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ダイエットには「食べない時間」の長さも大事

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2015年、ダイエットを新年の抱負とされた方は多いのではないでしょうか? 運動や食事のバランスが大切なのは分かっているけど、なかなか成功しない、と悩んでいる方は、食事のタイミングを見直すとよいかもしれません。米カルフォルニア州ソーク研究所のサッチダナンダ•パンダ教授率いるチームが、一日の食事を一定の時間枠内に制限するダイエット方法についてマウス実験を行い、2014年12月、米国科学誌「Cell Metabolism」に報告しました。

大西睦子の健康論文ピックアップ103

大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。著書に「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側 」(ダイヤモンド社)。

大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートと編集は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

根拠不十分だった「8時間ダイエット」

今回の実験は、2012年にパンダ教授らによって報告された「8時間ダイエット」の研究をベースとしています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22608008

研究チームは、マウスを、24時間いつでも時間制限なく高脂肪食を食べられる群と、食事を取れる時間に制限を設けた「8時間ダイエット」の群に分け、18週間経過観察して比較しました。8時間ダイエットとは、一日の最初の食事から最後の食事までを8時間の枠内に収め、その間はいつでも好きなタイミングで食べてよいけれども、その後は翌日最初の食事まで絶食するものです。

結果、同じ合計カロリー摂取でも、8時間ダイエットのマウスは肥満にならず、運動能力が向上することを発見しました。また、体内時計遺伝子の発現も、食事時間制限なしのマウスでは弱まっていましたが、8時間ダイエットのマウスでは通常食のマウスと同程度でした。以上から、高脂肪食で同じカロリーを摂取する場合、8時間ダイエットでは概日リズムが改善し、肥満やメタボリックシンドロームの予防になることが示唆されました。

同年、米国の人気健康雑誌「メンズヘルス」元編集長のデイビット•ジンチェンコ氏が、『8時間ダイエット』を出版。「一日の食事を8時間の枠内に制限するだけで、好きな食べ物を好きなだけ食べても痩せられる。しかも、糖尿病やがん、心臓病のリスクが減り、脳も活性化される」と謳い、発売後まもなくニューヨークタイムズ紙のベストセラーにランクインし、話題を集めました。
http://www.medpagetoday.com/CelebrityDiagnosis/36931

問題があるとすれば、ジンチェンコ氏の著書を紹介する記事の中で、パンダ教授らの2012年の報告が「エビデンス」として紹介されたことです。確かに実験は時間制限ダイエットへの期待に沿う結果でしたが、ごく限られた条件での検証であり、そのまま8時間ダイエットの根拠とするには不十分でした。それでも8時間ダイエットへの人々の関心は過熱していきました。


通常食では効果見られず

パンダ教授らのチームは今回、食事時間制限ダイエットを高脂肪食以外の食事や人間のライフスタイルでも適用できるか検証するため、新たに生後12週のオスの野生型マウス392匹を用いて実験を行いました。

Amandine Chaix, Amir Zarrinpar, Phuong Miu, Satchidananda Panda
Time-Restricted Feeding Is a Preventative and Therapeutic Intervention against Diverse Nutritional Challenges
Cell Metabolism, Volume 20, Issue 6, p991-1005, 2 December 2014

これまでの研究から、高脂肪高ショ糖食が肥満を引き起こすことが分かっています。また、果糖はショ糖とは代謝メカニズムが異なり、高果糖食に偏ったマウスは耐糖能障害や脂肪肝を引き起こすこと、近年の肥満の急増に果糖の消費量増加の関与が示唆されています。そこでパンダ教授らは、高果糖食、高脂肪高ショ糖食、高脂肪食と、栄養のバランスを考慮した通常食の4種類のエサ(総摂取カロリーは同じ)にマウスをグループ分けしました。その上で9時間ダイエット群と食事時間制限なし群に分けて12週間、経過を観察しました。

結果、高脂肪高ショ糖食を摂取したマウスのうち、9時間ダイエット群の体重増加が平均+21%だったのに対して、制限なし群では平均+42%に達しました。一方、高果糖食と通常食では9時間ダイエット群と制限なし群どちらも体重増加に差が見られず、高果糖食での体重増加は平均約+6%にとどまりました。食事時間制限ダイエットは、脂肪やショ糖の多い食事の場合に、より効果が期待できることが示されました。


高脂肪食では絶食時間が長いほど有効

2012年の報告は「8時間」ダイエットでしたが、毎日の習慣として取り入れる場合には16時間の絶食が必要となり、難しいのが現実です。そこでパンダ教授らは、食事の時間枠を、制限なし、9時間、12時間、15時間の4種類に増やし、高脂肪食を与えて経過を観察しました。すると、9時間ダイエット群は12週間で平均+26%でしたが、15時間ダイエット群は平均+43%を超え、制限なしは平均+65%となりました。食べない時間が長いほどダイエット効果が高い結果と言えます。

研究チームはさらに、週末には自由な食事が許される現代人のライフスタイルを想定し、5日間の9時間ダイエット+2日間制限なしというスケジュールで12週間経過を観察すると、マウスの体重は平均+29%となりましたが、これは1日も休まず9時間ダイエットを続けた群と同程度でした。つまり週末の"休息"は、食事時間制限ダイエットに支障をきたさないことが示唆されました。

パンダ教授らはこの他、時間制限ダイエットの開始時点で肥満の場合でも効果が得られるか検証し、肥満の進行程度を問わず有効であることを確認。MRI画像からは、実験で生じた体重の差は脂肪量の変化によることが示されました。肥満やメタボリックシンドロームでは脂肪組織に慢性炎症が起き、全身に悪影響を与えると考えられていますが、途中で時間制限ダイエットに切り替えなかったマウスでは、脂肪組織の炎症マーカーも、切り替えたマウスより増加していました。時間制限ダイエットは、肥満の治療として有効である可能性が示唆されたことになります。

また、ダイエットの大きな課題として、一時成功してもやめた後に体重が戻ってしまう、いわゆる「リバウンド」があります。パンダ教授らはこれについても実験を行い、高脂肪食による9時間ダイエットを途中でやめたマウスの体重が急増し、最初から食事時間制限のないマウスを追い越して増加することを確認しました。ダイエットを中止すれば結局リバウンドするという結果です。

以上、肥満とそれに関連する代謝性疾患の予防や治療における時間制限ダイエットの大きな可能性が改めて示唆されました。ただし、通常食と高果糖食では時間制限ダイエットに特段の効果は見られなかったこと、高果糖食への偏りにも問題があることから、栄養バランスのとれた食事の重要性も再確認されました。


体内時計を整えることが大切

今回の研究の背景には、ダイエットの基本として推奨されてきた「適量でバランスのよい食事と定期的な運動を取り入れたライフスタイル」の継続が困難で、多くの人が失敗してしまう現実があります。新しいダイエット手法の必要性を感じていたパンダ教授らが注目したのが、代謝と概日リズムの関係でした。

概日リズムは一般に「体内時計」とも呼ばれるもので、人間が生来持つ一日周期の生体活動や行動のパターンです。以前のコラムでも、概日リズムが乱れると不適切な時間に食事を摂りたくなるため肥満になりやすいことをご紹介しました。一方、例えば、高脂肪食を食べ続けると概日リズムを司る時計遺伝子の発現が弱まり、概日リズムが乱れる、といった逆の現象も報告されています。

そこで概日リズムを考慮した食事の時間規制が、肥満や代謝性疾患の治療・予防への革新的な戦略になると考えたのです。

今回の研究成果は非常に興味深く、さらなる発展が大いに期待されます。8時ダイエットは難しいとしても、前日の夕食を早めにとって翌日の朝食までできるだけ時間を空けるなど、現代のライフスタイルの中でも時間制限ダイエットの要素は取り入れられそうですよね。ただし今回の研究はマウス実験ですから、結果をそのまま人間にも当てはめられるか臨床試験で確認する必要があります。また、時間制限すれば高脂肪高ショ糖食ばかり食べてよく、運動の必要もない、という解釈は問題です。バランスのよい食生活と適度な運動、そして十分な睡眠により体内時計を整えることが重要です。ダイエットは、即効性よりバランスが鍵ではないでしょうか。

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