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日本独自の基準で守られるのは誰?

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~ 進まない欧州との相互承認 ~
(シリーズ どうなってるの予防接種!?)

ワクチンの「有効性・安全性を担保するため」の基準や制度が、実は非関税障壁として働いており、ワクチンのギャップや価格高騰を起こしているのでないかという話の続きです。

 前号、12年7月に閣議決定された「規制・制度改革に係る方針」に「『ワクチンギャップ』の解消」をめざすものが4項目入っていたという話を紹介しました。

 政権は交代しましたけれど、自民党の政権公約にも最先端の医薬品などを迅速に導入するということは謳われていましたので、それほど大きく方向性は変わらないであろうとの前提で話を続けます。

 今回採り上げるのは、3番目の「日・欧州共同体相互承認協定(MRA)の対象国を拡大した上で、化学的医薬品以外の対象品目を追加することについて検討を行い、結論を得る」という項目です(4項目すべての文言はこちら)。

MRAとGMP

 MRA(Mutual Recognition Agreement)を聞き慣れないかもしれません。輸入の際に必要な手続きを輸出国で実施できるよう枠組みを定める協定です。2002年に発効したものなので、既に10年以上の歴史があることになります。

 固形医薬品(つまり液体医薬品やワクチンなど生物学的製剤は除く)も対象として含まれており、製造所の品質管理の工程や体制などを確かめるため規制当局が定期的に行う立ち入りのGMP(Good Manufacturing Practice)調査と、出荷時の検査を主に相互承認しています。

 MRA下では、相手国のGMP調査が自国と同じように行われていると認められる場合、輸入国当局による製造元の調査が不要となります。また、出荷時の試験検査を相互承認した場合、輸入時の試験が不要になります。

 MRAの拡大・追加がなぜワクチンギャップの解消につながるかと言えば、今回は触れない2番目の項目とも関連していますが、要するに輸入ワクチンの品質検査が製造国と日本とでダブっているのは非効率的なので、ダブりを解消するためワクチンなどの生物学的製剤をMRAの対象にしたらよいのでないか、という論法です。

スレ違う議論

 方針案を作り上げた内閣府行政刷新会議の規制・制度改革委員会第1ワーキンググループ(復旧・復興/日本再生担当)で、12年3月の会合に参考人として議論に参加したグラクソ・スミスクライン株式会社の杉本俊二郎取締役(欧州製薬団体連合会ワクチン委員長)は、「欧州と米国との間では、かなりの部分を相互に信頼して、製造国で行った試験を輸入の際に繰り返すことはないので、日本でも海外で行った試験の結果を認めてほしい」と説明します。

 3月のワーキンググループ会合でも、杉本氏と厚生労働省の中井川誠/監視指導・麻薬対策課長との間で次のようなやりとりがありました。

杉本 ヨーロッパの製造所で製造したワクチン製品に関して、当然品質証明を付けて出荷するわけですけれども、アメリカの場合ですと、先ほどのMRAの考え方もありましたが、品質証明を基にそのまま米国市場に出荷を許可する、あるいは一部試験を行うという対応になっているのに対して、日本の場合は、まず日本国内法人で輸入後、製造所用と同じ試験を行って、変化がないということを確認した上に、日本独自の試験を付加され、その上で国家検定に入っていくという形になっています。(中略)この重複については、同じことをやるので、ある意味では数を減らしてもいいのではないかと思っている次第です。

中井川 GMP省令というのは、製造工程とか品質管理の体制などがちゃんと相手国で整っていれば、お互いに調査は省略ができるということが一つの制度の枠です。(中略)GMP省令で規定されているような品質管理体制ですとか、正にシステムですとか、そういうもの全体がお互いの国同士で同じものであるということの確認作業が必要になってきまして、これが(中略)MRAという協定なわけです。その中では、現段階では、日本とヨーロッパの行政当局との合意事項として、それには同等性は認められないということで、現段階では対象外になっているものでございますので、そこの試験検査のところだけ省略してくれと言われても、これは外国交渉マターになるということでございます。

 杉本氏の発言のうち「日本独自の試験」は、前回指摘した動物試験などを指しています。

 今回紹介しているのは「重複」の方ですが、驚くほど議論が噛み合っていません。厚労省の公式見解は、MRAから生物学的製剤が除外されているのはGMP基準の違いによるもので、その違いをどうするかは「外国交渉マター」だから関知しない、ということのようです。

国内企業を守ってる

 では、生物学的製剤のGMP基準で日本と欧州と何が異なっているのでしょうか。ゴリゴリの「外国交渉」を要するような乗り越えがたい差があるのだろうと思いきや、ワーキンググループの資料によれば、①原材料の受け入れ・保管区域の区分、交差汚染を起こさない保管方法、②原料管理や製造に関する長期の記録の保管、の2点についてだそうです。

 協定発効から10年以上経っているのに、この程度のことをなぜ揃えられないのだろう、その間に関係者は何をしていたのだろう、と不思議な気がします。

 GMP基準が異なれば、日本のメーカーがワクチンを輸出しようとする時に障害となるはずです。しかし、日本製ワクチンが残念ながら国際競争力を失っているため、もっぱら輸入ワクチンに対する障壁としてのみ作用します。

 競争力のある医薬品についてはMRAの対象にしていることと考え合わせると、日本メーカーを守ろうとの意図で差異を放置している、と勘繰られても仕方ありません。日本メーカーを守っている間に国際競争力がついて外貨を稼ぐのだというように、それが国益につながると国民・納税者を納得させない限り、ワーキンググループが示した「必要性・合理性について、科学的根拠に基づいた検証をすべきである」との考え方が当然に思えます。

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