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アディポカインとインスリン抵抗性の関係

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 アディポカインがインスリン抵抗性の原因になるかどうかをアディポネクチン・レジスチン・TNF(腫瘍壊死因子)αという三つのアディポカインで調べたところ、それぞれがインスリン抵抗性と関連していることが分かりました。

Associations of Adiponectin, Resistin, and Tumor Necrosis Factor-α with Insulin Resistance
Marie-France Hivert, Lisa M. Sullivan, Caroline S. Fox, David M. Nathan, Ralph B. D'Agostino, Sr., Peter W. F. Wilson, and James B. Meigs
J Clin Endocrinol Metab. 2008 August; 93(8): 3165-3172.
Published online 2008 May 20. doi: 10.1210/jc.2008-0425

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 肥満と糖尿病は、世界的に流行となっている。脂肪組織は、2型糖尿病の生体病理学に寄与する内分泌器官として今や認識されている。脂肪組織によって産生されるたんぱく質であるアディポカインは、ヒトのインスリン抵抗性の潜在的原因になると証明されてきている。アディポカインは、ヒトの脂肪組織内の脂肪細胞とマクロファージの両方によって産生され、多様な傍分泌と自己分泌経路がその調節に関わっていることが、過去数年にわたり新たなエビデンスで示されてきている。これらの相互関係を捉えるため、本研究では、脂肪組織細胞タイプを代表する鍵となるアディポカインの組み合わせを選択した。すなわち、主に脂肪細胞によって産生されるアディポネクチン、主にマクロファージによって産生されるレジスチン、そして両方によって産生されるTNFαである。抗炎症性で抗糖尿病ホルモンでもあるアディポネクチンの血漿濃度は、中心性肥満やインスリン抵抗性と負の関係がある。アディポネクチンは脂肪細胞によって分化され、血流中を高いレベルで循環する。血中アディポネクチン濃度が低いことは、将来における2型糖尿病リスクが高くなる。レジスチンは、動物モデルにおいて、最初はインスリン抵抗性と結び付けられたポリペプチドである。ヒトにおける結果は一貫しておらず、正の関連を示す研究もあれば、そうではないものもある。ヒトの脂肪組織では、レジスチンは、主に浸潤性マクロファージにより産生されるようである。血中のレジスチンは脂肪症と正方向に関係しており、脂肪症に関連する炎症誘発性信号伝達に結び付けられるかもしれない。脂肪組織内では、TNFαは脂肪細胞とマクロファージの両方により分泌されるサイトカインで、中心性脂肪症をインスリン抵抗性と結び付ける炎症性反応に関係するかもしれない。ある研究では関連ないとされ、また別の研究では関係あるとされるように、ヒトに関する研究が一貫していないことによってインスリン抵抗性におけるTNFαの役割に関しての論争が起こってきている。

 ヒトのデータにおける不一致は、絞り込まれた小さな標本であることやいくつかのアディポカインの同時評価不足によるかもしれない。それ故に、地域密着型標本でのインスリン抵抗性の病態生理学におけるアディポカインの役割や相互関係は、十分には特徴づけられてきていない。ヒトにおけるアディポカインとインスリン抵抗性との関連が、メタボリックシンドロームや空腹時高血糖のような糖尿病前症の存在有無によって変更されるのかどうかは分かっていない。2型糖尿病リスクの低い人あるいは高い人における、いくつかのアディポカインの包括的同時的分析が、ヒトのインスリン抵抗性におけるアディポカインの役割の大きさや重要性を明らかにするために必要となる。

 それ故に、本研究の目的は、大規模な選択されていない標本において以下の仮説を分析することである。
1 アディポネクチン・レジスチン・TNFα濃度は、BMIによる補正を加えることに関連なく、HOMA-IRで測定されるインスリン抵抗性と関連がある。
2 アディポカインとインスリン抵抗性の関連は、メタボリックシンドロームまたは空腹時高血糖の存在有無によって定義される2型糖尿病発現リスクの高低にかかわらず継続する。
3 アディポカイン濃度は、糖尿病前症を含む多変量モデルにおいて、個別にも同時にもインスリン抵抗性と関連がある。

●方法

(1)対象者
 1998~2001年に実施されたFramingham Offspring Study7回目検査において、3,539人が空腹時血液サンプル提供および標準的健康診断を行った。糖尿病389人、メタボリックシンドローム診断値に不備のある311人、アディポカイン濃度データに不備のある483人を除外し、2,356人を本研究分析対象とした。

(2)曝露および結果定義
 主要従属変数は、HOMA-IRにより測定されたインスリン抵抗性とした。インスリン抵抗性を連続変数として評価する方法、HOMA-IR分布の最高四分位に属する人をインスリン抵抗性ありとする分類変数として評価する方法の両方を採用した。

 主要な独立変数は、空腹時血漿アディポネクチン濃度・レジスチン濃度・TNFα濃度とした。

 他の変数には、心疾患危険因子を含めた。
1 身長・体重・腹囲を測定し、BMIはキログラム体重÷メートル身長の二乗で算出した。
2 血圧は、少なくとも5分間座った後に2回測定した平均値を取った。
3 糖尿病前症は、メタボリックシンドロームであるか空腹時高血糖であることと定義した。
4 メタボリックシンドロームは、成人治療パネル3(ATP Ⅲ)基準を用い、以下のうち三つ以上が存在する場合と定義した。
①空腹時血糖値 5.6~6.9mmol/liter
②腹囲 男性で102cm以上、女性で88cm以上
③空腹時トリグリセリド値 1.7mmol/liter以上
④HDL-C値 男性で1.0mmol/liter未満、女性で1.3mmol/liter未満
⑤高血圧 130/85mmHg以上、または高血圧治療を受けている
5 空腹時高血糖は、空腹時血糖値が5.6mmol/liter以上6.9mmol/liter以下と定義し、糖尿病は空腹時血糖値が7.0mmol/liter以上、または血糖降下剤を使用している場合とした。

●統計分析

 以下の分析を実施した。
1 アディポカイン濃度とHOMA-IRとの相関、およびアディポカイン三分位とインスリン抵抗性傾向の分析
2 メタボリックシンドロームの有無によるHOMA-IRおよびアディポカイン分布
3 アディポカイン濃度三分位およびメタボリックシンドロームの有無によるインスリン抵抗性傾向
4 インスリン抵抗性とメタボリックシンドロームの有無およびアディポカイン三分位群との関連に関するロジスティック回帰分析

●結果

(1)対象者特性
 定義に基づき、対象者の25%はインスリン抵抗性ありに分類された。メタボリックシンドロームは42%となり、以下のような特徴があった。
1 より平均年齢が高い
2 より平均BMI値が高い
3 男性の方が多い
4 より平均HOMA-IR値が高い
5 よりインスリン抵抗性ありに分類されている(メタボリックシンドロームである人のうち、47.5%がインスリン抵抗性ありに分類され、インスリン抵抗性ありに分類された人の79.6%がメタボリックシンドロームであった)

 コホート全体では、31%が降圧剤を使用しており、17%が脂質異常治療薬を使用していた。メタボリックシンドロームの人では、50%が降圧剤、32%が脂質異常治療薬を使用していた。

 メタボリックシンドロームの人は、メタボリックシンドロームではない人と比較して、アディポネクチン平均濃度が低く、レジスチンとTNFα平均濃度は高くなっていた。

(2)HOMA-IRとアディポカイン
 それぞれのメタボリックシンドローム構成要素、年齢、BMIは、すべてHOMA-IRと有意な関連があった。年齢と性別で補正を加えた分析では、アディポネクチンはHOMA-IRと負の関係にあり、相関係数r=-0.40、P<0.0001であったのに対して、レジスチンはr=0.13、P<0.0001、腫瘍壊死因子αはP=0.12、P<0.0001とHOMA-IRと正方向に関係した。

 それぞれのアディポカイン三分位とインスリン抵抗性との関連は以下の通りとなった。
1 アディポネクチン
アディポネクチン濃度が高いほどインスリン抵抗性傾向は減少した。
最低三分位群43.8%、第2三分位群22.0%、最高三分位群10.1%(P<0.0001)
2 レジスチン
レジスチン濃度が高いほどインスリン抵抗性傾向が増大した。
最低三分位群18.7%、第2三分位群26.3%、最高三分位群29.8%(P<0.0001)
3 TNFα
TNFα濃度が高いほどインスリン抵抗性傾向が増大した。
最低三分位群18.7%、第2三分位群25.7%、最高三分位群31.5%(P<0.0001)

 年齢・性別・BMIで補正を加えても、BMIの代わりに腹囲で補正を加えても、結果は同様のものとなった。

(3)メタボリックシンドロームの有無によるHOMA-IRとアディポカイン分布
 メタボリックシンドロームではない人は、HOMA-IRが高い範囲にはほとんどおらず、メタボリックシンドロームである人は、アディポネクチンが高い範囲にはほとんどいなかった。

 アディポネクチンとHOMA-IRとの負の相関は、メタボ群の方でより強く、相関係数は、メタボ群r=-0.34に対して非メタボ群r=-0.21、P<0.0001となった。

 レジスチンとTNFαに関しては、メタボリックシンドローム有無での層分けによるアディポカインとインスリン抵抗性との相関は弱まり、有意な相互関連は見られなかった。

(4)アディポカイン濃度三分位およびメタボリックシンドロームの有無によるインスリン抵抗性傾向
 どのアディポカイン濃度三分位においても、メタボリックシンドロームであることは、インスリン抵抗性が高まることと関連があった。それぞれのアディポカインとの関連は以下の通りとなった。
1 アディポネクチン濃度が高くなるほど、メタボ群でも非メタボ群でもインスリン抵抗性傾向は下がった(P<0.0001)。
2 レジスチン濃度が高くなるほど、メタボ群でも非メタボ群でもインスリン抵抗性傾向は上がった(P<0.01)。
3 TNFα濃度が高くなるほど、メタボ群でも非メタボ群でもインスリン抵抗性傾向は上がった(P<0.01)。

 三つのアディポカインすべてで比較しても、メタボ群と非メタボ群での傾向は同様であった。

(5)メタボリックシンドロームおよびアディポカイン濃度とインスリン抵抗性
 アディポカイン濃度はインスリン抵抗性と関連あるという仮説を、多変量ロジスティック回帰モデルで検証した。年齢と性別で補正を加えた場合は、メタボリックシンドローム・アディポネクチン・レジスチン・TNFαすべてが、インスリン抵抗性と有意な関連を見せた。さらにBMIでも補正を加えると、レジスチンには有意性が見られなくなったが、メタボリックシンドローム・アディポネクチン・TNFαは統計的に有意なままであった。

●考察

 地域密着型コホートにおける本研究で、有害濃度のアディポカインが、アディポネクチン・レジスチン・TNFαの三つにおいてインスリン抵抗性と関連あることが示された。メタボリックシンドロームとアディポカインそれぞれとが、独立してインスリン抵抗性の原因になることも分かった。大規模で選択されていない集団を使い、2型糖尿病危険因子と主要なアディポカインを同時測定したことから、脂肪組織から引き出される多様な信号伝達分子がインスリン抵抗性と相関していることが分かった。アディポカイン三分位群でのHOMA-IRおよびインスリン抵抗性傾向は、メタボ群と非メタボ群、並びに空腹時高血糖群と正常な糖耐性群との間で同様であったことから、これらの関係は2型糖尿病の他の危険因子存在によって説明されるものではなく、将来の糖尿病リスクが低くても高くても見られることになる。

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