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診察で出会った近代化を拒む人々

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

内側から見た米国医療11

反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。12年7月からメイヨークリニック勤務。

 メイヨークリニックのあるミネソタ州には、アーミッシュと呼ばれる人たちがいます。彼らは宗教上の信条から近代的な生活様式を営まず、昔ながらの農耕や手芸を中心とした生活をしています。アーミッシュにも幅はありますが、彼らは一般的に電気や自動車を使わず、主な移動手段には馬車を用います。服や家も簡素で、タバコやお酒などは嗜みません。所得税や資産税などは払いますが、社会保障制度には参加せず、医療保険も持ちません。

 私の住む地域には夏の毎週末、地域の農家が野菜や肉を売る野外市があり、アーミッシュの人々も店を出しています。野菜は完全無農薬で、多少値段は張るものの味が良いと評判です。卵や手作りのパウンドケーキも人気商品です。

 この前、地域にあるクリニックでの研修中、アーミッシュの子どもの診療を見る機会がありました。そのクリニックは政府から補助を受けており、保険のない人でも非常に安い値段で診察を受けることができます。その患者さんの家族がいる地域では、薬を用いない代替療法を専門とする人がいて、軽い症状なら普通はそこに行くそうです。しかし、治りが悪く経過が長引いていたため、心配になって連れてきたとのことでした。

 アーミッシュの方が西洋医療を受け入れていることに驚きましたが、実際のところ、現代医療を受けることに戒律上制限はないようです。人によっては受け入れの度合いに違いがあるようですが、子どもには現代医療を受けさせることに抵抗の少ない場合が多いようです。

 以前からアーミッシュのことを聞いてはいましたが、実際に会話を交わす機会はなく "近代化を拒む変わった人々"という印象でした。電気も使わずに生活するのですから、さぞかし大変だろうと思ったりしていました。ところが、話してみると普通に子どもを心配するお母さんです。もちろん、短い会話で彼らの何を知ったわけではありませんが、元々持っていた印象は少し変わり、彼らの考え方や生き方に興味がわいてきました。それと同時に、自分が持っていた"偏見"に気づかされました。

 アーミッシュを"変わった人"と見ていた私は、知らず知らずのうちに、物質的豊かさと内面の豊かさを結びつけていました。また、自分と完全に異なる価値観を持つ彼らを、"自分とは違う人"として区別し、境界線を引いていたように思います。"人"を治療する医者として、多様な価値観を受け入れ、自分とは異なる者を理解し、ともに最善の解決策を考えることは極めて重要です。多種多様な人が住む米国での診療は、そのような"偏見"が自分の中に沢山あることに気づかせてくれます。

 診察では強張ったままだった5歳の子も、帰るときには笑ってお母さんと話していました。彼らにとっても、健康的な生活を送ることの価値は同じです。生活様式は違っても、健康という同じ価値を共有し、それを高める手助けができる医師であることに、喜びを感じた瞬間でした。

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