全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

睡眠のリテラシー39

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員

 今年の冬は大雪が降りましたし、かなり冷えました。自ずと、暖かい天気が恋しくなります。ぽかぽか陽気になってくると、それに誘われるように昼寝したくなります。外は明るいにもかかわらず、眠りに落ちるあの心地良さは何とも言えません。

 第6回で取り上げたように、昼寝に対する関心はとても高く、調査研究も進んでいます。大きく分けると、悪い昼寝と良い昼寝があるようです。前者の典型は長い昼寝です。そのせいで、夜にぐっすり眠れなくなります。一方、良い昼寝というのは心身の健康に役立つものです。今回は特に、物事の理解や判断などに関わる認知機能について触れます。

 オーストラリアで、約2千人の高齢者を対象に、ある時点の睡眠の状況とその10年後の認知機能との関連が調べられました。対象者は65~94歳の男女で、調査開始時点の認知機能は正常でした。認知機能が変化するには時間がかかるため、このような長い調査期間を設けました。10年間の中で、約半数の方が残念ながら亡くなられました。

 残った参加者を調べたところ、調査開始時点での睡眠が短い方(6時間半以下)は通常の方(6時間半超~8時間半未満)と比べて、認知機能の低下する確率は2倍高くなりました。睡眠の長い方(8時間半以上)では認知機能との関連は認められませんでした。

 昼寝については、その有無と長さに注目しました。調査開始時点で昼寝をとる高齢者はとらない方より、認知機能の低下する確率が約半分に減りました。また、この確率は昼寝なしに比べて、1時間未満の昼寝では約半分に、1時間以上の昼寝ではおよそ4分の1まで減りました。

 なお、昼寝をとると回答した高齢者の特徴を調べると、昼間の眠気の高いことが分かりました。しかし、睡眠時間が特に短いというわけではありませんでした。

 以上の結果から、昼寝をとることは将来の認知機能の低下を防ぐのに役立つと考えられます。昼寝は加齢に伴う脳の変化を和らげる働きがあるのかもしれません。眠気というのは脳が疲れているサインですので、眠気を感じたら、適宜昼寝をとると、脳が守られるのではないでしょうか。

 昼寝の長さについて、この調査では、より長い方が効果は大きく現れました。ただし、短い(30分程度)の昼寝の方が効果的という研究結果もあります。いずれも主観的な昼寝時間を尋ねているので、正確さはあまり期待できません。客観的な検査で確かめる必要があります。

 わが国は今後ますます高齢化していきます。それに対処するには、いくつもの準備をしなければなりません。お金はやはり大事ですが、健康はもっと大切ではないでしょうか。健康であることは本人はもちろん、家族にとっても、社会にとっても望ましいことです。なかでも「頭」の健康を保つため、昼寝を賢くとると良いでしょう。

  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索