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適度のアルコールは女性の抑うつリスクを低下させるかも

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 スペインでの調査で、アルコール摂取量と抑うつ発現リスクの関連を調査したところ、女性においてのみ、適度なアルコール摂取がリスク低下につながりそうであると分かりました。

A longitudinal assessment of alcohol intake and incident depression: the SUN project
Alfredo Gea, Miguel A Martinez-Gonzalez, Estefania Toledo, Almudena Sanchez-Villegas, Maira Bes-Rastrollo, Jorge M Nuñez-Cordoba, Carmen Sayon-Orea and Juan J Beunza
BMC Public Health 2012, 12:954 doi:10.1186/1471-2458-12-954
Published: 7 November 2012

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 単極性抑うつ障害は、世界で最も広まっている精神疾患で、着実に増加している。抑うつ罹患率は、ある人口集団においては21%にまで及ぶかもしれない。抑うつは、障害調整生命年(Disability Adjusted Life Years=DALYs)で測定される3番目に主要な疾病負荷であり、障害によって失われた年数で測定される1番目の疾病負荷である。もし、何もなされなければ、抑うつは2030年には疾病負荷の1番の要因となるであろう。

一方、適度なアルコール摂取が心血管疾患発現に対して効果的であることを差し引いたとしても、1年あたり225万件の死亡が、アルコール摂取に帰しているかもしれない。さらに、アルコール摂取は、世界的な死亡危険因子の8番目であり、DALYsで測られる疾病や障害の3番目の危険因子となっている。いくつかの横断的研究は、抑うつと、アルコール依存症やアルコール乱用を含むアルコール使用障害(Alcohol Use Disorders=AUD)との高い共存症率を示してきている。コホート研究や症例対照研究の中にはこの関係を調査したものもあるが、アルコール摂取量と臨床的に診断される抑うつとの縦断的関連は、これまでのところ評価されてきていない。さらには、逆の因果関係は、横断的研究や追跡調査機関の短い研究の有効性にとって重要なる脅威となる。アルコール摂取は、アルコール飲料の種類や量や飲酒様式の点で、異なった集団で非常に多様である。本研究では、赤ワインが最もよく摂取されるアルコール飲料である地中海のコホートにおいて、追跡期間10年間での抑うつ発現にアルコール摂取が与える長期影響について前向きに評価することを目的とした。

●方法

(1)対象者
 スペインのナバラ大学追跡調査(SUN)プロジェクトは、Nurses' Health StudyやHealth Professionals Follow-up Studyのモデルに従い、大学卒業者を対象に1999年に始まった前向き動的コホート研究である。隔年実施の郵送アンケートにより、対象者の更新情報が入手された。1999年から2008年2月までに19,576人が登録され、2001年から2010年まで追跡調査がされた。このうち、17,462人が、少なくとも1回は追跡調査アンケートを受けた。エネルギー摂取量が800Kcal/日以下または4,000 Kcal/日以上の男性、500 Kcal/日以下または3,500 Kcal/日以上の女性1,675人、ベースライン時に抑うつあり・抑うつ既往歴あり・抗うつ薬服用ありと報告した1,844人、最初の追跡調査アンケートで抑うつを報告した324人を除外し、最終分析に含まれたのは13,619人となった。

(2)曝露評価
 アルコール摂取量は、ベースライン時に、過去1年間の赤ワイン・その他のワイン・ビール・蒸留酒に分けたアルコール飲料摂取に関する質問を含む半定量食物摂取頻度調査により評価された。対象者は、ベースライン時のアルコール摂取量により、禁酒者・10g未満/日摂取者・10~25g/日摂取者・25g超/日摂取者の4グループに分類された。これらは、スプライン分析結果によって、禁酒者・5 g未満/日摂取者・5~15 g/日摂取者・15 g超/日摂取者に再分類された。

(3)結果評価
 抑うつの発生症例は、追跡調査期間中4年目・6年目・8年目・10年目のいずれかのアンケートにおいて、「あなたは今までに医師から抑うつの診断を受けたことがありますか?」という問いに対して「ある」という回答をした場合、あるいは4年目以降に抗うつ薬を常用していると報告した場合とした。最初の2年間の追跡調査期間内に抑うつ診断を受けた、あるいは抗うつ薬を常用していると報告した場合は除外した。抗うつ薬の使用は、対象者が常用薬を報告する自由回答式質問で確認された。

(4)共変数評価
 ベースライン時アンケートから、医療的・社会人口統計学的・人体測定学的・生活様式的変数情報を入手した。身体活動は、身体活動アンケートを通じて評価された。地中海ダイエット様式については、フルーツやナッツ・野菜・魚・豆類・穀類・乳製品・肉や肉製品・一価不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸割合の8項目を統合して評価された。

(5)統計分析
 禁酒者を比較対象として、アルコール摂取量の4群と抑うつ発生の関係を評価し、比例ハザードモデルによるハザード比を算出した。補正モデルでは、喫煙・身体活動(MET-h/週)・総エネルギー摂取量(Kcal/日)・BMI・地中海ダイエットへのこだわり・婚姻状況・雇用状況を交絡因子として考慮に入れた。

 最終的に、アルコール摂取量と抑うつの間の非線形関連を評価し、性別に層分けしたハザード比を算出した。また、ビール・ワイン・蒸留酒それぞれのアルコール飲料を独立させての分析も実施した。

●結果

 13,619人中、男性が5,701人、女性が7,918人、ベースライン時平均年齢は38歳だった。25 g超/日摂取者の86%は男性、男女平均年齢は46歳で他の群より年齢が高く、BMI値もより高かった。

 追跡調査期間総計82,926人年中で459件の抑うつ症例が確認された。

 比例ハザードモデルによる補正後のハザード比は以下の通りとなった。
1 禁酒者(比較基準)   1.0
2 10g未満/日摂取者   0.83(信頼区間 95% 0.66~1.04)
3 10~25g/日摂取者   0.81(信頼区間 95% 0.59~1.11)
4 25g超/日摂取者    0.86(信頼区間 95% 0.53~1.39)
全体的に負の相関が見られたが、統計的に有意とはならなかった。

 ハザードモデルと同じ交絡因子で補正した後の3次スプライン分析では、女性にのみ総アルコール摂取量と抑うつリスクとの間に統計的に有意な非線形関連が見られた(P=0.01)。スプライン分析結果による摂取群再分類後のハザード比は以下の通りとなった。
①男性
1 禁酒者(比較基準)   1.0
2 5g未満/日摂取者    0.82(信頼区間 95% 0.50~1.36)
3 5~15g/日摂取者    0.64(信頼区間 95% 0.39~1.07)
4 15g超/日摂取者    0.68(信頼区間 95% 0.39~1.19)
②女性
1 禁酒者(比較基準)   1.0
2 5g未満/日摂取者    0.97(信頼区間 95% 0.75~1.27)
3 5~15g/日摂取者    0.62(信頼区間 95% 0.43~0.89)
4 15g超/日摂取者    0.84(信頼区間 95% 0.47~1.48)
女性の5~15 g/日摂取者群にのみ、抑うつリスク低下が有意に見られた。

●考察

 本研究においては、アルコール摂取量により抑うつリスクがどうなるのかを調査したため、抑うつによってアルコール摂取量がどうなるのかという逆の因果関係を生むようなバイアスを取り除く努力をした。最初の2年間に抑うつの定義に入った対象者を除いての分析、ベースライン時アルコール摂取量との関連は薄いとの判断から10年後に抑うつの定義に入った対象者を除いての分析、抑うつに与える影響を考慮してがんや心血管疾患に罹患している対象者を除いての分析など、アルコール摂取量が抑うつリスクに与える影響の調査から的が外れないようにした点が強みであり、それぞれのバイアスを取り除いたモデルにおいても分析結果は同様のものであった。

 女性においてのみ、1日あたり5~15グラムの適度なアルコール摂取が抑うつ発現を予防するかもしれないことは分かったが、多量のアルコール摂取が利益を与えることはなさそうである。

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