。それ故に、CDK5の阻害が、タウのリン酸化を抑制し、濃縮体形成を予防するかもしれない。報告されているように、CDK5阻害剤は、タウ遺伝子導入マウスのいくらかにおいて、病態発現に対する影響を与えるようである。今までのところ、ヒトにおけるCDK5阻害剤の使用報告は存在していない。

 グリコーゲン合成酵素キナーゼ(GSK)-3βも、濃縮体形成阻害を目標にした薬剤として提唱されてきている。このキナーゼが、培養における、そして遺伝子導入マウスの脳における細胞内でタウをリン酸化できることは、よく確立されている。このキナーゼは、気分安定剤ないしは抗抑うつ治療を増強するために長い記録を有する、リチウムによって阻止され、動物モデルにおいては、受益効果を示しながらタウのリン酸化を阻害している。リチウムは、アルツハイマー病予防のために、特に早い段階での発症となる初老性の家族性アルツハイマー病リスクを抱える人において、使用できる可能性が報告されてきている。M1ムスカリン作用薬AF267B(NGX267とも称される)は、遺伝子導入マウスにおいて、GSK-3βの活動を阻害し、タウ病態を低下させることが示されてきている。

 活性化したMAPKが、ヒトのアルツハイマー病における神経原線維濃縮体に関連することが報告されてきている。タウ遺伝子導入マウスにおいて、このキナーゼの非特異性阻害剤が使用され、明らかにいくらかの有益な結果が得られた。しかし、GSK3やCDK5のように、細胞代謝におけるこのキナーゼの多面的役割によって、そのような阻害剤がヒトの研究において成功する可能性を低下させるかもしれないという懸念がある。

②タウの凝集予防
 タウは、通常可溶性のタンパク質だが、神経原線維濃縮体形成過程においては、不溶解性の糸状凝集となる。通常は可溶性単量体タンパク質が不溶解性の糸状凝集へと転換する原因となる仕組みは、集中研究の主題、そして、いくつかの薬剤開発の目標となってきている。タウに対する他の取り組みには、直接的に、またはタンパク質加水分解を阻害することにより、タウの凝集を阻止することが含まれている。リン酸化とは独立したタウの凝集阻害剤は、細胞培養においては発見され、試験されてきている。細胞モデルを使った最近の研究は、特定の薬剤での阻害剤が、タウタンパク質の凝集を予防し、発現してしまった凝集を分解することさえ証明してきている。これらの最初の発見は有望ではあるが、生体内での研究が、タウ凝縮阻害剤の有効性と安全性を証明するために依然必要となっている。

●結論

 アルツハイマー病の病因は、遺伝子的そして環境的要因の両方に関わる複合過程となっており、それ故に、効果的な根本的治療薬剤の開発が難題として与えられているのである。アルツハイマー病患者に対する現在の治療法は、一時的な改善を与え、認知低下度合を減少させることによって、症状を緩和しているかもしれない。ずらりと並んだ利用可能な分子目標および治療可能化合物を特定することに向けた飛躍的進歩を考慮すると、発症を実質的に遅らせ、あるいはアルツハイマー病の進行を緩和するような介入の開発が予想され得るのである。

↓↓↓当サイトを広く知っていただくため、ブログランキングに参加しました。応援クリックよろしくお願いします。

  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索