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アルツハイマー病の病態における相互作用

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 日本の京都薬科大学の研究グループが、アルツハイマー病の病態における相互作用についてまとめたレビューです。脳内でのアミロイド・ベータ(Aβ)蓄積が、神経原線維濃縮体形成・シナプス機能障害・ニューロン損失など他のアルツハイマー病の病態他への鍵となるという、アミロイド・カスケード説に関して、タウのリン酸化や神経原線維濃縮体形成との関連や、小膠細胞の働きなどについてまとめています。


Molecular Approaches to the Treatment, Prophylaxis, and Diagnosis of Alzheimer's Disease : Tangle Formation, Amyloid-β, and Microglia in Alzheimer's Disease
Kazuyuki Takata, Yoshihisa Kitamura
Journal of Pharmacological Sciences
Vol. 118 (2012) No. 3 P 331-337
doi.org/10.1254

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 アルツハイマー病の病理上の顕著な特徴は、老人斑・神経原線維濃縮体・シナプスの損失・神経変性である。老人斑はアミロイドベータ(Aβ)で構成されており、中枢神経系における主要な免疫効果細胞である小膠細胞によって囲まれている。神経原線維濃縮体は、過剰リン酸化されたタウの神経細胞内蓄積によって形成され、進行性のシナプスおよび神経細胞の損失は、アルツハイマー病における認知障害と密接に相互関連している。家族性アルツハイマー病の原因となる遺伝子、および常にアルツハイマー病の神経病理を発現しているダウン症候群患者の脳における病的変化の時間経過に関する研究は、Aβ蓄積がアルツハイマー病の他の病態に影響を及ぼす主たる事象であることを示唆してきている。アルツハイマー病の病態間における相互作用の詳細は不明確なままであるが、この問題を議論するための実験的証明が蓄積されてきている。本論文においては、アルツハイマー病の病態を互いに結合する最近の研究結果を論評・議論するものである。アルツハイマー病の脳において誘発される病態間の相互作用に関するさらなる研究が、アルツハイマー病の病因への高い見識を与え、アルツハイマー病に対する新たな治療法の・予防法の・早期診断の戦略を開発することに寄与するかもしれない。

●はじめに

 アルツハイマー病は、広範囲にわたるニューロン損失の結果としての進行性認知機能障害によって特徴づけられる。アルツハイマー病の主要な病的特徴は、原線維のアミロイドベータ(Aβ)の細胞外沈着と、神経細胞内の過剰リン酸化タウによる神経原線維濃縮体形成である。アルツハイマー病の脳においては、Aβ沈着上に小膠細胞が著しく蓄積する(老人斑)こともよく知られている。小膠細胞は、中枢神経系のいたる所に一様に配置されている主要な免疫効果細胞で、食細胞としての能力を有している。さらには、アルツハイマー病の脳には進行性のシナプス機能障害が見られ、認知障害と密接に相互関係にある。

 Aβペプチドは、βセクレターゼとγセクレターゼでの組み合わせ切断によるアミロイド前駆体タンパク質(APP)から産生される。Aβは、プレセニリン(PS)を含むタンパク複合体であるγセクレターゼが、異なる長さを持つAβ-C末端を生成することから、37~43個のアミノ酸残基で構成されている。アルツハイマー病での遺伝子研究では、APP・PS1・PS2の遺伝子における突然変異が発見されてきており、これらの家族性アルツハイマー病関連突然変異を有する遺伝子導入マウスモデルは、マウスの脳におけるAβ産生を高めている。さらに、ダウン症候群患者は、常にアルツハイマー病の神経病理を発現しており、第21染色体上のAPP遺伝子のメッセンジャーRNA発現は1.5倍で、Aβ斑の形成は、神経原線維濃縮体形成の開始より約10年早く起こっているのである。これらの研究結果は、脳におけるAβ蓄積が、神経原線維濃縮体形成・シナプス機能障害・ニューロン損失など他のアルツハイマー病の病態に押しやる主たる事象であることを、強く示唆している(アミロイド・カスケード説)。しかしながら、Aβ蓄積と他のアルツハイマー病の病態との関係における詳細は、よく理解されないままとなっている。それ故に、アルツハイマー病の病態間での相互作用に関する発見は、アルツハイマー病の病因に対する重要な手がかりを提供し、アルツハイマー病の新しい治療法・予防法・早期診断の開発に寄与するかもしれないのである。本論文では、特にAβ相互作用に焦点を合わせ、アルツハイマー病の病態間での相互作用に関する最近の研究を論評・議論するものである。さらに、アルツハイマー病の脳におけるAβ起因性病的変化としての老人斑に対する、小膠細胞の蓄積の役割についても議論する。

●神経原線維濃縮体形成におけるAβの相互作用

 アルツハイマー病の脳において、神経原線維濃縮体は、対らせん状細線維で構成されている。対らせん状細線維は、神経絨毛糸として樹状突起にも、また、老人斑を囲むジストロフィー性神経突起として軸索終末のいくらかにも見られる。対らせん状細線維の主要構成要素は、異常に位置をずらされた過剰リン酸化タウタンパク質として識別されてきている。タウは、微小管結合タンパク質で、生理学的には微小管へのチュブリン会合を促進し、モーターたんぱく質で動く軸索での輸送を調節する一方で、異常に過剰リン酸化されたタウは、対らせん状細線維へと自己集合し、チュブリン会合のための促進活動を損なう。このように、アルツハイマー病における神経変性事象の一面が、微小管会合の妨害やタウの過剰リン酸化によって誘発される微小管不安定化を含むかもしれないのである。タウのリン酸化に関して、サイクリン依存性キナーゼ(Cdk5)とグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GKS-3β)による連続的なリン酸化は、タウの病原性リン酸化に関係することが強く示唆されている。

 ヒトのAPP突然変異体を発現する遺伝子導入マウスとヒトのタウ突然変異体を発現するマウスをかけあわせた実験的研究では、タウのみを発現するマウスとの比較で、過剰リン酸化タウ陽性神経原線維濃縮体様の構造が増加された一方で、Aβ斑の構造や数は基本的に変化しなかった。同様に、タウ突然変異体遺伝子導入マウスへの合成Aβ注入は、神経原線維濃縮体様病態を悪化させた。さらに、ヒトのAPP・タウ・PS1タンパク質突然変異体を発現し、Aβ斑や神経原線維濃縮体様病態を発現する3xTg-アルツハイマー病マウスでのAβ免疫化は、Aβのみならず、過剰リン酸化タウの値も低下するという結果に至った。上述のような結果は、さらにアミロイド・カスケード説を支持するものとなる。それ故に、Aβとタウとの相互作用に関しての重要な疑問は、Aβがどのようにタウの過剰リン酸化や神経原線維濃縮体形成に影響を与えるのかということであり得る。最近の研究は、過度のAβ生成に至る過程がGKS-3β活性を増大させるという示唆的エビデンスを与えてきている。このように、Aβは、タウキナーゼの上向き調節を通じて、タウ病態において相互に作用するのかもしれない。

 ミトコンドリア機能不全と関係のあるAβとタウとの新しい相互作用が示唆されてきている。タンパク質および活性化レベルにおいて、ミトコンドリア機能不全がアルツハイマー病のマウスモデルにおいて発見され、Aβとタウは、非依存的にそれぞれ複合体ⅣとⅠを抑制することによりミトコンドリア機能不全を誘発している。さらに、別の研究グループは、ミトコンドリアの軸索輸送を妨害することを通じて、タウがAβ神経毒性を取り次いでいると報告した。このように、Aβとタウは、ミトコンドリア機能とその軸索輸送を阻害することを通して、神経毒性影響を増大しているかもしれない。Aβ起因性小胞体ストレスが、ミトコンドリア機能不全状態で増大されることも示されている。

●シナプス機能障害におけるAβの相互作用

 シナプス機能の完全な状態は、シナプス結合の主要部である樹状突起棘の正確な形成によって維持されており、その形成は、構造的にアクチン細胞骨格によって調整されている。アルツハイマー病の脳においては、進行性のシナプス機能障害や損失が見られ、認知障害と密接な相互関連にある。このように、微小管会合と同様にアクチン細胞骨格の崩壊も、アルツハイマー病における発生上のカスケードに関連していることが示されている。しかしながら、微小管やアクチン細胞骨格の崩壊と、Aβやタウ病態の関わりとの関係は、よく理解されないままとなっている。

 ウィスコット・アルドリッチ症候群タンパク質ファミリー(WAVE)は、アクチン会合に対する鍵分子として見極められてきており、タウ同様に微小管会合に対する調整体であるコラプシン反応媒介タンパク質2(CRMP2)との複合体を形成する。以前に、高度にリン酸化されたCRMP2と神経原線維濃縮体との関連が、アルツハイマー病の脳において報告されている。これに関連して、異常なCRMP2が、WAVEの、さらにはアクチン会合の特質に影響を及ぼす可能性がある。換言すると、CRMP2とWAVEが、アルツハイマー病の脳における神経原線維濃縮体とシナプス機能障害を結合する因子であり得るのである。それ故に、本研究グループは、アルツハイマー病の脳におけるWAVEの発現様式を調査し、WAVEが、神経絨毛糸やジストロフィー性神経突起のように、神経原線維濃縮体や異常神経突起内で過剰リン酸化タウとリン酸化CRMP2とともに共凝集することが分かったのである。さらに、免疫沈澱による細胞質分画における、過剰リン酸化タウ・CRMP2・WAVE間の関連を見出したのである。WAVE蓄積の仕組みを調べるため、本研究グループは、さらにアルツハイマー病の三つの遺伝子導入モデル調査を行った。すなわち、Aβ斑を発現するTg2576マウス、神経原線維濃縮体様過剰リン酸化タウ濃縮体を発現するJNPL3マウス、Aβ斑と過剰リン酸化タウ濃縮体の組み合わせ病態を発現する3xTg-ADマウスである。Tg2576マウスでは、CRMP2もWAVE蓄積も観察されなかったが、JNPL3マウスでは、WAVE蓄積ではなく過剰リン酸化CRMP2の蓄積が検出された。興味深いことに、3xTg-ADマウスでは、過剰リン酸化CRMP2とWAVE蓄積の両方が繰り返された。このように、過剰リン酸化CRMP2の蓄積は、過剰リン酸化タウによって誘発される一方で、WAVE蓄積には、Aβとタウ病態の組み合わせが必要となったのである。最近の研究は、GKS-3βの活性を通じてAβがCRMP2の過剰リン酸化を誘発し、CRMP2の過剰リン酸化は、JNPL3マウスではなく、3xTg-ADマウスで検出されることを示してきている。それ故に、Aβ病態によって誘発されるCRMP2の過剰リン酸化は、WAVE蓄積にとって重要であることが示唆されるのである。これらの結果は、アクチン会合のWAVE媒介での崩壊が、アルツハイマー病の脳におけるシナプス機能障害と密接に関連し、WAVE病態は、CRMP2の異常性を通じて、アルツハイマー病の脳において現れるAβ、タウ、シナプス病態との架橋となり得ることを暗示している。

 シナプス機能障害における別のAβ相互作用の仕組みが報告されてきている。Aβ病態によって誘発されるタウの過剰リン酸化は、タウを微小管から切り離し、樹状突起棘を含め、神経細胞の細胞体区画内へと蓄積させることが示されている。異常に位置をずらされ過剰リン酸化されたタウは、チロシンキナーゼFynを樹状突起棘へと集め、FynはN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDARs)をリン酸化し、それによってシナプス後肥厚部95タンパク質(PSD95)とNMDARsの複合体形成を媒介する。NMDAR-PSD95相互作用は、興奮毒性の下流シグナル伝達に必要とされ、この経路が、神経細胞を樹状突起内でのAβ毒性に対してより感受性を高める。Aβとシナプス機能障害との相互作用は徐々に解明されてきているが、正確な仕組みの確立や確証のためには、さらなる研究が必要とされる。

●アルツハイマー病の脳におけるAβ沈着への小膠細胞蓄積

 アミロイド・カスケード説同様に、上述のAβ相互作用に関する研究は、Aβ蓄積がアルツハイマー病の病態における鍵となる役割を果たすかもしれず、脳のAβを減らすことがアルツハイマー病に対する主要な治療目標であることを、強く示唆している。Aβ産生の上向き調節、および/または、Aβ除去の抑制は、アルツハイマー病の脳におけるAβ蓄積に関わっていると考えられる。最近、ある研究者たちは、神経細胞における小胞体関連分解の機能障害が、アルツハイマー病の脳におけるAβ産生の上向き調節を誘発する仕組みと関わっている可能性のあることを示した。

 アルツハイマー病の脳におけるAβ除去抑制の可能性のある仕組みは、小膠細胞の機能障害に関係するかもしれない。小膠細胞が、その形態を活性化した表現型へと変化させ、アルツハイマー病の脳の老人斑に著しく集積することはよく知られている。小膠細胞の蓄積は、脳におけるAβ斑の形成に関わっていることが最初は前提とされていたが、後に、実験的研究が、小膠細胞のAβペプチド取り込み能力を証明した。本研究グループでも、初代培養したラットの小膠細胞を用い、小膠細胞機能の調査を行い、小膠細胞が、Aβ蓄積に対する代償性反応として、著しくAβを貪食することを見出した。アルツハイマー病の脳における大量の斑(プラーク)関連小膠細胞の存在にもかかわらず、小膠細胞は、Aβ沈着を効率的に貪食し損ねているようである。ある研究グループは、加齢性の小膠細胞栄養失調を報告し、アルツハイマー病のような神経変性状態においては、より大きな程度まで、小膠細胞の老化が起きているかもしれないことを示した。他方で、本研究グループは、大量の非ヒストン染色体タンパク質である高移動度グループボックス1タンパク質(HMGB1)が、アルツハイマー病の脳においてAβペプチドと共に老人斑の中へと堆積されることを見出し、細胞外HMGB1が、初代培養したラットの小膠細胞におけるAβ貪食を抑制し、Aβ注入されたラットの脳におけるAβ除去を遅らせることを証明した。さらに、別の研究者たちは、インターロイキン1β・腫瘍壊死因子α・インターフェロンγ・単球走化性タンパク質1・CD40Lを含む炎症性サイトカインが存在することで、小膠細胞のAβ貪食が抑制されることを報告した。このように、アルツハイマー病の脳においては、小膠細胞の機能障害が、老化そのもの、および/または、他の因子によって誘発されるかもしれず、アルツハイマー病の病態進行は、Aβを除去する小膠細胞の能力低下に起因するのかもしれないと推測される。別の研究者たちは、アルツハイマー病の典型的症例において不完全虚血に影響を受けている皮質野では、反応性小膠細胞の集中的蓄積と老人斑の減少が観察されたことを報告した。それ故に、小膠細胞の活性化は、アルツハイマー病におけるAβ除去に対する効果的ツールのようである。

 数多くの研究が、小膠細胞のAβ貪食の上向き調節は、一酸化窒素やエストロゲンのような様々な因子によって取り次がれることを証明してきており、小膠細胞のAβ貪食促進をアルツハイマー病に対する正当な治療的戦略として示してきている。アルツハイマー病の遺伝子導入マウスモデルにおいて、合成Aβペプチドでの免疫化ないしは抗Aβ抗体の注入が、有意にAβの形成と沈着を減少させ、認知機能を回復させた。Aβ除去に対する合成Aβペプチドまたは抗Aβ抗体でのAβワクチンの一つの提案される仕組みは、小膠細胞のAβ貪食を高めることであり、抗体が脳に入り、Aβ斑を囲んで蓄積し、Fc受容体によって小膠細胞のAβ貪食を高める。さらに、ヒトの臨床試験の症例報告において、食作用性小膠細胞はAβ斑のない脳野に見られ、アルツハイマー病の脳でのAβ斑除去における小膠細胞の寄与も示されたのである。それ故に、本研究グループでは、初代培養したラットの小膠細胞において、Aβに対する脱グリコシル化抗体を用いてこの仕組みを確かめた。免疫グロブリンのグリコシル化は、Fc受容体との結合に決定的に関わっている。脱グリコシル化抗体が抗原に対する結合親和力を維持する一方で、Fc受容体との相互作用を減少させる。本研究グループは、小膠細胞のAβ貪食に対する完全な脱グリコシル化抗体の影響を調べ、脱グリコシル化抗体が小膠細胞のAβ貪食の増加を損ねることを見出した。この結果は、抗Aβ抗体が、小膠細胞上に発現されるFc受容体によって、小膠細胞のAβ貪食を上方制御することをはっきりと証明した。さらに、HSP90のような熱ショックタンパク質が、生体外研究においても生体内研究においても、Toll様受容体(TLR)4を通じてラットの小膠細胞のAβ貪食を高めることも見出した。他の研究グループも、TLR2・TLR4・TLR9のようなToll様受容体とその活性化補助因子CD14を特定配位子で活性化することは、小膠細胞のAβ貪食を刺激することが示されるとした。

 最近本研究グループは、ガランタミンによる小膠細胞のα7ニコチン性アセチルコリン受容体の調節、またはニコチンによるα7ニコチン性アセチルコリン受容体の刺激が、初代培養したラットの小膠細胞においてAβ貪食を高めるという、新たなエビデンスを提供している。ガランタミンは、α7ニコチン性アセチルコリン受容体のアロステリック活性化リガンド結合部位に結合することで、小膠細胞のα7ニコチン性アセチルコリン受容体のコリンやニコチンに対する感受性を増加させる。このように、ガランタミンは、小膠細胞のAβ貪食を高めるために細胞外コリンないしは他のアセチルコリン様作動体を必要とし、一方でニコチンは、小膠細胞のAβ貪食の促進を直接的に誘発する。さらに、本研究グループは、小膠細胞のアクチン細胞骨格調節に対してカルモジュリン-カルモジュリン依存性プロテインキナーゼⅡ経路とカルモジュリン-Rac1タンパク質経路によってたどられる、Ca2+シグナルカスケードが、小膠細胞における食作用増大に関わっているかもしれないことも説明した。引き続き、Aβ注入ラットやアルツハイマー病の遺伝子導入モデルでの脳において、ガランタミンがAβ除去を高めることを確認した。これらの結果は、ガランタミンのアルツハイマー病に対する治療薬としてのさらなる利点、およびアルツハイマー病治療に対する新たな薬剤開発における小膠細胞α7ニコチン性アセチルコリン受容体の有意な治療的可能性を示している。

 ある研究者たちは、外因的に投与される小膠細胞が、実験的体外研究においてAβ除去に対する効果も有するかもしれないという可能性を示した。これらの研究結果は、アルツハイマー病における外因的小膠細胞治療の可能性を示唆している。それ故に、本研究グループは、初代培養したラットの小膠細胞をAβ注入されたラットの側脳室に移植し、外因的小膠細胞がAβ沈着上に蓄積してAβ注入されたラットの脳においてAβ除去を増大させることを見出した。その研究において、本研究グループでは小膠細胞を側脳室に移植した一方で、別のグループは、マクロファージではなく動脈内に注入された小膠細胞が、無傷のあるいは傷ついた血液脳関門を通って脳の柔組織へと移動できることを報告した。それ故に、本研究グループでは、外因的小膠細胞の体循環への移植が、脳の柔組織におけるAβ除去に対して効果的かもしれないと推測している。まとめると、新たに用意された外因的小膠細胞の移植は、生体内の脳におけるAβ除去に寄与するかもしれず、アルツハイマー病に対する細胞治療戦略の可能性を示唆するものである。

●結論

 アルツハイマー病の脳においては、様々な病的変化が誘発されている。Aβの細胞外沈着・過剰リン酸化タウの細胞内蓄積・シナプスおよび神経細胞の損失が、典型的な病態である。これまで、それぞれの変化における発症機序に関する研究のほとんどは、個々に調査されてきている。最近、病態間の密接な相互作用を示すエビデンスが、徐々に蓄積されてきている。本レビューにおいては、Aβ相互作用に焦点を合わせた研究結果をまとめた。相互作用において、Aβは他の病的変化の始まり、および/または、悪化における鍵となる役割を果たしているようである。それ故に、できるだけ早期に脳からAβを除去することが、アルツハイマー病における治療戦略に対する主目標となり得る。このために、初期における正確な診断法の開発が、最も重要な段階となるであろう。対照的に、病態間の相互作用解明によって、診断に対する新たな標的が見つけられるかもしれず、開発の機会と可能性は増大され得る。さらに、病期依存診断が確立されるかもしれない。同じ可能性が、アルツハイマー病に対する治療的そして予防的戦略にも提供されるかもしれない。

 アルツハイマー病における小膠細胞の役割は、特に治療的利用に対してかなりの注意を引いた。本レビューでは、小膠細胞のAβ貪食にも焦点を合わせ、アルツハイマー病の脳におけるAβ病態に対する小膠細胞の有益作用をまとめた。食作用において効果的に機能することに対して、小膠細胞を調節、および/または、活性化することが極めて重要である。このために、いくつかの標的受容体および因子が解明されてきており、ひょっとしたら、小膠細胞(および/または、骨髄幹細胞・胚幹細胞<ES>・人工多能性幹細胞<iPS>由来小膠細胞)の移植が、アルツハイマー病における治療手段に対する強力な戦略となり得ることを示唆している。実際に、ある研究グループによる生体内研究は、骨髄幹細胞由来小膠細胞が、脳の柔組織全体に場所を占め、Aβ斑の制限において重要な役割を果たす能力を有することを証明した。さらに、本研究グループの生体内研究において、骨髄幹細胞が、小膠細胞様Aβ貪食細胞内に分化され得ることを示した。このように、小膠細胞機能の生態および調節に関するさらなる研究が、アルツハイマー病に対する治療法への新たな識見を与えるかもしれないのである。

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