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筋肉注射なぜ減った?

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。


筋肉注射は痛いのか

 冒頭にも触れたように、一般に「筋肉注射は痛い」と思われています。

 確かに筋肉注射では筋肉まで針先が届くよう、皮下注射より丈夫な太い針を使います。ブスっと皮膚に垂直に刺すので、見た目にも怖いですよね。皮膚には痛点が無数に分布しており、皮下組織や筋肉にも痛みを感じる神経があって、針が太いほどそれらを刺激しやすくなります。

 注射液が組織や血管を圧迫する痛みもあります。筋肉注射では、薬液は筋肉組織を圧迫し、筋肉内の血管に吸収されて血管を押し広げます。人為的に肉離れを起こしているようなもので、特に筋肉組織は皮下組織よりもすき間が少なくぴったりくっついているので、痛みも大きくなりやすいのです。

 ただし実は、同じワクチンを皮下注射した場合と筋肉注射した場合を比較したら、筋肉注射の方が痛くなかったという研究(Mark A, et al. 1999、Carlsson R-M, et al. 2000)があります。

 つまり筋肉注射そのものが痛いというよりも、先述のように痛みの強く出る薬剤の時によく選ばれるため、汚名を着せられている側面もあるのです。

注射濫用が生んだ病

 ここまで痛みについて書いてきましたが、痛みを敬遠されて筋肉注射が廃れたというわけではありません。

 今からちょうど40年前の1973年、山梨県のある町で、「筋拘縮症(筋短縮症)」と呼ばれる病が幼児の間に集団発生しました。太ももの前の部分の筋肉(大腿四頭筋)が異常に収縮したまま、膝が伸びずに歩けなくなってしまう症状です。その原因が筋肉注射にあると指摘され、一気に国民の関心が高まることとなりました。

 国会で取り上げられ、厚生省が全国調査に乗り出した他、「注射による筋短縮症自主検診団」も発足し、原因追究の動きが一気に加速。1975年末までに、筋肉注射を原因とする患者が少なくとも3669人(厚生省)確認されました。

 こうした事態を受け、日本小児科学会も実態調査を行いました。その結果「筋拘縮症が注射に起因することは明白であり、(中略)注射の対象となった疾病の殆んどが、通常注射を必要としないカゼ症候群に対して行われているということから、筋拘縮の多発が、注射の濫用に基づくものと結論づけざるを得ない」と明言されるに至りました。(「筋拘縮症に関する報告書」『日本小児科学会雑誌』八七巻六号)

 ちなみに筋肉注射濫用の背景については、「製薬業界の販売攻勢や、それを無批判に受け入れた医師の姿勢、現物給付の現行健康保険制度、国民皆保険による受診者の増加、注射礼賛の社会的風潮、医療の閉鎖性、患者の医師に対する依存性」を列挙、「医師としては、周囲のこれら社会的諸要因に迷わされることなく、医学的考察に基づいて注射の適応を厳密に考慮する姿勢が何よりも必要であった」「ひいては患者の人権尊重の理念が甚だ希薄であった」と反省しています。

 さらに学会は、「筋肉注射に関する提言」(1976年)とその解説(1978年)もまとめます。

 そこでは、「わが国において多発した筋拘縮症患者の注射歴をみると、かぜ症候群に対して、解熱剤、抗ヒスタミン剤、抗生剤などが筋肉注射されている場合が圧倒的に多い」と薬剤の種類まで指摘して、「いわゆる〝かぜ症候群〟に対しては注射は極力さけること」としています。

 「もし解熱剤を使用する場合でも、経口投与を原則とし、緊急時以外は筋肉注射を避けるべき」「抗生剤の投与を必要とするときでも、(中略)経口投与を原則としなければならない。抗生剤の筋肉注射剤には、組織障害性の強い薬剤が少なくないからである」との見解も示されました。

 さらに「筋肉注射には安全な部位はない」「筋肉注射に安全な年令はない」「筋肉注射の適応は通常の場合においては極めて少ない」と、薬剤の種類を問わず筋肉注射全般をけん制する項目が並びます。それまでの濫用黙認あるいは放任から180度の方向転換、完全に逃げ腰です。

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