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低脂肪乳で子供が肥満に?

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昨今は健康志向の高まりで、普通の牛乳よりあえて低脂肪乳などを選ぶ人も多いですよね。「牛乳は太る」というイメージも先行しがちですし、実際、牛乳は乳脂肪分のせいで、けっこうなカロリーだったりします。さらに米国では先日ちょっと気になる研究結果が出て、議論になっているようです。

大西睦子の健康論文ピックアップ34

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

乳を飲んで育つのがほ乳類の特徴ですが、人間だけが、大人になっても、他のほ乳類の乳を飲んでいます。人間が他のほ乳類の乳を利用し始めたのは、なんと今から、およそ1万年前のメソポタミアといわれています。牛乳は、カルシウム、ビタミン、脂質やタンパク質などの栄養素を豊富に含むため、これまで栄養価の高い食品として利用されてきました。


ところが最近では、牛乳の脂肪分が肥満の原因なるのでは?という懸念が持たれるようになっています。では、牛乳には脂肪分がどのくらい含まれていると思いますか?「牛乳」と一口に言っても、広い意味での「牛乳類」を差す場合、実際には市場にはいろいろな種類のものが出回っています。パックを見てみて下さい。「種類別」という文字が四角で囲ってあり、それに続いて「牛乳」「成分調整牛乳」「低脂肪牛乳」「無脂肪牛乳」、あるいは「加工乳」や「乳飲料」といった表示まで、さまざまに分かれています。皆さんがどれを選ぶかによって、かなり成分が異なってきます。


この「種類別」分類に従えば、水や添加物を混ぜたり成分を除去することは一切せず、生乳(牛から搾ったままの乳)のみを加熱殺菌して使用したものを「牛乳」と呼び、乳脂肪分を3.0%以上、無脂乳固形分を8.0%以上含んでいます。一方、生乳から水分、乳脂肪分、ミネラルなどの一部を除去し、成分が調整された牛乳が「成分調整牛乳」です。中でも特に乳脂肪分が、0.5%以上1.5%以下なら「低脂肪牛乳」、0.5%未満だと「無脂肪牛乳」と分類されています。なお、生乳や牛乳またはこれらを原料として製造した乳製品(脱脂粉乳・クリーム・バターなど)を加工したものが「加工乳」で、生乳や乳製品を主原料にビタミン・ミネラル・カルシウムなどの栄養分や、コーヒー、果汁などを加えたものが「乳飲料」です。.

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ちなみにアメリカの牛乳は、「Whole milk」と呼ばれる乳脂肪分3.5-4.0%の全乳の他、乳脂肪分2%の「Reduced fat milk」、乳脂肪分1%の「Low fat milk」、そして「Skim milk」「Fat Free milk」「Non Fat milk」と呼ばれる乳脂肪分0-0.5%の無脂肪乳 (脱脂乳)に分類されます。


2005年、米国小児科学会(American Academy of Pediatrics, AAP )とアメリカ心臓協会(American Heart Association, AHA) は、「2歳以上のすべての子供は、飽和脂肪酸※1の摂取量を減らして過剰な体重増加を予防するため、乳脂肪分1%以下の低脂肪乳あるいは無脂肪乳を飲むこと」を推奨しました。 例えば、コップ3杯の全乳の代わりに低脂肪乳あるいは無脂肪乳を飲めば、約200kcal摂取を減らすことができます。


というのも、米国では子供の肥満が非常に深刻です。小児の肥満は過去30年間で3倍以上に増え、2008年には、子供や若者の3分の1以上が体重過多または肥満と判断されました。今の子供は親の世代より平均寿命が短いと予測されています。なぜなら子供の肥満は、2型糖尿病※2、脂質異常症※3、非アルコール性脂肪性肝疾患(NASH)※4、高血圧※5、動脈硬化※6、さらに心理社会的問題などを引き起こすからです。肥満の原因は様々です。環境、遺伝や体質の問題もありますが、やはり食生活、運動不足が大きな原因と考えられています。


ところが、子供の飲む牛乳を低脂肪・無脂肪に切り替えようという考え方を支持しない意見もあります。なぜなら、子供が飲んだ牛乳の種類と体重の間には何の関係も認められず、さらに、低脂肪乳あるいは無脂肪乳を飲んでいる子供は全乳を飲んでいる子供よりもBody mass index (BMI)※7が高いという報告もあるからです。そこで、バージニア大学の研究者らは、子供たちの飲んでいる牛乳の種類と体重の関係を評価しました。2001年に米国で生まれた10,700人の子供たちを対象にしたコホート研究※8です。子供が2歳と4歳になったときに、牛乳の種類別の摂取量と、BMIスコアと肥満/体重過多の関係を評価しました。

Rebecca J Scharf, Ryan T Demmer, Mark D DeBoer
Longitudinal evaluation of milk type consumed and weight status in preschoolers
Arch Dis Child doi:10.1136/archdischild-2012-302941


具体的には、子供の飲み物の摂取量について、両親など子供の責任者がいくつかの質問に答えます。子供が2歳の時には、普段どんな種類の牛乳を飲んでいるか、4歳になった時には牛乳の種類だけでなく、例えば「過去7日間で何回飲んだか」など飲んだ量や頻度等の詳細な質問に答えます。さらに、フルーツジュース、炭酸飲料、スポーツドリンクなどの牛乳以外の飲み物の摂取も調査します。


その結果、大半の子どもたちは、乳脂肪2%牛乳あるいは全乳(2歳で87%、4歳で79.3%)を飲んでいました。多変量解析では、牛乳の脂肪含量の増加は、BMIスコアと逆の関係になりました。乳脂肪2%牛乳あるいは全乳を飲んでいる子供に比べ、低脂肪乳あるいは無脂肪乳を飲んでいる2歳と4歳の子供は、太り過ぎや肥満が増加する傾向にありました。


低脂肪乳あるいは無脂肪乳は、肥満/体重過多の子供でより多く消費されていたのです。なお、この結果は、人種、民族や社会経済状況などの背景の影響を受けませんでした。


低脂肪あるいは無脂肪乳は、2歳や4歳の子供が自分で選ぶというより、子供の肥満の予防のために、あるいは自分の肥満の予防のために、親が選んでいることが多いと思います。子供は基礎代謝が成人に比べて高く、成長・発育が旺盛です。そのため、体重や体格の割に総エネルギー量や各栄養素の必要量も高いため、バランスの取れた質のよい食事がとても重要です。親が体重増加の予防で選んでいても、子供は低脂肪乳や無脂肪乳では満腹感が得られず、かえって他のカロリーの高いものを食べてしまうのかもしれません。ただし、満腹感の違いについて子供から情報を得ることは難しいため、実際に証明することは厳しいです。


また、この研究には、いくつかの弱点があります。例えば牛乳の種類や摂取量は、子供の両親によって報告されたもので、直接測定はしていません。また、牛乳以外の食品の摂取量についての情報はなく、身体活動レベルも測定していません。ですから、低脂肪乳や無脂肪乳が子供の肥満の原因と最終的に結論付けるには、今後より多くの研究が必要です。ただ、そもそも子供たちにとっては、バランスのいい食事を摂ってたくさん外で遊ぶことができれば、低脂肪乳・無脂肪乳を飲む必要はない、ということですよね。


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