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収縮期高血圧と高コレステロールはアルツハイマー病リスクを高める

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 フィンランドで地域住民対象に、血圧およびコレステロール値と認知症リスクとの関連を調査したところ、中年期において収縮期血圧が高くコレステロール値も高いと、晩年期にアルツハイマー病発症リスクが高くなることが分かりました。

Midlife vascular risk factors and Alzheimer's disease in later life: longitudinal, population based study
Miia Kivipelto, Eeva-Liisa Helkala, Mikko P Laakso, Tuomo Hänninend, Merja Hallikainen, Kari Alhainen, Hilkka Soininen, Jaakko Tuomilehto, Aulikki Nissinen
BMJ 2001; 322 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.322.7300.1447 (Published 16 June 2001)

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 血管病の危険因子は、アルツハイマー病の危険因子でもあるかもしれない。横断的研究のいくつかは、血圧およびコレステロール濃度の晩年期における認知機能との関係を調査してきているが、結果は相争うものとなっている。さらに、横断的研究の限界の一つは、容易に因果関係を決めることはできない点である。この欠点は、縦断的な集団ベースの研究により、いくぶんか乗り越えることが可能である。二つのそのような研究が、血圧が上がることはアルツハイマー病発現に先んずるとの結果を示してきている。一つは、スウェーデンの70歳人口を9~15年追跡調査しており、もう一つは、平均年齢53歳の日系アメリカ人男性を25年間追跡調査している。加えて、アルツハイマー病のある70~89歳のフィンランド人男性は、アルツハイマー病発症の15~25年前に血清コレステロール濃度が上がっていたことが分かった。

 アルツハイマー病の神経変性過程は中年期において始まるかもしれないので、アルツハイマー病の初期危険因子を識別することは重要となる。これらの危険因子識別は、アルツハイマー病の病態生理にいくらか光を放つかもしれず、その予防と治療に新たな潜在的手段も提供するかもしれない。血管危険因子とアルツハイマー病との関連を示す予備的研究結果は、独立した集団において繰り返される必要があり、今までに集団ベース研究が、中年期における血圧とコレステロール濃度両方と晩年期におけるアルツハイマー病との関連を両性別で評価したことはないのである。本研究では、中年期において血圧とコレステロール濃度が上がることが、引き続くアルツハイマー病発現に与える推定上の影響を、集団ベース標本において調査した。

●方法

(1)対象者
 1972、1977、1982、1987年に実施された、フィンランドのノースカレリアプロジェクトおよびFINMONICA研究の枠組みの中で研究された四つの独立した集団ベース標本から対象者を引き出した。1997年末まで生存していた65~79歳で、二つの地理的に特徴づけられた地域クオピオとヨエンスーという都市内または近郊に居住している人が研究対象となった。2,293人中無作為抽出標本2,000人が、1998年に実施された再調査に誘われた。72.5%にあたる1,449人が参加した。平均追跡調査期間は21年(標準偏差4.9)で、26年の人が34.9%、21年の人が38.1%、16年の人が15.6%、11年の人が11.4%となった。

(2)調査および再調査
 医師によって診断された病歴・脳血管および心血管疾患・血管異常に関する自己記入式調査票が調査に含まれた。身長・体重の測定、5分間安静に座った後での血圧測定、静脈血標本からの血清コレステロール濃度測定が実施された。

 1998年の再検査は、それまでの調査方法とすべての面で同じ方法が取られた。認知症は、3相研究設定で診断された。第1相はスクリーニング、第2相は臨床的識別、第3相は鑑別診断とした。認知症の診断は、「精神障害の診断と統計の手引き-第4版」に基づき、アルツハイマー病の診断は、「国立神経疾患・伝達障害研究所、および脳卒中/アルツハイマー疾患・関連疾病協会」の基準に従った。

 全体の4%にあたる57人が認知症と診断され、そのうち48人がアルツハイマー病の可能性大、または可能性ありの基準に当てはまった。アルツハイマー病患者のすべてが、MRI走査において全体的脳の委縮または内側側頭葉委縮を示したが、誰も明らかな血管病状は示さなかった、

 認知症と診断された残り9人のうち、4人は血管性認知症、2人は認知症を伴うパーキンソン病、2人はアルコール性認知症、1人は前頭側頭型認知症と診断された。本研究の焦点はアルツハイマー病であり、アルツハイマー病以外の認知症対象者数が少なかったことから、これの9人については以降の分析から除外した。

(3)統計分析
1 中年期血圧値は、以下のように分類した。
①収縮期血圧正常  140mmHg未満
②収縮期血圧境界域 140~159mmHg
③収縮期血圧高血圧 160mmHg以上
④拡張期血圧正常   90 mmHg未満
⑤拡張期血圧境界域  90~94 mmHg
⑥拡張期血圧高血圧  95 mmHg以上
2 中年期血清コレステロール濃度は以下のように分類した。
①高コレステロール値  6.5mmol/L以上
②標準コレステロール値 6.5mmol/L未満
3 標準血圧および標準コレステロール値の群を比較対象として、中年期血圧およびコレステロール濃度と引き続くアルツハイマー病との関連を、モデル1として多量ロジスティック回帰分析により調べた。
4 血圧およびコレステロール濃度は年齢やBMIによって影響を受けるため、これらの因子でも補正を加えモデル2として分析を繰り返した。
5 さらに、教育水準・心筋梗塞歴・脳血管性症状歴・喫煙状況・アルコール摂取で補正を加えた分析もモデル3として実施した。

●結果

(1)社会人口統計学的および臨床的特性
 基本調査時の平均年齢は50.4歳(標準偏差6.0、幅は40~64歳)、再調査時の平均年齢は71.3歳(標準偏差4.0、幅は65~80歳)となった。アルツハイマー病のあった人は有意に年齢が高く、認知症のなかった人と比較して、公式教育を受けた年数が少なくなっていた。アルツハイマー病のあった人は、認知症ではない人と比較して、中年期におけるBMI・収縮期血圧・コレステロール濃度が高くなっていたが、再調査時においては、これらの値は2グループ間で同様のものとなった。拡張期血圧については、中年期においても再調査時においても、2グループ間で同様であった。

(2)血圧・コレステロール・アルツハイマー病リスク
 中年期において収縮期血圧が高いことは、晩年期におけるアルツハイマー病の有意なリスクであり、これは、モデル2および3においてもそのままとなった。中年期での収縮期血圧境界域群も一変量モデルにおいてはリスク増大となったが、モデル2および3では有意ではなくなった。中年期での拡張期血圧は、どのモデルにおいてもアルツハイマー病リスクへの影響は有意とはならなかった。中年期での血清コレステロール濃度が高いことは、すべてのモデルにおいてアルツハイマー病の有意なリスクとなった。収縮期血圧が高い群とアルツハイマー病リスクとの関連は、標準血圧群を比較基準として、モデル3においてのオッズ比2.8(信頼区間95% 1.1~7.2)となり、血清コレステロール濃度が高い群とアルツハイマー病リスクとの関連は、標準コレステロール群を比較基準として、モデル3においてのオッズ比2.2(信頼区間95% 1.0~4.7)となった。

 収縮期血圧が高いこととコレステロール濃度が高いことはアルツハイマー病の有意な危険因子となったため、両方の危険因子を抱えることに関する重複リスク評価を実施した結果、どちらかの危険因子のみを抱えている群と比較して、両方の危険因子を中年期に抱えていることが、アルツハイマー病リスクを有意に高めていた。片方の危険因子群を比較基準として、モデル3における両方の危険因子群オッズ比は3.5(信頼区間95% 1.6~7.9)となった。また、収縮期血圧境界域の対象者を含めても、両方の危険因子群オッズ比は2.8(信頼区間95% 1.3~5.9)となった。

(3)病歴とアルツハイマー病
 アルツハイマー病患者は、中年期において降圧剤治療を受けていた傾向が高くなっていたが、晩年期においては、認知症ではない群との間で差異は認められなかった。再検査時において、アルツハイマー病患者は有意に心筋梗塞歴や脳血管性症状歴を有していたが、アルコール摂取量は認知症ではない群より少なかった。

●考察

(1)研究全体から
 本研究は、中年期における収縮期血圧が高いことと血清コレステロール濃度が高いことが、晩年期におけるアルツハイマー病リスクを高めることを示した。中年期において両方の危険因子を抱えることは、収縮期血圧境界域の人を含めても、どちらか一方の危険因子を有するよりはるかに高いリスク増大となることが分かった。また、中年期における拡張期血圧は、晩年期におけるアルツハイマー病とは関連がないことも分かった。

(2)血圧の役割
 先行する研究において、収縮期血圧よりも拡張期血圧の高いことがアルツハイマー病リスクを高めるとの報告もあったが、研究設定や対象者の違いによるものであると考えられる。本研究でのアルツハイマー病発症者は、降圧剤治療を中年期において受けている傾向があったが、それでも認知症ではない群より高い収縮期血圧となっていた。このことは、高血圧治療を受けている人々のうちかなりの割合が目標値を達成しておらず、拡張期血圧が伝統的に高血圧治療に対する主たる適用となってきていることに則しているのである。

 本研究には、血圧治療を受けている人も受けていない人も含まれており、拡張期血圧に関連するリスクを過小評価しているかもしれない。特に、日系アメリカ人男性では、中年期における拡張期血圧の高いことは、降圧剤治療を受けたことの人においてのみアルツハイマー病を予測することになった。この点から考えて、本研究からのデータが拡張期血圧の高いこととアルツハイマー病の潜在的リスクとの関連を無視するものとして解釈されるべきではなく、拡張期血圧が正常であっても収縮期血圧が高いことの重要性を強調すべきものとして捉えられるべきである。本研究結果は、血圧管理が認知症を予防するかもしれないと示す、今日まで唯一収縮期高血圧症の人に行われた薬剤治験によって部分的に確証されるのである。

 中年期における血清総コレステロール濃度が高いことも、晩年期におけるアルツハイマー病を予測することとなり、フィンランド人高齢男性における研究結果と一致している。本研究は、これらの研究結果をより若年層および両性別へと広げ、より典型的データとしたことになる。

(3)コレステロールの役割
 本研究では、アテローム性動脈硬化の臨床的指標が、認知症のない人よりもアルツハイマー病患者においてより多く見られた。ある集団ベースの横断的研究が、アテローム性動脈硬化患者におけるアルツハイマー病リスクの増大を以前に示した。高血圧と高コレステロール血症は、アテローム性動脈硬化や血流障害により認知症リスクを高めるかもしれないが、それらは直接的にアルツハイマー病の神経変性をも誘発するかもしれない。血管性症状での補正が、中年期における収縮期血圧が高いことおよびコレステロール濃度が高いことと引き続くアルツハイマー病との関連を変えなかったことは、高血圧と高コレステロール血症が、それ自体でアルツハイマー病リスクを持っていることを示すものである。さらには、中年期における高血圧と高コレステロール血症との組み合わせが、アルツハイマー病に対する特に強い予測因子となったのであり、これらの因子は、部分的に異なる病態生理学的仕組みを通じてアルツハイマー病発現を加速させるのかもしれない。

(4)結論
 人口における高齢者割合が増える中、アルツハイマー病は非常に大きな公衆衛生問題となるであろう。それ故に、たとえわずかでも、病気発症を遅らせることのできる介入が、公衆衛生に対する大きな影響を持つことになるであろう。本研究結果であるところの中年期における血管危険因子と晩年期におけるアルツハイマー病との関係は、高血圧と高コレステロール血症両方が治療され得る時に認知症予防となることへの含みを有しているかもしれないのである。

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