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がんと栄養

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70-1-1.JPG 「医食同源」の言葉通り、日頃から食事と健康は切っても切れない間柄。がんであればなおさらです。栄養状態こそ治療やQOL(生活の質)を左右するカギかもしれません。
監修/比企直樹 がん研有明病院消化器センター医長

 古今東西、老いも若きも、多くの人にとって食べることは大きな楽しみのひとつです。それもそのはず。ヒトは外から栄養を摂らないと死んでしまいますから、食べるのを忘れないために、栄養不足だと不快感を、食べた時には快感を感じるよう、本能的に仕向けられているのです。食べること、それは生きることと言っても過言ではありません。
 基本を押さえておきましょう。食事から私たちが取り出している栄養素の役割は、大きく3つに分けられます。①エネルギー源となる、②体の材料となる、③体の調節をする部品となる、です。
 エネルギー源となるのは、主にお米やパンなどの炭水化物(糖)と、脂肪(あぶら)です。健常な人が摂取する炭水化物と脂肪の比率は、カロリーで3:1程度、重さにして7:1程度になるのが望ましいとされています。一方、体の材料として大量に使われるのが、肉や魚などのたんぱく質です。たんぱく質はアミノ酸がつながったもので、これも余ればエネルギーになります。カルシウムや鉄、亜鉛など様々なミネラル(無機元素)も体の材料になります。そして、体の調節分野で主に働くのがビタミン類です。
 これらの栄養素、もちろん足りなくてもいけませんが、摂りすぎでも問題が出てきます。それに、もともと人間の体は非常に複雑で、ある物質が時と場合によって違う役割を果たしたり、物質相互の組み合わせ次第で違いが出たりします。ですから栄養素の絶対的な量を気にするよりも、バランスよい摂取を心がけたいものです。その上で、体調に関係のありそうな栄養素を足したり引いたりしてみるのがオススメです。

治療を可能にし、効果を上げる

 特に、体に傷や病気を抱えている場合は、栄養状態が治療に直結します。
 栄養不良は、免疫機能が低下する大きな要因の一つです。想像に難くないですよね。エネルギー源やビタミン、ミネラルなどの不足により、免疫細胞の機能や活性が全般的に低下してしまうのです。それにたんぱく質等が十分でなければ、体を治す材料が調達できないことになります。
 例えば外科手術の後も、栄養不良だと合併症の発生率や死亡率が高くなることが知られています。ですから「がんだけ見れば手術で切り取ってしまうのが最善だろう」という場合でも、栄養状態が許さない限りそれはかないません。逆に、栄養管理次第で術後の回復を早めることも可能です。
 要するに、治療の選択肢が広がるか狭まるか、それも少なからず栄養状態にかかっているのです。手術の後に栄養を適切に補給するのは当然としても、術前の栄養管理も同等に重要というわけです。
 もしも口から摂る「経口摂取」が難しいならば、静脈から血液に栄養を直接注入する「静脈栄養」や、管を通して胃や腸に栄養剤を流し込む「経腸栄養」といった手段も考えられます。
 ただし、この静脈栄養と軽腸栄養、管を通して体に栄養を送る点では似ていますが、実のところ体への影響は全く違ってしまうようです。
 かつて、食べられない患者に対しては「中心静脈栄養」(略してIVHあるいはTPN)が多く行われてきました。それによって食事ができない患者も救えるようになったという経緯はあります。しかし、例えば抗がん剤治療を受ける前にお腹から胃に穴をあけて流動食を送り込む「胃瘻」をあらかじめ作っておき、その後の栄養不足を補ったところ、大半の人が治療を最後まで受けられるようになって生存率も上昇したという報告があるのです。
 どうしてでしょうか。
 腸の粘膜には免疫細胞が数多くあります。静脈栄養に頼って腸を使わないと、1週間程度でもう腸の粘膜がただれて、免疫機能が落ちてしまいます。腸内細菌や毒素が体内に侵入して炎症を起こすことも。また栄養素が体内で活性化するには正常な代謝が必要ですが、腸管の粘膜はその代謝の起点でもあります。
 経腸栄養なら、腸の免疫細胞の働きも栄養の吸収もよく保たれ、結果、静脈栄養よりも治療後の経過もよく、入院期間も短くて済むのです。

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