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感染症を起こす病原体 増え方に着目して予防

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

大人が受けたい今どきの保健理科2

吉田のりまき

薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰

 感染症にかからないために、手洗いやうがいといったことに日々留意されていると思います。的確な対策をとるためには、感染症を引き起こす病原体についてある程度の正しい知識が必要になってきます。

細菌と菌類は仲間?

 感染症対策の講座などで手洗いを教えている時、頻繁に受ける質問があります。

 「大腸菌や黄色ブドウ球菌などはウイルスではなく菌の類ですよね、だったらキノコのような菌類も大きな意味では同じ菌の仲間ということになるのですか?」という内容です。

 ウイルスと細菌が違うものということを知っているまではよいのですが、そこから先で、同じ「菌」という漢字が入っているために、「菌の仲間=キノコのような菌類+○○菌」となってしまうようなのです。

 子どもだけでなく大人からも幾度となくこの質問を受けたので、学校ではどういう風に教えているのだろう、と気になって教科書をチェックしました。

 保健の教科書では、手洗い指導は小学校3、4年で、細菌やウイルス、病原体という言葉は5、6年で登場します。病原体と病気の関係は示唆されていますが、生物としての分類については記載されていません。当然、菌類という言葉も出てきません。

 一方、理科の教科書では中学校で、生物を構成する最小単位である細胞について学び、一つの細胞からなる単細胞生物と複数の細胞からなる多細胞生物という分類を教わります。単細胞生物としては主にミドリムシやゾウリムシが挙げられています。細菌も単細胞であることや、一つの細胞が二つに分かれて増えていくことを明記している教科書もありましたが、基本的に菌と名のつく病原体にフォーカスされてはいません。

 さらに学年が上がっていくと、生態系の学習で「分解者」の役割を担う微生物として、菌類や細菌類といったものがあると明記されています。紹介される細菌は、食品として役に立っている乳酸菌や納豆菌などが多いようです。大腸菌を挙げている教科書もありました。菌類としてはキノコやカビなどが挙げられ、菌糸でできている多細胞であること、胞子で増えることが、どの教科書にも明記されていました。

 従って、中学校の教科書に書いてあることをしっかり繋ぎ合わせていけば、○○菌と呼ばれる病原体は単細胞の細菌類であって、キノコなど多細胞であることが多い菌類とは全く異なるものだと理解できるはずなのです。

 ただし、生物には例外がたくさんあります。よく知られている酵母菌は単細胞ですが菌類です。また、細菌の中にも多細胞のものがあります。この辺りの詳しい分類や違いは高校で学びます。

登場しないウイルス

 例外があるにしても、義務教育の理科で、相当のことが分かるという話をしてきました。しかし、感染症を予防するには、基本的な情報がまだ不足しています。

 例えば、インフルエンザやノロなどウイルスはすっかりお馴染みと思いますが、中学校までの理科の教科書には全く出てきません。ウイルスは高校生物の範疇だからです。

 細菌の方も、先ほど説明した通り若干登場してはいるものの、肺炎球菌やMRSAといった病原体の紹介はほとんどありません。免疫についても学習しません。

 中学では、地球上の生態系全体を視野において生物を学習しており、ヒトの体に悪さをするかどうか、ワクチンがあって聞き慣れた病原体であるかどうか、といったことは関係がないのです。

手洗いが必要な理由

 医療関係者の立場から言うと、細菌は単細胞生物で二つに分かれて増殖するということが、冒頭に紹介した質問のようにきちんと理解されていないことは心配になります。

 病原体を増やさないためには、細菌の増え方を知っておく必要があるからです。倍々に増えていく速さは病原体の種類によって異なりますが、早いものでは20分くらいです。1個が2個になり、2個が4個になり、8、16、32、64......、数時間のうちにあっという間に膨大になり、病気をひき起こす数に到達してしまいます。

 数を増やさないために、元々の細菌を一つでも減らしておきたい、増え幅が小さなうちに対処しておきたい、誰もがそう考えるでしょう。

 義務教育で学ばないウイルスについては、生物の細胞に寄生しないと増えられないこと、侵入した細胞に自分の遺伝子を複製させて数を増やし、増えたウイルスが次の細胞へ侵入してまた数を増やすという増え方を知っておくことが必要です。体の中で増えるわけですから、とにかく体の中へ入れないことが、予防には大切と分かります。

 こうした病原体の増え方を意識すれば、外から帰ったらすぐに十分な手洗いしようという行動へ繋がっていくと思います。

教科書をご覧になりたい方へ  都道府県が設置する教科書センター一覧は、文部科学省のサイトに掲載されています。

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