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赤ワインで肺がんリスク低下の可能性あり
米国で、ビール、白ワイン、赤ワイン、蒸留酒によるアルコール摂取量と肺がんリスクの関連について調べたところ、赤ワインではリスク低下の見られることが分かりました。
Alcoholic Beverage Intake and Risk of Lung Cancer: The California Men's Health Study
Chao C, Slezak JM, Caan BJ, Quinn VP.
Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2008 Oct;17(10):2692-9.
PMID:18843011
川口利の論文抄訳
発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。
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●背景
肺がんは、米国において男女ともにがんによる死亡の主因となっており、2007年には213,380件の新症例と160,390件の死亡が起こると予測された。アルコール摂取量と肺がんリスクとの関係可能性が思索されてきているが、疫学研究はアルコール摂取が肺がんに与える影響に関する一致したエビデンスを提供してきてはいない。いくつかの研究では、異なったタイプのアルコール飲料は肺がんリスクに対して異なった影響を与えるかもしれないことを示唆している。さらに、文献における大きな相違は、観察された関連性の本質を限定的にしか理解できない。例えば、多くの先に実施された研究では、喫煙のパックイヤーのみでの補正を加えており、喫煙の影響に対する不完全な補正になることが知られている。受動喫煙、社会経済的状況、食事摂取量などがアルコール飲料の消費と強く関連することが知られてはいるものの、他の肺がん関連因子での補正を加えている研究はほとんど存在しない。これらの問題に取り組むため、California Men's Health Study(CMHS)において収集された喫煙歴詳細および生活様式データを用いて、知られている潜在的に重要な交絡因子で補正を加えた前向きコホート研究を実施した。
●方法
(1)対象者
CMHSは、カリフォルニア最大のマネジドケア組織であるカイザーパーマネンテの南北カリフォルニア地域の男性会員対象の多民族コホートである。2000年1月に45~69歳で医療保険加入後少なくとも1年が経過している男性会員すべて、約850,000人が適格とされた。2002年1月から2003年12月までの間に、異なる会員に対して、ウェーブ1~3に分けて郵便を出し、それぞれに2回のアンケート調査を依頼した。2回のアンケートに回答した、約40%の少数民族を含む84,170人がコホートに加わった。CMHSコホートは、重要となる特徴においては医療保険会員集団と同様であり、また、カリフォルニア州の一般的健康調査へ回答した男性とも重要となる人口統計学上や医療上の特徴が同様であった。研究ベースライン時から2006年12月までの間に11,144人が医療保険加入を終了したため、2006年終了時までの追跡調査割合は87%となった。
(2)アンケート調査
アンケート調査では、人口統計学、出身国、収入、人体測定学、家族のがん既往歴、現在の健康状況、医薬品使用、運動、喫煙に関する情報が収集された。アルコール摂取量、食事摂取量、マルチビタミン摂取量については、別の研究で使われた詳細な半定量的食物摂取頻度調査票(*1)を男性健康調査用に修正したものを用い、情報を引き出した。ビール、赤ワイン、白またはロゼワイン、蒸留酒の摂取頻度が以下の分類で評価された。
1 0または1杯未満/月
2 1~3杯/月
3 1杯/週
4 2~4杯/週
5 5~6杯/週
6 1杯/日
7 2~3杯/日
8 4~5杯/日
9 6杯以上/日
飲料のサイズは標準供給サイズから、ビールには12オンス缶またはビン、ワインには6オンスグラス、蒸留酒には1.5オンスショットグラスを用いた。総アルコール摂取量は、それぞれのアルコール飲料の摂取量を合算した。
喫煙に関しては、「あなたの人生において、100本以上のタバコを吸ったことがありますか?」という質問によって確認された。「はい」と答えた人には、吸った年数の合計と1日あたりの平均本数も尋ねた。以前喫煙していた人には、やめてからの期間を尋ねた。さらに、幼年時代および成人時代における家・職場・バーやレストランなど家ではない場所での受動喫煙に関する情報も収集した。
(3)肺がんの確認
医療保険のがん登録から識別した。登録には、1988年以来の新たにがん診断を受けたり治療を受けたりしたすべての患者のデータが含まれている。州法によりがん報告が義務づけられており、がん患者の概要はカリフォルニア州がん登録および米国国立がん研究所のSurveillance, Epidemiology, and End Results Program(米国の地域がん登録システム)へと送られるので、がん症例の確認は非常に有効期待度が高い。症例確認のため、2002~2006年のカイザーパーマネンテ医療記録の肺がん症例固有登録番号とCMHSコホート全体をコンピュータ照合させ、診断および肺がんの病理組織タイプデータを手に入れた。研究ベースライン時(2002~2003年)と2006年12月までの間で、269件の肺がん症例が識別された。
(4)除外基準
非黒色腫皮膚がんを除いて、以前に何かのがん診断を受けたことがあると報告をした対象者5,976人が除外された。また、ベースライン時から6カ月以内に肺がんの診断を受けた28名も、アルコール消費や他の報告行動に一時的な不明確さが出る可能性から除外された。分析対象として残ったのは、78,168人となった。
(5)統計分析
分析モデルの補正因子として以下のものを考慮した。
1 年齢
2 人種・民族
3 教育レベル
4 世帯収入
5 BMI(18.5未満、18.5~24.9、25~29.9、30以上)
6 COPD(慢性閉塞性肺疾患)・肺気腫既往歴
7 喫煙状況(全くなし、現在喫煙、禁煙後5年以下、禁煙後6~9年、禁煙後10年以上)
8 喫煙期間(10年以下、11~20年、21~30年、31~40年、41年以上)
9 1日あたりの喫煙本数(10本以下、11~20本、21本以上)
それぞれのアルコール飲料は、摂取量に従い以下の4群に分類した。
1 全くなし(月に1杯未満を含む)<コントロール群>
2 週に1杯未満
3 週に1杯以上だが日に1杯未満
4 日に1杯以上
異なる種類のアルコール飲料を統合した場合の摂取量は以下の5群に分類した。
1 全くなし<コントロール群>
2 日に1杯未満
3 日に1杯以上だが2杯未満
4 日に2杯以上だが3杯未満
5 日に3杯以上
●結果
78,168人の対象者による2002~2006年までの調査で300,516人年を数え、210件の肺がん症例があった。粗分析では、蒸留酒摂取量は肺がんリスクと明確に関連があり、一方赤ワイン摂取量が肺がんリスクと負の相関にあった。現在喫煙している人は、ビールと蒸留酒の摂取量増加とはプラス方向に関連があり、赤ワインや白ワイン消費とは負の相関にあった。四つのアルコール飲料ともに、カロリー摂取量の増加と関連があり、ビールと蒸留酒は肉をより多く摂取することと関連し、ワインを飲むこととの間には肉の摂取量減少が見られた。赤ワイン消費は、フルーツや野菜の摂取量が増えることとも関連があるように見えた。
ビール、白ワイン、蒸留酒、赤ワインを少なくとも1日に1杯摂取する群のハザード比は、摂取なしの群を1.0とした場合に以下の通りであった。
1 ビール 0.78(信頼区間 95% 0.45~1.35)
2 白ワイン 0.87(信頼区間 95% 0.31~2.40)
3 蒸留酒 0.93(信頼区間 95% 0.54~1.58)
4 赤ワイン 0.55(信頼区間 95% 0.23~1.29)
ビールを1週間に1杯未満摂取群では、ハザード比1.48(信頼区間 95% 1.00~2.19)と有意な関連が見られたが、明確な用量作用相関はなかった。ビール、白ワイン、蒸留酒との関連では不均質性は見られなかったので、3種類のアルコール飲料を統合した摂取量の影響調査を行った。やはり明確な関連は見られず、ハザード比は以下のようになった。
1 1杯未満/日 1.26(信頼区間 95% 0.87~1.83)
2 1杯~2杯未満/日 0.71(信頼区間 95% 0.36~1.39)
3 2杯~3杯未満/日 0.96(信頼区間 95% 0.50~1.87)
4 3杯以上/日 1.08(信頼区間 95% 0.60~1.94)
赤ワイン摂取量と肺がんリスクに関しては有意な負の相関が示され、1カ月に1杯赤ワインを多く摂取することによるハザード比は0.98(信頼区間 95% 0.96~1.00)となり、肺がんリスクを2%低下させることが分かった。喫煙経験者(169,812人年中191件の肺がん)では、1日に1杯以上の赤ワイン摂取群のハザード比は0.39(信頼区間 95% 0.14~1.08)だった。20パックイヤー以上の喫煙経験者(47,074人年中135件の肺がん)において相関関係は少し強まり、1カ月に1杯赤ワインを多く摂取することによるハザード比は0.96(信頼区間 95% 0.93~1.00 P=0.04)となった。
●考察
本研究においては、人口統計学因子や生活様式因子で補正した分析結果として、ビール、白ワイン、蒸留酒の摂取量と肺がんリスクとの間には明確な関連は見られなかったが、赤ワインとの間には負の相関が見られ、特に喫煙経験者ではその相関が強まった。
ビール、白ワイン、蒸留酒三つを統合しても、1日3杯までの摂取であればなんら有害反応は見られず、これは先のメタ解析が1日に5杯以上というような高い摂取量でなければ、総アルコール摂取量と肺がんとの間に明確な関連はないと報告していることに一致している。
20パックイヤー以上の喫煙経験者では赤ワインの摂取量と肺がんリスクとの間に負の相関が見られた。この発見は、もし確定されるのなら、現在および過去での喫煙者における肺がんの化学防御という点で深いことになる。赤ワインはフラボノイドやレスベラトロールなどの抗酸化剤を高いレベルで含むことが知られている。赤ワインと白ワインにおける対照的な研究成果が興味深いところである。白ワインも植物性化学化合物を含んでいるが、赤ワインと比較して、抗酸化剤の濃度や活性がずっと低い。発がんの前臨床モデルにおいて、レスベラトロールが、試験管内のヒト気管支上皮細胞の前発がん物質活性化を変えること、ヒト肺がん細胞株のアポトーシスを誘引すること、マウスの肺腫瘍成長を遅らせることが発見されており、肺がんに対するレスベラトロールの化学防御可能性を示している。食物からのレスベラトロールがヒトに与える効果を決定づけるためには臨床研究が必要となるであろう。赤ワインと白ワインの効果を別々に検証した研究は、他には一つしか存在しておらず、そこにおいては、赤ワインは肺がんと負の相関があり、白ワインはリスクを高めると報告されている。
本研究におけるCMHSコホートは、平均的に中度のアルコール摂取量であったので、大量に摂取することが肺がんに与える影響について調べることには限界があり、中程度のアルコール飲料摂取は、男性において肺がんリスクに対する有害反応はないという結論にとどまる。赤ワインと肺がんリスクとの間では、特に喫煙経験者において有意な負の相関が見られたが、赤ワインに豊富に含まれる肺がん化学防御作用剤のさらなる研究を提案するものである。