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漢方のほんと① なぜ効くの?

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

 現在、医師の9割が、漢方を日常診療に用いていると言われます。そこまで身近な存在になっているのに、どうして効くのか、何が西洋医学と違うのか、意外と知りませんよね?

堀米香奈子 ロハス・メディカル専任編集委員(ミシガン大学環境学修士)

 まず、言葉の整理から。漢方は、東洋医学の一種です。そして漢方を「中国の医学」と誤解している人も多いと思われますが、慶應義塾大学の渡辺賢治教授によれば、「日本独自の伝統医学」だそうです。5~6世紀に中国から伝わった医学を起源にはしていますが、その後は日本独自に発達してきたものなのです。そもそも「漢方」という言葉自体、江戸時代に我が国で作られた造語で、中国では通じません(中国で独自の医学は「中医学」と呼ばれます)。

 江戸時代までは漢方が標準の医療であり、西洋医学を施す医師の方が「蘭方医」と呼ばれ特別の存在でした。

 しかし明治政府が、西洋医学しか認めないという方向に舵を切ったため、一転して漢方は衰退~消滅の危機に見舞われます。何とか細々と生き残り、昭和に入ってから本格的に体系化が進むと同時に勢力を盛り返しました。1967年には医療用漢方製剤が登場、保険収載され、一般の診療現場にも広く支持されることとなっています。

部分か全体か
理屈か経験か

 さて、今日の医療の主流派である西洋医学と、東洋医学では、ものの見方が大きく違います。

 同じ患者を診ていても、西洋医学が主に「病気」を客観的に見るのに対し、東洋医学は「病気を抱えた人」を、本人の主観も重視しながら見ます。西洋医学では、生体システムを単純化・細分化して見るのに対して、東洋医学では生体をシステムとして丸ごと捉えます。

 どちらが優れているというものではなく、お互いの強みを生かすことができれば補完関係にあります。漢方の体系化を担った昭和の先達も、元々は西洋医学に限界を感じた西洋医学の医師でした。
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 大枠として東洋医学に共通するのは「症状を生体からの信号と捉え、生体の機能を高めて活用することで病を治そう」という考え方で、まずは「証」(病気を抱えた本人の状態や体質の分類)を決定します。

 ここからは、それぞれの国の伝統医学によって違いが出ます。漢方の場合、証が決まれば治療法も決まります。「この漢方薬は、どんな体質の人の、どんな症状に効くのか」という膨大なデータがずっと蓄積されてきており、なぜ効くのか理由は不明でも、効くのは経験上分かっています。日本人の体質にあった治療法が、何百年にわたる経験の蓄積から見出されているわけです。

 理屈ではなく経験から積み上げられているために、薬の使い方が国によって異なるということも起きます。例えば風邪薬として知られる「葛根湯」は日本では肩凝りにも適応がありますが、中国にはありません。あくまで国内で経験的に効果のある場合もあると分かって使われているからです。

 現在、ドラッグストアなどでは、陳列棚の一角に並んだ漢方薬を自分でレジに持っていけば、簡単に購入できるようになっています。副作用が軽いというイメージも根強くありますが、決してそんなことはありません。「証」と合っていればこそ、です。漢方の知識のない人が、専門家のアドバイスなく「病名」を頼りに安易に使用すると、効かないだけならまだしも、逆効果になることもあります。

効くかどうか
腸内細菌も重要

 ところで漢方の場合、同じ人に同じ病名がついているのに、その人のお腹の状態によって証は異なり処方も異なるという場合があります。薬の代謝能力などの遺伝情報は変わっていないのに効く薬が変わるのは非科学的と見る向きもありましたが、実はそうではないということが最近分かってきました。

 というのも、ある種の漢方薬が体内で効き目を発揮するには、腸内細菌に漢方薬成分である「配糖体」(糖と非糖成分の化合物)を分解してもらって、有効成分単独の状態になる必要があるのです。腸内細菌が糖部分を食べることで、残りの有効成分だけの状態に。

 腸内細菌叢の内訳、つまり配糖体を分解する能力の程度は、民族や食生活、そして個人によって、かなりのばらつきがあります。さらに同じ人でも、日によって異なります。患者一人ひとりの証を見極めることは、極論すれば腸内環境を見極めることでもあるというわけです。

 腸内細菌の重要さが分かってみると、漢方薬が一般に食前または食間に服用するよう指定されている理由も見えてきます。食後に服用すると、大量の食べ物に阻まれて、配糖体の分解が進みません。

個別化の先駆け
今後はエビデンス

 近年、西洋医学ではEBM(エビデンス=科学的根拠=に基づく医療)が絶対視されつつあります。

 しかし渡辺教授は、「EBMが金科玉条のように掲げられ、『新しい抗がん剤の奏効率が50%、ただし10%に副作用が現れますが、使いますか?』といったように、しばしば医師の判断にエビデンスが先んじてしまっているようです。本来、エビデンスはあくまで参照するものに過ぎないはずなのですが」と、この風潮の行き過ぎに首をかしげます。

 見てきたように漢方は、膨大な使用経験に下支えされた「究極の個別化医療」(渡辺教授)という側面を持っており、エビデンスからこぼれる少数派の人たちにとっては心強い存在です。

 一方で漢方にエビデンスが求められているのもまた事実、時代の要請です。でないと、一握りの名医しか十分に使いこなすことができないままのもので終わってしまいます。渡辺教授らは漢方をさらに役立てるため、個別化医療、本人の主観(自覚症状)の重視、全人医療といった特性を利用した、新しいEBMの打ち立て方を研究していると言います。

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