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睡眠のリテラシー34

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員

 どのような仕事であれ、一人前になるまでには長い時間がかかります。研修もいくつも受けなければなりません。会社からみれば、有能な従業員になるまで、先行投資をしているとも言えます。

 わが国では労働者の25%以上が夜勤や交代勤務で働いています。職種はご承知の通り、多岐にわたります。商品を作る、商品を運ぶ、人間を移動する、安全な生活を守る、サービスを提供するなど、どれ一つ欠けても、私たちはとても困ってしまいます。

 交代勤務者は、いわゆる"変な"時間に働き、眠ります。そのせいで、よく眠れませんし、眠くもなります。こうした睡眠の支障が体内時計の乱れと相まって、様々な健康問題につながります。心臓病など生活習慣病だけでなく、最近では、がんになる確率が高まるという研究結果も増えています。

 交代勤務では、仕事を安全に行うことも難しくなります。日勤で起こる事故の確率に対して、夕勤ではそれが20%増加し、夜勤では30%増加すると言われています。大きな事故になれば、労働者が死傷するだけでなく、事業所も壊れてしまいます。そうなると、取引先や顧客に迷惑をかけたり、最悪の場合、近隣の環境が汚染されてしまう危険性もあります。

 健康と安全の問題に加えて、決められた勤務番で働くことによって、家庭や社会での生活に軋みが生じやすくなるという問題も起きます。家族と生活時間がずれてしまうので、一緒にいる時間が少なくなり、コミュニケーションも十分にとれなくなりるのです。また、友人との交流や地域の活動に参加する機会も減りがちになります。

 このように、交代勤務には様々な苦労が伴います。にもかかわらず、そのような問題をよく知り、効果的に対応するための研修は、ほとんど行われないのが現状です。これは、どの職種にも共通して言えます。しかも、わが国だけでなく、諸外国でも同じようです。

 例えば、夜を徹して患者に接する医師や看護師は、治療やケアの仕方を徹底的に学びます。しかし、夜勤がなぜつらいか、交代勤務にどう向き合えばよいかを学ぶ機会はまずありません。医療のプロとて、いわば、その人任せです。

 高齢者介護施設で夜勤に就く介護職、夜中にハンドルを握る職業運転手、工場の生産工、警察官、消防士も同じような状況です。以前、20年にわたって交代勤務で働いている方々から「体の中に時計があるなんて初めて聞きました」、「睡眠なんて、いつとっても効果は同じですよね」という声を聞き、とても驚きました。

 それぞれの仕事をきちんとこなせるよう訓練を積むことは大切です。ただ、夜勤や交代勤務の場合、睡眠や体内時計について学ぶ機会が含まれないとすれば、もしかしたら仕事の半分を理解していないと言えるかもしれません。

 「夜」という敵を知る努力は、交代勤務で働く方、職場、そして家族全体に必要です。

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