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糖尿病 後藤勇治さん(59歳)

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

*このコーナーでは、日本慢性疾患セルフマネジメント協会が行っているワークショップ(WS)を受講した患者さんたちの体験談をご紹介しています。同協会の連絡先は、03-5449-2317
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 高校教諭の後藤さんは、若いころ4年間かけて自転車で世界一周したスポーツマンでした。それなのに運動不足で糖尿病になってしまいました。

 後藤さんは、教え子たちに「夢を持ちなさい。あきらめないで努力すれば、きっと叶う」と自信を持って伝えています。自分自身、高2の時に担任から「私の夢」という作文を書きなさいと言われ、考えた挙句に「自転車で世界一周する」と書いたことが、その後の人生を決めたからです。
 まだ東西冷戦中、インターネットなどない時代です。夢の実現には、気候や文化、必要な書類など、世界中の情報を自力で集める必要がありましたので、英語力をつけるべく大学は文学部英文科を選びました。
 入学後は、脚力を鍛えるのと資金集めを兼ねて新聞配達。大学3年の時に1年休学、8カ月かけて日本を北は北海道から南は九州沖縄まで走破しました。走り終えてみて、達成感よりもこの程度かという気持ちが強く、いよいよ世界一周するしかないと決意を固めました。  
 卒業後は商社に就職、給料の8割を貯金し、3年で辞表を書きました。現地の人から斧で襲われかける経験もしながら、2年かけてアフリカ大陸とユーラシア大陸を走破、資金が尽きたため、いったん帰国し、今度は医療機器メーカーに就職しました。
 2年経って資金は貯まりましたが、既に30歳になっていました。今度出て行ったら、病気になったり事故・紛争に巻き込まれて生きて帰れないかもしれないし、帰国しても安定した職はないかもしれない、と非常に悩んだ末、「一度きりの人生だ」とエイヤで辞表を提出、また2年かけて南北アメリカ大陸を走破しました。今度は、やり遂げた、悔いなし、と思いました。
 都合4年間の冒険を支えたのは、どこの食べ物でもおいしく食べられる強靭な胃腸でした。これが後で後藤さんを苦しめることになります。

自転車から自動車 それが悪かった

 帰国すると、ちょうど親しい知り合いが高校を設立したところで、「英語教師として来ないか」と誘われ、二つ返事で応じました。
 職場は忙しく遠かったので、車で通勤するようになりました。凝る性格で週末は車いじりをして過ごすようになり、自転車に乗らなくなりました。
 そんな生活が10年以上続いた90年代半ば、学校の健診で血糖値が高いと引っかかり治療するように言われました。こんなに元気な自分がまさか病気だなんて、と信じられない思いでした。ただ、食べすぎと運動不足が原因であることはハッキリしていました。
 せめて食生活だけは気をつけようとキャベツを丼いっぱい食べたり、こんにゃくを食べたりして、数年間は医師も褒めてくれるほど上手にコントロールできていました。
 しかし、その終わりのない努力に疲れ始めていた99年、遅い結婚をしたことから一気に均衡が崩れました。奥さんの手料理がおいしくておいしくて、しかも、いくらでも食べられる強靭な胃腸を持っています。あっという間に数値が悪化していきました。
  何とか流れを変えたいと考えていた昨年1月、新聞にセルフマネジメントWSの記事を見つけて、早速申し込みました。糖尿病との付き合い方に新たな視点や方法が見つかるのでないかと思いました。残念ながら自分が変わるような効果はあまりありませんでした。でも、様々な病を抱えた患者さんたちと知り合い、それぞれに深刻な症状と闘っていることを聴かされて、自分だけが苦しいのではないと認識しました。
 年が明けた今年1月、またWSをやるらしいよという知らせに再度受講します。今度こそ糖尿病との闘いの倦怠感を打破したいと願いました。電車を使うようになっていた通勤時に、1駅手前で降りて歩くことをアクションプランとして掲げて成功しました。今でも1日1万3千~1万8千歩程度は歩けています。運動不足の方はだいぶ改善されたわけです。しかし食べすぎの方は改善されずに残ってしまいました。
 8歳の息子さん、6歳と1歳の娘さんに恵まれた後藤さん、「一番下の子が20歳になるまで元気に生きていたいと思うんですけれど、目の前に食べ物があると食べすぎてしまい、罪悪感にかられます。この過食をどうやったら止められるのか、アクションプランを作らないといけません。何かよい知恵はありませんでしょうか」と言います。
 お子さんたちと、琵琶湖一周サイクリングに行くのが、現在の目標です。 

ワンポイントアドバイス(近藤房恵・米サミュエルメリット大学准教授)  慢性疾患セルフマネジメントプログラムは、社会学習理論の自己効力感という概念に基づいて「できる」自信を高めるようにデザインされています。そして、この自己効力感を高めるために、プログラムを進行する2人のリーダーのうち、必ず1人以上は病気を持つ人と定められています。  同じく慢性の病気を持つ人から教わると、参加者の中に「私にもできるかもしれない」という思いが芽生えてきます。また、様々の病気を抱えている人に出会い、話を聞き、いろんな人がいるということを感じ、自分の病気についての見方や捉え方が変わってくるという効果があります。
  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
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