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体重と死因の関係

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 米国でBMI分類と死因別死亡率を調査したところ、標準体重群との比較で過剰死亡となるのは、必ずしも特定のBMI群に偏るわけではなく、死因によって異なること、死因によっては意外にも体重超過群で死亡率が低くなることが分かりました。

Cause-Specific Excess Deaths Associated With Underweight, Overweight, and Obesity
Katherine M. Flegal, PhD, Barry I. Graubard, PhD, David F. Williamson, PhD, Mitchell H. Gail, MD, PhD
JAMA. 2007;298(17):2028-2037. doi:10.1001/jama.298.17.2028.

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 以前の研究では、国の調査からのデータを用い、2000年の米国における標準体重未満・体重超過・肥満と過剰総死亡率との関連を推定した。その結果、標準体重群と比較して、標準体重未満群と肥満群では総死亡率が有意に上がり、体重超過群では有意に下がると分かった。これらの研究成果にさらなる見識を加えるため、研究内容を広げ、より長期の追跡調査による追加死亡データを用い、2004年の米国成人における死因別死亡率と体重分類との関連を検証するものである。

●方法

 2004年の25歳以上の死亡データを用い、標準的な113の死因リストによって記録された基本的死因を用いた。International Classification of Diseases, Ninth Revisionの第9版及び第10版(ICD-9、ICD-10)に対応する詳細となっている。死亡を、心臓血管疾患(CVD)、がん、その他(がんでもなくCVDでもない)三つのグループに分類し、いくつかの分析のためにはこの大分類をさらに細分化した。米国国立がん研究所のObesity and Cancer Fact Sheet(肥満とがんの実態調査表)に従い、結腸がん・乳がん・食道がん・子宮がん・卵巣がん・腎臓がん・膵臓がんによる死亡は、肥満関連がんによる死亡と考えた。

 他のすべてのデータは、国立健康統計センターのNational Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)(全国健康栄養調査)からのものを使用した。それぞれのNHANESにおいて、米国人口の国民を代表する異なった横断的標本が検証された。相対危険度推定のために、NHANESI(1971~1975)、NHANESⅡ(1976~1980)、NHANESⅢ(1988~1994)のベースライン時データおよびこれらの調査に使用された2000年までの死因別死亡率データを利用した。身長と体重は標準的方法で計測され、BMIはキログラム体重÷メートル身長で算出した。

 相対危険度算出のため、年齢を三つの層に分類し、25歳以上~60歳未満、60歳以上~70歳未満、70歳以上とした。年齢は時間的尺度のため、これらの年齢は、ベースライン時年齢ではなく、到達年齢となっている。BMIは以下のように分類した。
1 標準体重未満      BMI 18.5未満      
2 標準体重(比較基準)  BMI 18.5以上~25未満  
3 体重超過        BMI 25以上~30未満   
4 肥満グレード1     BMI 30以上~35未満 
5 肥満グレード2・3    BMI 35以上     

 BMI分類、性別、喫煙状況(全くなし・過去にあり・現在あり)、人種(白人・黒人・その他)、1日あたりのアルコール摂取量(0.07オンス未満・0.07~0.35オンス未満・0.35オンス以上)を含めたモデルを用意した。

 BMI分類に関連した2004年の死亡割合を算出するため、まずNHANESの3データを統合したものから死因別相対危険度を割り出した。ある年齢層からの死因別相対危険度をNHANES1999~2002年横断的調査データから推定されるその年齢層におけるBMIおよびその他共変数分布に対応させた。

 それぞれの死因に対する過剰死亡推定数は、特定年齢層における2004年の総死亡数に死因別寄与割合を乗じ、すべての年齢総の合計することで算出した。2次分析は、大分類による死因を細分化して行った。

 より正確に1971~1994年にわたる20年以上の米国人口に相当する結果を得るために統合データからの推定をしたが、2000年までの追跡調査を加えると、NHANES Iは29年以上、NHANES Ⅱは24年以上、NHANES Ⅲは12年以上の追跡期間を有することとなるため、NHANES Ⅲから提供される死者数よりもそれ以前の調査からの死者数が大きいこととなった。

 NHANES Iに一番ウェイトのかかる全データ統合を一つのアプローチ(total follow-up、TF)と定め、もう一つ追跡期間が各NHANESでほぼ一定となるように15年を超えない限定的アプローチ(balanced follow-up、BF)を用意し、両方からの結果を報告することとした。

●結果

(1)CVD死亡
 体重超過ではなく、肥満がTFで過剰死亡112,159(信頼区間95% 87,842~136,476)、BFで過剰死亡81,072(信頼区間95% 51,433~110,710)と有意な関連にあった。2次分析では、冠動脈性心疾患(CHD)と脳卒中を含むその他の心臓血管疾患とに分類した。BFでは、肥満群がCHDにおいても他のCVDにおいても死亡増加と有意な関連にあり、CHDでは過剰死亡45,544(信頼区間95% 24,785~66,303)となり、その他のCVDでは過剰死亡34,097(信頼区間95% 13,848~54,346)となった。TFではこれよりも少し高い数字となっており、CHDでは過剰死亡66,572(信頼区間95% 50,582~82,562)、その他のCVDでは過剰死亡42,650(信頼区間95% 24,888~60,413)であった。標準体重未満群や体重超過群は、CHDにおいてもその他のCVDにおいても死亡数の増加・減少とは有意な関係にはなかった。

(2)がん死亡
 がんに関しては、TF、BFからともに、どのBMI群においても過剰死亡との間に有意な関連は見られなかった。肺がん、肥満関連がん(結腸がん・乳がん・食道がん・子宮がん・卵巣がん・腎臓がん・膵臓がん)、それ以外のがんで三つのサブグループに分けさらに調査した。BFで見ると、肺がんはどのBMI群においても有意な関連はなく、体重超過群と肥満群は肺がん死亡率減少と有意ではないまでも関連があった。全体的に、肥満関連がんは肥満群と有意な関連にあり、過剰死亡19,732(信頼区間95% 4,166~35,299)で肥満関連がんによる死亡の11.4%を占めた。TFで見ると少し下がり、過剰死亡13,839(信頼区間95% 1,920~25,758)となった。体重超過群と肥満関連がんとの間には、過剰死亡における有意な関連はなかった。その他のがんはBMI群との関連はなかった。

(3)がんでもなく、CVDでもない死亡
 がんでもなくCVDでもない死亡に関しては、標準体重未満群がTFで過剰死亡23,455(信頼区間95% 11,848~35,061)、BFで過剰死亡33,380(信頼区間95% 17,435~49,326)となり過剰死亡プラスに有意な関連を、体重超過群がTFで過剰死亡マイナス69,299(信頼区間95% マイナス100,702~マイナス37,897)、BFでマイナス107,674(信頼区間95% マイナス148,738~66,610)となり過剰死亡マイナスに有意な関連を見せたが、肥満群はプラス、マイナスどちらにも有意な関連とはならなかった。糖尿病と腎臓病、気管支炎・肺気腫を含む慢性呼吸器病、肺炎・肺結核・敗血症・その他感染症を含む急性呼吸器病と感染症、予期せぬケガ・自殺・殺人を含む傷害、アルツハイマー病・パーキンソン病・肝臓病を含め先の4分類に属さないがんでもなくCVDでもない死因の五つのサブグループに分けた。糖尿病と腎臓病をまとめたのは、若い年齢層にはほとんど糖尿病による死亡がなく、許容範囲での正確な推定をするためと糖尿病が末期腎臓病の大きな要因となっていることからであった。

 BFで見ると、糖尿病と腎臓病は体重超過群および肥満群と有意な関連にあり、体重超過群の過剰死亡13,904(信頼区間95% 2,534~25,273)、肥満群の過剰死亡33,643(信頼区間95% 20,640~46,645)となった。TFでは数字が上がり、体重超過群の過剰死亡15,872(信頼区間95% 7,973~23,772)、肥満群の過剰死亡45,376(信頼区間95% 35,532~55,219)となった。その他の4サブグループでは、体重超過群が死亡率低下と関連あり、急性呼吸器病と感染症グループを除いて、極めて有意な関連を見せた。全体として、肥満群にもその他4サブグループにおける関連は見られなかったが、それぞれのサブグループにおいて、肥満グレード1群は死亡率低下に、肥満グレード2・3群は増加への関連傾向があった。これら4サブグループをまとめると、体重超過群および肥満グレード1群が有意に死亡率低下に関連しており、TFで見て、体重超過群の過剰死亡はマイナス89,680(信頼区間95% マイナス122,901~マイナス56,458)、肥満グレード1群の過剰死亡はマイナス39,595(信頼区間95% マイナス61,807~マイナス17,382)となった一方で、肥満グレード2・3群は過剰死亡23,702(信頼区間95% 1,736~45,669)と死亡率増加に有意であった。

 体重超過群と肥満群をまとめると、糖尿病と腎臓病の死亡率増加に対しては、過剰死亡61,248(信頼区間95% 49,685~72,811)、その他4サブグループの死亡率低下に対しては、過剰死亡マイナス105,572(信頼区間95% マイナス161,816~マイナス49,328)がTFからの結果となり、BFからでは数字が下がり、糖尿病と腎臓病の死亡率増加に対しては、過剰死亡47,546(信頼区間95% 29,356~65,737)、その他4サブグループの死亡率低下に対しては、過剰死亡マイナス133,310(信頼区間95% マイナス212,272~マイナス54,348)となった。

(4)NHANESと追跡調査期間による傾向
 CVD死亡に関して差が生じた。2004年の推定数に関して、NHANESIの相対危険度を用いると、肥満と関連する過剰死亡は161,290(信頼区間95% 123,788~198,791)となり、全CVD死亡の19%となった。NHANESⅡの相対危険度を用いると、過剰死亡88,657(信頼区間95% 51,151~126,164)でCVD死亡全体の10%、NHANESⅢの相対危険度を用いると過剰死亡46,915(信頼区間95% マイナス5,694~99,524)でCVD死亡全体の5%となった。NHANESⅠによる推定数が大きいのは追跡期間が長いからではない。と言うのも、NHANESⅠにおける肥満と関連するCVD過剰死亡は、追跡期間15年で155,955(信頼区間95% 103、844~208,065)、20年で168,383(信頼区間95% 127,689~209,077)、25年で158,647(信頼区間95% 119,053~198,242)と、大きく異なることはなかったからである。また、体重超過群に関しては、NHANESいずれの相対危険度においても、あるいは統合した相対危険度においても、CVD、がん、がんでもCVDでもないのどれとも過剰死亡プラス方向への有意な関連は見られなかった。

●考察

 標準体重未満群の過剰死亡について、体重減少はがんやCVDによると言われてきたが、本研究結果では、別の研究にも示された通り、標準体重未満群はがんやCVDではなく、がんでもCVDでもない分類との関連があると分かった。本研究からは、標準体重未満群は主に慢性呼吸器病の過剰死亡において関連が大きく、慢性閉塞性肺疾患との関連が体重低下と一部関連しているかもしれない。体重超過群については、少し体重の多いほうが様々な環境に対応できるという見方もあり、本研究の結果からも回復や予後における生存力が高まると言えるのかもしれない。

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