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リン酸化タウ上昇が存在する場合にのみ、アミロイドベータと臨床的認知低下が関連する

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 既に何度かお伝えしたAlzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)(*1)からの研究報告です。臨床的にも認知的にも健康な老齢者を対象に、脳脊髄液のアミロイドベータ(Aβ1-42)とリン酸化タウ(p‐tau181p)が、臨床的認知低下における変化とどのように関係するかを調べたところ、Aβ1-42が低いだけでは臨床的低下と有意な関連性は見られず、Aβ1-42が低くp‐tau181pが高い場合に有意な臨床的低下が起こることが分かったようです。


Amyloid-β associated clinical decline occurs only in the presence of elevated p-tau
Rahul S. Desikan, MD, PhD, Linda K. McEvoy, PhD, Wesley K. Thompson, PhD, Dominic Holland, PhD, James B. Brewer, MD, PhD, Paul S. Aisen, MD, Reisa A. Sperling, MD, Anders M. Dale, PhD, and the Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative*
Arch Neurol. 2012 June; 69(6): 709-713.
doi: 10.1001/archneurol.2011.3354

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 本研究は、アルツハイマー病の二つの顕著な特徴的タンパク質であるアミロイドベータ(Aβ)およびタウと、認知的に正常な老齢者における経時的な臨床的低下との関係を解明することが目的である。

 臨床的および認知的に正常な老齢者の縦断的コホートにおいて、ベースライン時での腰椎穿刺と縦断的臨床評価を行った。米国およびカナダの複数の研究センターにおいて、ベースライン検査時に臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating=CDR)(*2)得点が0の107人を調査した。線形混合効果モデルを用い、脳脊髄液(CSF)中のリン酸化タウ(p‐tau181p)およびAβ1-42の量と、CDR総合点(global CDR)・CDR項目合計点(CDR‐SB)・Alzheimer's Disease Assessment Scale‐cognitive subscale(ADAS‐cog)(*3)得点の縦断的変化を用いて評価される臨床的低下との関連を調査した。

 CSFのAβ1-42の低下と、global CDR・CDR‐SB・ADAS‐cogにおける変化との有意な関係が、CSFのp‐tau181pが高くなっている人において見られた。CSFのp‐tau181pがない場合には、CSFのAβ1-42の縦断的な臨床的低下への影響はなかった。

 認知的に正常な老齢者において、平均3年間にわたるAβ関連臨床的低下は、進行中の下流の神経変性が存在する場合にのみ起こるのかもしれない。

●はじめに

 アルツハイマー病発現が運命づけられている臨床的に正常な老齢者の識別は、認知症予防に対する治療的介入が開発されるにつれて、臨床的重要性を増してきている。遺伝的リスクを抱えるコホートと臨床的に正常な老齢者の両方からのエビデンスが、アルツハイマー病の病理生物学的な過程は、臨床的認知症診断の何年も前から始まることを示している。Aβ沈着がアルツハイマー病の底に潜む神経変性過程を誘発することを示す先行実験エビデンスに基づき、数多くの最近のヒトによる研究は、認知症の前臨床的段階にいると考えられる臨床的に正常な老齢者を認識するために、Aβ・神経変性・認知低下との関係に主に焦点を合わせてきている。しかしながら、アミロイ斑と記憶低下との相互関係は弱く、免疫療法誘発性の斑(プラーク)除去は進行性の神経変性を予防しないかもしれず、アルツハイマー病関係変性に対する他の実体が必要とされるかもしれないのである。

 遺伝子導入マウスを使った最近の研究が、Aβが神経細胞やシナプスの損傷を誘発するためには、タウの存在が必要とされることを示している。タウの減少は、Aβ誘発神経細胞機能障害を防ぐ一方で、タウの存在はAβ関連シナプス毒性を増強する。本研究グループの実験室からの最近のエビデンスが、認知症のリスクを抱える老齢のヒトにおいて、Aβ関連(脳)容積損失はリン酸化タウが存在する場合にのみ起こることを示している。この結果に基づいて、本研究では、神経原繊維病態と関連するAβとリン酸化タウの生体内バイオマーカーであるところの、CSFのAβ1-42減少およびp‐tau181pの増加水準を用いて、認知的に正常な老齢者において、Aβ関連臨床的低下はリン酸化タウが存在する場合のみに起こるのかどうかを調査した。

●方法

 Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)から、ベースライン時に認知的にも臨床的にも正常と診断された、老齢対照群107人を評価した。臨床的低下については、CDR総合点(global CDR)・CDR項目合計点(CDR‐SB)・Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive subscale(ADAS‐cog)得点を用いて、縦断的に評価した。ベースライン時のCSFデータを有し、ベースライン時および追跡調査期間での臨床的データを有する対象者に限定した。

 CSFは、採取後-80℃で保管された。Aβペプチド1-42、トレオニン181リン酸化タウ、総タウが測定された。

 最近提唱されているCSF境界点を用い、対象者を以下の基準により分類した。
1 Aβ1-42高値(陰性)192 pg/ml超、p‐tau181p低値(陰性)23pg/ml未満
2 Aβ1-42高値(陰性)192 pg/ml超、p‐tau181p高値(陽性)23pg/ml超
3 Aβ1-42低値(陽性)192 pg/ml未満、p‐tau181p低値(陰性)23pg/ml未満
4 Aβ1-42低値(陽性)192 pg/ml未満、p‐tau181p高値(陽性)23pg/ml超

 CSFのAβ1-42状態と臨床的低下との関係を、年齢と性別による影響で調整を加え、線形混合効果モデルを用いて調査した。

●結果

 まず、CSFのAβ1-42状態と縦断的な臨床的低下との間に関係が存在するのかどうかを評価した。先行研究と矛盾することなく、すべての対象者にわたり、CSFのAβ1-42陽性状態は、global CDRとの回帰係数β1=0.03、標準誤差(Standard Error=SE)=0.01、P=0.04、CDR‐SBとのβ1=0.09、SE=0.05、P=0.048、ADAS‐cogとのβ1=0.59、SE=0.23、P=0.0098と、有意な相関関係にあった。結果が変数の分類処理によるものではないことを保証するため、CSFのAβ1-42を連続変数として吟味したところ、CSFのAβ1-42値の減少と臨床的低下の変化との間には有意な関連が見出され、global CDRのβ係数=-0.0002、SE=0.0001、P=0.030、CDR‐SBのβ係数=-0.0009、SE=0.0004、P=0.041、ADAS‐cogのβ係数=-0.005、SE=0.002、P=0.016となった。

 次に、CSFのp‐tau181pの存在が、Aβ1-42と縦断的な臨床的低下との関係に影響を与えるのかどうかを調査した。CSFのAβ1-42陽性状態は、p‐tau181p陽性者においてのみglobal CDRの変化と関連あることが分かり、β1=0.06、SE=0.02、P=0.01となった。CSFのp‐tau181p陰性者においては、Aβ1-42陽性状態とglobal CDRの変化との間に関連はなく、β1=-0.02、SE=0.02、P=0.35となった。同様に、CSFのAβ1-42陽性状態は、p‐tau181p陽性者においてのみCDR‐SBの変化と関連があり、β1=0.24、SE=0.11、P=0.036となった。CSFのp‐tau181p陰性者においては、Aβ1-42陽性状態とCDR‐SBの変化との間に関連はなく、β1=-0.003、SE=0.04、P=0.94となった。これらの結果に一致して、CSFのAβ1-42陽性状態は、p‐tau181p陽性者においてのみADAS‐cogの変化と関連があり、β1=0.94、SE=0.32、P=0.0043となった。CSFのp‐tau181p陰性者においては、Aβ1-42陽性状態とADAS‐cogの変化との間に関連はなく、β1=0.41、SE=0.34、P=0.23となった。

 境界値に基づいて分類した対象者から得られた結果と矛盾することなく、CSFのAβ1-42値減少は、p‐tau181p陽性者においてのみglobal CDRの変化と有意に関連し、β係数=-0.005、SE=0.0002、P=0.02となった。同様に、CSFのAβ1-42値減少は、p‐tau181p陽性者においてのみADAS‐cogの変化と有意に関連し、β係数=-0.007、SE=0.002、P=0.0064となり、CDR‐SBの変化とはCSFのp‐tau181p陽性者においてのみ有意な関連傾向を見せ、β係数=-0.002、SE=0.001、P=0.06となった。CSFのAβ1-42状態に関係なく、CSFのp‐tau181p陽性か陰性かの状態も、p‐tau181p値も、臨床的低下と有意な関連はなかった。

 最後に、タウの非特異形態である総タウ(t‐tau)の存在が、CSFのAβ1-42と縦断的な臨床的低下との関係に影響を及ぼすかどうかを調べた。93pg/mlをCSF境界値として、全対象者をt‐tau高値(陽性=22人)とt‐tau低値(陰性=85人)とに分類した。CSFのAβ1-42陽性状態は、t‐tau陽性者および陰性者どちらにおいても、global CDRまたはCDR‐SBの変化との関連は見つからなかった。CSFのAβ1-42陽性状態は、t‐tau陽性者においてADAS‐cogの変化と有意に関連し、β係数=1.43、SE=0.49、P=0.005となり、CSFのt‐tau陰性者においては、有意な傾向を示し、β係数=0.48、SE=0.27、P=0.067となった。

●考察

 本研究では、臨床的に正常な老齢者において、Aβ関連の縦断的な臨床的低下は、高リン酸化タウが存在する場合にのみ起こることを示している。リン酸化タウが存在しない場合、縦断的な臨床的低下に対するAβの影響はない。

 これらの結果は、アルツハイマー病の前臨床的段階に重要な識見を与える。複数の先行研究と矛盾することなく、本研究結果は、臨床的に正常な老齢者において、Aβ沈着それだけでは臨床的低下と関連ないこと、リン酸化タウの存在が、Aβ沈着と臨床的低下亢進との重要な連結を意味することを示している。さらに、本研究結果は、リン酸化タウを、アルツハイマー病関連変性の重要なマーカーとして指し示している。CSFの総タウ上昇は、神経細胞や軸索の死によって特徴づけられる数多くの神経性障害において見られるのに対して、CSFのリン酸化タウ増加は神経原線維病態の増大と相関関係にあり、アルツハイマー病を他の神経変性障害と区別することができ、総タウよりもリン酸化タウが、アルツハイマー病の病的進行のより明確なマーカーを象徴するかもしれないことを示している。本研究グループの実験室での最近の研究と合わせて考えると、これらのデータは、リン酸化タウとAβの組み合わせが、アルツハイマー病の前臨床的段階の底に潜む病理生物学をおそらく反映することを示している。

 遺伝子導入マウスを使った最近の実験は、タウの存在が、Aβ関連神経変性を増強することを例証している。シナプス後部のAβ毒性は、タウに依存しており、タウの減少は、APP23マウスにおいて、若年死亡率や記憶欠損を予防する。本研究グループのヒトのデータは、これらの実験結果と一致している。

 本研究には限界がある。一つの懸念は、CSFのバイオマーカーがアミロイドや神経原線維病態の間接的評価を提供するもので、アルツハイマー病の底に潜む生物学的過程を完全には反映しないかもしれないことである。別の懸念は、本研究結果が、CSFのt‐tauとAβ1-42の組み合わせよりも、CSFのp‐tau181pとAβ1-42の組み合わせの方が、臨床的低下をよく予測するかもしれないことを示しているが、先行する複数の研究は、CSFのAβ1-42と組み合わされた場合に、リン酸化タウと総タウは、同様に低下を予測するものであることを示してきている。おそらくこの違いは、CSF測定評価分析・参加対象者の特質・その他の要素におけるわずかな差異に関係があるのだろう。三つ目の限界は、本研究では、アルツハイマー病の病態に関する二つの顕著な特徴のCSFバイオマーカーに焦点を合わせたことである。CSFのYKL‐40やビジニン様タンパク質1(VILIP‐1)のような、付加的マーカーも、認知的に正常な老齢者における臨床的低下予測のために、Aβと相互に作用するかもしれない。最後に、本研究で調査された対象者は、調査研究に参加することに意欲的な、高度に選択された、全般的に健康な老齢者の集団を象徴しているかもしれない。そのため、これらの研究結果は、一般の老齢者をより代表する独立した地域密着型コホートでのさらなる確証が必要である。

 臨床的展望から、これらの結果は、米国立老化研究所(National Institute of Aging)と米アルツハイマー病協会(Alzheimer's Association)の合同作業グループによって最近提唱された、3段階前臨床的アルツハイマー病の枠組みと一致しており、CSFのAβ1-42とp‐tau181pで構成されるバイオマーカープロファイルの方が、どちらかのバイオマーカー単独でよりも、結果として起こるアルツハイマー型認知症への進行リスクが高まっている老齢者をよりうまく識別するかもしれないことを示している。アルツハイマー型認知症の臨床症状発現にAβ蓄積は必要であるが十分ではないとすると、CSFのp‐tau181pが増加しAβ1-42が減少している老齢者が、正常p‐tau181pでAβ1-42が減少している人よりも臨床的進行の異なる割合を有するらしいことから、早期介入試験は、参加者のCSFのp‐tau181pとAβ1-42状態両方を考慮するべきである。これらの研究結果は、明確にタウを標的にする新たな治療研究法開発の必要も明示している。Aβが変性カスケードを起こすが、タウ値の上昇は、神経変性変化が大部分Aβとは独立して起こるアルツハイマー病の病的進行の別の段階を象徴するかもしれないということがありそうである。それとして、CSFのAβ1-42減少とp‐tau181p増加の両方を抱える老齢者において、タウのリン酸化や凝集のような下流の事象を目標にすることは、追加的に有益な治療戦略かもしれない。

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