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電子タバコとどう付き合うか
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内側から見た米国医療15
反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。12年7月からメイヨークリニック勤務。
電子タバコ(e-cigarette)をどう扱うべきか、米国の医療界では議論が分かれています。電子タバコは、電気でニコチンなどの成分を蒸気にする、タバコに形を似せた機械です。使用者は煙ではなく蒸気を吸い込み、タバコを吸っているような気分になれます。
電子タバコには以下のような利点があります。まず、タバコに含まれる各種の有害物質(発がん物質含め)が(ほとんど)含まれていないので、比較的安全性が高いと考えられています。また、タバコに依存を起こさせる物質のニコチンを含むため、ニコチン代替療法の一つとして、禁煙補助に有効な可能性があります。実際、有名な医学雑誌であるLancetに最近発表された論文では、電子タバコは他のニコチン代替療法と同程度の効果を持つ可能性が示唆されています。さらに、他の代替療法と異なり、"タバコを手に持ち、口に入れて吸う"という習慣化された行動に似せることができるので、元々の喫煙者に"口寂しい"という感覚をもたらしにくいです。
一方で、電子タバコに様々な懸念があることも事実です。まず、ニコチン以外にどのような成分が含まれているかはっきりせず、健康への長期的な影響が明らかではありません。また、"健康的なタバコ"のイメージを消費者に与えることで、若者がタバコへの入り口として使用する可能性があり、実際にそのような販売活動も行われています。そしてタバコと同様、ニコチン依存症を起こします。電子タバコを試した若者がニコチン依存症になり、タバコへ手を伸ばす可能性は否定できません。さらに、煙に似た蒸気が出るので、公共の場所や職場での使用はタバコに紛らわしく、他人の迷惑や害になる可能性があります。これは従来の禁煙補助剤にはなかった問題です。最後に、明確な規制がないため、発火の危険性など、機器自体の安全性を懸念する声もあります。
これらの利点や懸念はどれも理にかなったもので、研究やデータが乏しいことから、現時点では何がどの程度正しいのか、結論を下すことは困難です。その中でニューヨーク市では、タバコが禁止されている公共の場所すべてで、電子タバコの使用を禁止する法案が可決されました。これは電子タバコをタバコに近い製品と見なす動きを後押しするものです。
私自身は、電子タバコはタバコではないと思っています。というのも、電子タバコがタバコと同様の健康被害をもたらす可能性は、非常に低いと考えるからです。健康への影響が相対的に小さいとしたら、タバコにまつわる公共政策の議論を、電子タバコにそのまま当てはめることはできません。私はむしろ、電子タバコを上手に規制し、タバコから電子タバコへの産業的な転換を図ることで、国民の健康を増進できるのではないかと考えています。電子タバコがタバコと同程度の産業に成長でき、かつより健康的な製品なら、タバコ産業にとっても魅力的な選択肢だと思うのですが、いかがでしょうか。