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赤身肉の食べ過ぎに注意

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 これからは食べるお肉の種類に気をつけたほうがいいかもしれません。赤身か白身か加工肉か。それによって、病気のリスクや、ひいては寿命まで変わってくるかもしれません。


大西睦子の健康論文ピックアップ5

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

 今回は、red meat(赤身肉)※1と健康に関する話題です。あなたは赤身肉を1週間にどれくらい食べますか?

 2011年の日本人の1人当たりの年間赤身肉消費量は約30kgで、毎日食べると考えると約80gの摂取になります。ステーキやハンバーガーなどを主食とするアメリカでは、2009年の1人当たりの年間赤身肉消費量は約50kgです。最近アメリカでは赤身肉の消費量がやや低下傾向にあり、2012年は、1人当たりの年間赤身肉消費量は約45kg(1日に換算すると約123g)と推測されています。

 なぜアメリカで赤身肉の消費量が低下しているのでしょうか。

 ひとつには、様々な研究によって赤身肉の摂取は糖尿病、心血管疾患、そしてがんのリスクを上げることが示されたからです。さらに、赤身肉の摂取が死亡リスクを上げることも報告されました。

 しかしながら、今までの研究の多くは、菜食主義者の割合が特に多い集団(例えば米国のセブンスデー・アドベンチスト教会※2や、ヨーロッパのいくつかの研究)に対して行われてきました。最近行われた10年間にわたる大規模なコホート研究※3によって、赤身肉や加工肉をより多く摂ることが、死亡リスクの増加と関連があることが報告されましたが、この研究では赤身肉の加工の有無の区別がされておらず、また食生活や他の危険因子について詳細に評価されていませんでした。さらに、赤身肉の代わりとなる他の食事で死亡リスクを低下するかどうかは分かりませんでした。

 肉は食事においてタンパク質と脂質の主たる摂取源です。特に赤身肉には、亜鉛、鉄やビタミンB群が豊富に含まれています。今回の論文を通して、私たちが赤身肉とどのようにお付き合いすればいいのかを考えたいと思います。

Red Meat Consumption and Mortality: Results From 2 Prospective Cohort Studies.
Pan A, Sun Q, Bernstein AM, et al,
Arch Intern Med. 2012;172(7):555-563.

 著者らは、ハーバード公衆衛生大学院の2つの大規模コホート研究(男性医療従事者の統計:Health Professionals Follow-up Study;HPFS、女性看護師の統計:Nurses' Health Study;NHS)を用いて、赤身肉の摂取と死亡リスクとの関連を最大28年間追跡調査しました。さらに、赤身肉の代替となる他の健康的なタンパク源と死亡リスクの関係も検討しました。

 対象は、心血管疾患やがんに罹患していないHPFS の3万7,698名の男性(追跡期間1986年から2008年)とNHSの8万3,644名の女性(追跡期間1980年から2008年)です。食生活については、食物摂取頻度調査※4を行って評価し、4年ごとに更新しました。また医療、ライフスタイル、その他の健康に関する情報(体重、喫煙の有無、身体活動度、医薬品やサプリメントの摂取、糖尿病・心筋梗塞・がんの家族歴、糖尿病・高血圧・高コレステロール血症の病歴)については、2年ごとにアンケート調査が行われました。

 追跡期間296万人年(人年=person-year※5)の間に2万3,926人が亡くなりました。そのうち心血管疾患は5,910人、がんは9,464人でした。統計解析に当たっては、対象者を、1日あたりの赤身肉摂取量によって男女それぞれ5つのグループに分け、低摂取グループを基準として各摂取グループの相対的死亡リスク(ハザード比※6)を推定しました。なお、主なライフスタイルや食生活における危険因子等に基づいてデータ補正が行われています。

 結果は以下のとおりです。

●未加工の赤身肉を、毎日約85g(トランプのカードくらいの大きさ)食べ続けると死亡のリスクが13%増加し、加工された赤身肉を1日あたり、例えばホットドック1本あるいはベーコン2枚毎日食べ続けると、死亡のリスクが20%も増加しました。

●同様に、心血管疾患による死亡のリスクは、未加工肉、加工肉の定期的な摂取でそれぞれ18%、および21%増加しました。がんによる死亡のリスクは、未加工肉、加工肉でそれぞれ10%、16%の増加を認めました。

●筆者らは、1日あたり約85gの赤身肉の代わりに、同じ量の他のタンパク源・栄養源(魚、鶏肉、ナッツ類、豆類、低脂肪の乳製品、全粒穀物を含む)を摂取すると、死亡率が7~10%下がると推測しています。

●さらに著者らは、今回のコホート研究参加者が、1日あたりの赤身肉の摂取量を42.5g減らせば、男性の9.3%、女性の7.6%、の死亡を予防できたと推測しています。心血管疾患による死亡に限れば、男性8.6%、女性12.2%の予防を推定しています。しかし実際のところ、全男性の22.8%、全女性の9.6%しか、この低リスク群に属していません。

 まとめますと、今回の調査結果から、赤身肉(加工・未加工ともに、特に加工肉は悪い)を摂れば摂るほど、総死亡率および心血管疾患やがんによる死亡率が増加することがわかりました。赤身肉の代わりに、他のタンパク・栄養源、例えば魚、鶏肉、ナッツ類、豆類、低脂肪の乳製品、全粒穀物などを摂取すると、長生きにつながります。

 さらに著者らは、赤身肉の摂取量が多いグループでは、喫煙者、飲酒者、肥満の人が多いこと、総エネルギー摂取量が多く、野菜、フルーツや全粒穀物の摂取が少なかったことを述べています。また、赤身肉の体に与える悪い影響の理由は、飽和脂肪酸、ヘム鉄が含まれているためと考えています。加工肉に関しては、ナトリウムや硝酸塩の含有も問題です。がんの発生に関しては、高温で調理すると生じるN-ニトロソ化合物が発癌物質と考えられています。

 今回の論文に対して、イギリスから、『すべての赤身肉は同じではない。イギリスとアメリカで牛の餌が違うので肉の質も違う』という反論がありました。同時にイギリスでは、赤身肉の摂取量を、『1日70g以下あるいは1週間に500g以下』と推奨しています。私たち日本人の食文化は、社会の欧米化に伴い大きく変化しています。今後は、和食、洋食といった食のスタイルだけではく、材料の質や量も考えていくべきだと思います。

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