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肥満予防は若いうちからコツコツと

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 青年期に一定レベルの身体活動を維持することは、特に女性で、中年への過渡期に体重増加を抑えることにつながる可能性があるとのことです。

Maintaining a High Physical Activity Level Over 20 Years and Weight Gain
Arlene L. Hankinson, MD, MS; Martha L. Daviglus, MD, PhD; Claude Bouchard, PhD; Mercedes Carnethon, PhD; Cora E. Lewis, MD, MSPH; Pamela J. Schreiner, PhD; Kiang Liu, PhD; Stephen Sidney, MD, MPH
JAMA. 2010;304(23):2603-2610. doi:10.1001/jama.2010.1843.


川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 1976年以来肥満の有病率は著しく上昇しており、今やアメリカ合衆国成人の30%を超えている。肥満と病気や障害との関連性はよく知られており、結果として不健康な人生を送ることとなり医療費の増加につながる。多くの研究が、生活様式への介入・薬物療法・外科手術といった肥満治療を検証してきているが、体重増加を予防したり抑えたりといった肥満予防研究は数の少ないところとなっている。公衆衛生指針は加齢に伴う体重増加を最小限にするために定期的身体活動を勧めており、長年にわたり高い活動レベルを維持することが体重増加の予防につながると言っている。しかしながら、これらの勧めはたいてい断面観察的かつ短期間の臨床的エビデンスに基づいており、加齢に伴って変化する体重増加リスクを説明していないのである。体重増加予防に必要な活動量に関するデータも希薄である。2008年のアメリカ合衆国保健社会福祉省(HHS)の報告書では、少なくとも30分間の中強度活動を週に5日行うことを提唱しているが、最近の研究によると、HHSの推奨する活動レベルはベースライン時平均年齢54.2歳の中年女性においては体重増加予防には不十分であることが分かった。国の身体活動指針が、特に、最もリスクが高くなる青年期から中年への過渡期において体重増加予防に十分なのかどうかは不明確である。

 この研究は、HHS推奨レベルを含めて、青年期から20年にわたって高い身体活動レベルを維持することと、BMIおよび腹囲における変化の関係を評価するものである。活動への取り組みは人種・性別・体重によって変わるものなので、この研究においてもこれらの要素が活動と体重増加の関係を変えるのかどうか検証する。我々の仮説は、中から高程度の身体活動を維持することは、青年から中年への過渡期において、BMIおよび腹囲における増加をより少なくするというものである。

●方法

(1)対象者
 The Coronary Artery Risk Development in Young Adults (CARDIA)は多機関での縦断的コホート研究で、青少年における冠動脈性心疾患の危険因子調査のために設定された。開始時には5,115人の青少年が対象となり、18~24歳と25~30歳という年齢・性別・黒人か白人かという人種、ハイスクール以下の卒業レベルか高等教育を受けているかという教育レベルによって平均化された。4カ所から(イリノイ州シカゴ、アラバマ州バーミンガム、ミネソタ州ミネアポリス、カリフォルニア州オークランド)の対象者は、最初1985~1986に調査を受けた。追跡調査は、ベースラインから2年後、5年後、7年後、10年後、15年後、20年後と実施され、維持率はそれぞれ、コホートの91%、86%、81%、79%、74%、72%となった。

(2)身体活動測定
 それぞれの調査において、身体活動は面接官によるCARDIA身体活動履歴調査票を用いて測定された。これは、1年間の通常活動評価のために設計されたもので、前年における中強度から強度の13の身体活動への取り組みを問うもので、スポーツ・運動・家のメンテナンス・職業上の身体活動を含む。それぞれの身体活動が代謝当量3~8までの強度得点と1週間あたり2~5時間までの継続レベルとに割り振られた。質問項目には継続時間を詳細に尋ねるものは含まれておらず、継続レベルはそれぞれの活動の最低継続時間を表すものとなっている。

 具体的な質問内容および身体活動の割り振りは以下のようになっている。
CARDIA Physical Activity Questionnaire(CARDIA身体活動質問票)
それぞれの活動に関して、面接官が対象者に対して以下の質問をした。
1 あなたはこの活動を過去12カ月間にしましたか?
2 この活動を何カ月間しましたか?
3 週に最低X時間の割合では何カ月間この活動をしましたか?(Xは継続レベル)

ジョギング 8MET 週に2時間 288運動単位
ラケットスポーツ 8MET 週に3時間 288運動単位
サイクリング 6MET 週に2時間 216運動単位
スイミング 6MET 週に2時間 216運動単位
ダンス 6MET 週に3時間 216運動単位
ウェイトリフティング 6MET 週に3時間 216運動単位
仕事 5MET 週に5時間 180運動単位
激しいスポーツ 8MET 週に3時間 288運動単位
激しくないスポーツ 4MET 週に3時間 144運動単位
ウォーキング 4MET 週に4時間 144運動単位
ボーリング/ゴルフ 3MET 週に3時間 108運動単位
徒手(柔軟、美容)体操 4MET 週に3時間 144運動単位
家のメンテナンス 4MET 週に5時間 144運動単位

 アルゴリズムによってコンピュータ計算を行い、強度得点・頻度・継続を表すための重み係数に基づくそれぞれの身体活動をスコア化し、運動単位で表されるすべての身体活動の合計点を総合活動点として、過去12カ月間の身体活動レベルを表した。参考までに、総合活動点300運動単位が、HHSの推奨する1週間あたり少なくとも150分の中強度の身体活動に相当する。

(3)他の測定要素
 それぞれの調査において、軽装の検査着に靴を履かない状態で身長・体重・腹囲が計測された。正常体重はBMI18.5~24.9、体重超過は25.0~29.9、肥満は30.0以上と定義された。また、年齢・自己申告による人種・教育を受けた年数・喫煙状況・アルコール摂取が各回面接によって確認され、心肺持久力がベースライン時のトレッドミル(運動負荷)試験の継続時間によって評価された。ベースライン時、7年目、20年目に面接官によるCARDIA食事歴評価によってエネルギー摂取量が決定された。男性で1日あたり8,000kcal、女性で6,000kcalを超える極端に摂取量が多い場合と、男性で800kcal、女性で600kcalを下回る極端に少ない場合は、信頼性に欠けるとして除外した。

(4)日常身体活動の分類
 身体活動は時を経て個人によって大きく異なるため、20年間にわたる日常身体活動レベルを反映するような分類がされた。ベースライン時の性別による身体活動得点を3分類したものが計算され、追跡調査の三分の二においてベースライン時上位群より高い場合は日常身体活動レベル高、ベースライン時中位群より高い場合は日常身体活動レベル中、ベースライン時下位群より高い場合は日常身体活動レベル低で、身体活動得点を維持しているものと定義した。それ以外の場合は、身体活動レベルが一貫していないと定義した。さらに、日常身体活動高群と低群をベースライン時と追跡調査の三分の二においてHHS推奨量を維持しているかどうかで2分類した。

(5)対象除外者
 31.5%にあたる1,561人が、身体活動得点に欠陥がある、5回未満の調査しか受けなかった、ベースライン時BMI値に欠陥がある、性転換した、いずれかの調査時に妊娠していた、20年目までに肥満手術を受けたことを理由に除外され、CARDIAコホートスタート時の69.5%にあたる3,554人が対象となった。

●結果

(1)日常活動部門の3分類
 性別によるベースライン時身体活動分類は、次のように高・中・低を定義した。男性で608運動単位以上を高、340~607運動単位を中、340運動単位未満を低、女性では398運動単位以上を高、192~397運動単位を中、192運動単位未満を低とした。

(2)ベースライン特性
 日常身体活動部門での対象者分布は男女ともに同様であり、ベースライン時高位群に属していた全女性の11%、全男性の12%が20年にわたりこのレベルを維持した。調整を加えない分析結果では、ベースライン時の参加者特性は、どの活動分類でもほぼ同じ分布を示しており、人種と体重の状態のみに違いが見られた。女性でベースライン時に体重超過または肥満だった対象者で、より高い身体活動レベルを20年間維持した割合が少なくなっている。

(3)身体活動とBMIおよび腹囲との関係
 20年にわたって高いレベルの活動を維持した群は、人種・ベースライン時BMI・年齢・教育レベル・喫煙状況・アルコール摂取・エネルギー摂取量による調整を加えた後で、低活動レベル群と比較したところ、BMIおよび腹囲の増加が低く抑えられる傾向があった。高活動レベルを維持した男性では、増加体重は低活動レベル群より2.6kg少なく(1年あたりBMI が0.15増加 信頼区間95% 0.11~0.18 低活動群は1年あたりBMIが0.20増加 信頼区間95% 0.17~0.23)、女性では体重増加が6.1kg少なかった(1年あたりBMIが0.17増加 信頼区間95% 0.12~0.21 低活動群は1年あたりBMIが0.30増加 信頼区間95% 0.25~0.34)。高活動レベルを維持した男性では、増加腹囲は低活動レベル群より3.1cm少なく(1年あたり腹囲が0.52cm増加 信頼区間95% 0.43~0.61に対して低活動群は1年あたり腹囲が0.67cm増加 信頼区間95% 0.60~0.75)、女性では腹囲増加が3.8cm少なかった(1年あたり腹囲が0.49cm増加 信頼区間95% 0.39~0.58に対して低活動群は1年あたり腹囲が0.67cm 信頼区間95% 0.60~0.75)。

 また、HHS推奨の身体活動レベルに到達した対象者は全体の36.7%にあたる1,338人となり、人種・ベースライン時BMI・年齢・教育レベル・喫煙状況・アルコール摂取・エネルギー摂取量による調整を加えた後で、HSS推奨レベルに到達しなかった対象者との比較をしたところ、男性では20年間で1.8kg、女性では4.7kg体重増加が少なかった。

●考察

 この研究の主たる成果は、低レベルでの身体活動との比較において、20年にわたって高レベルの身体活動を維持した場合は、男女ともに青年から中年への過渡期においてBMIの増加割合が少なくなるというものである。高レベルの身体活動維持群では、低レベル群との比較において、男性で2.6kg、女性で6.1kg増加体重が減少した。

 一方で、中レベル群やレベルに一貫性のない群においては、低レベル群との間に体重増加における基本的差異は認められなかった。また、女性においては男性の2倍以上の減少幅を示していることから、高いレベルでの身体活動維持は、特に女性に効果のあるものと思われる。HHS推奨の週に150分の中強度身体活動を維持した場合も、維持できなかった群と比較して、有意により少ない体重増となることが分かった。また、身体活動と体重増加の関係は、人種やベースライン時体重状況によって変化するものではなかった。

 これまでの研究は、12カ月以下の期間で30分の運動をすることで体重減ないしは現体重維持を示すもので、対象者は研究開始時に肥満ないしはその傾向があったことから、体重増加の2次的予防となっており、必要な身体活動レベルは一般集団に適用できるレベルとは本質的に異なっていた。本研究は、これら短期間研究の成果を、長期間にわたる1次的体重増加予防へと広げるものである。
 
 本研究は1日30分の身体活動が体重増加予防に十分であることを支持するものだが、別の研究では、反論を唱えているものもある。1日30分の身体活動は13年間にわたる中年女性を対象にした研究においては不十分であると報告され、また、中年男性を対象とした別の研究においては、1日あたり60分の運動でも加齢に伴う体重増加を減ずるには充分でないと結論づけている。
 
 結論として、青年期を通じて身体活動を高いレベルで維持することは、中年初期におけるBMIおよび腹囲増加を少なくすることにつながるので、1日最低30分の身体活動を日常生活に組み込み維持することを推奨するものである。

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