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「わかっちゃいるけどやめられねえ」のは、わかっちゃいないから。

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先日、久しぶりに文庫本を買いました。外山滋比古氏の『知的な老い方』(大和書房)というエッセイ集です。完全に著者名とタイトルで手に取りました。著者の日々の生活に基づく「老い方」のヒントは、医学的メカニズム云々より、かえって説得力があったりしますね。

堀米香奈子 ロハス・メディカル専任編集委員

まず驚いたのが、御年93歳になられた外山滋比古氏の益々のご健在ぶり。外山滋比古氏と言えば、私の中では高校の国語の教材、というイメージです。当時はずいぶん読まされましたが、あれから20年以上を経て、外山氏の筆力は衰えるどころか一層活き活きとして、年齢を全く感じさせません。

それもそのはず。外山氏の日々の生活には、これまでロハスメディカルで紹介してきた健康習慣が普通にちりばめられています。

例えば、「知的な生活習慣」という章には、

・朝を活用する
・ウォーキングは、気持ちいい
・おしゃれをする
・「雑談」が健康を生む
・眠りは、王者の楽しみ
・すてる
・どんどん忘れる
・元気を出す方法

といった小見出しが並んでいます。

これまでロハス・メディカルで紹介してきた知見と、パッと見たところ、かなり被っています。実際、読んでみても関連する内容が随所に盛り込まれています...

●睡眠のリテラシー12(朝活の話)
●運動不足 なぜ悪いのか
●それって本当? 化粧をすると健康感が上がる
●年をとっても快眠1 意識しよう概日リズム
●年をとっても快眠3 昼に体を動かして すんなりぐっすり
●それって本当? 前向きな気持ちは 認知症リスクを下げる

どちらも併せて読めば、行動変容につながりそうです。ただ、正直、この本を読んで、人は知識だけじゃ動かいないんだな、と痛感してもいます。自分にその自覚があるからです。仕事を通じて多くのことを知り、理解してきましたが、それで自分の普段の行動や生活習慣が理想的なものになっているかと言えば、全然ダメです。「医者の不養生」と言いますが、「門前の小僧」では尚のこと難しいのでしょうか......。

そして同時に、高校時代にすごく腑に落ちた外山氏の文章を思い出します。「気は心」という言葉があるけれど、本当は「気は心ではない」から、「気を回すのだ」という話です。そして、気と心が別だからこそ、「わかっちゃいるけどやめられねえ」(古い!)事態も生じます。要するに、「その気はあるんだけど」とか「頭では分かっているんだけれど」とかいう状態は、本当には分かってないんだそうです。本当に分かると言うのは、「頭でも心でも分かる」こと。たしかにそうだなあ、と思います。それでなかったら人は動かない。

その点、外山氏の文章は、日常を描いているだけなのに、面白くて、心から「へえ、そうか」と思ってしまいます。圧倒的な筆力ももちろんですが、それだけじゃない気がします。正しい知識をたくさん詰め込むより、「ちょっと自分も見習ってみよう」と、理屈抜きで行動変容につながる読者もいるのではないでしょうか。

そう思うと、自分の課題も見えてきます。仕事でも、体調管理でも...。ただ、だったら知識は別に要らないか、と言うと、絶対にそんなことはありません。世の中に溢れる情報は、ますます玉石混淆。どれを聞き流して、どれを採用するのか、判断する力を各自備えないといけないからです。「正しい」知識がないと、判断を誤ります。

文庫本1冊700円也。高いか安いか、で言ったら、安くはない、という印象かも。インターネット、特にスマホが普及して、ある程度のことならタダ読みが当たり前になっているせいでしょう。私も仕事理由以外で本を買うことは減りました。しかし、そんな私みたいな人でも、ちゃんと手に取って買う本が、厳然としてあるわけですね。その点は、よくよく肝に銘じよう、と改めて思ったのでした。

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