全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。
皮下脂肪より内臓脂肪の方がインスリン抵抗性リスクを高める
腹部皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の両方について、インスリン抵抗性とどの程度の関連があるか調査したところ、両方ともリスクを高める因子となること、内臓脂肪組織の方が大きな影響を与えることが分かりました。
Abdominal Subcutaneous and Visceral Adipose Tissue and Insulin Resistance in the Framingham Heart Study
Sarah R. Preis, Joseph M. Massaro, Sander J. Robins, Udo Hoffmann, Ramachandran S. Vasan, Thomas Irlbeck, James B. Meigs, Patrice Sutherland, Ralph B. D'Agostino Sr, Christopher J. O'Donnell and Caroline S. Fox
Obesity (2010) doi:10.1038/oby.2010.59
川口利の論文抄訳
発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。
●背景
インスリン抵抗性は、トリグリセリド・収縮期血圧・拡張期血圧・C反応性蛋白質・2型糖尿病の上昇、およびHDL-Cの低下と関連がある。そのうえ、インスリン抵抗性は、伝統的危険因子以上に心血管疾患(CVD)発症を予測することが示されてきている。インスリン抵抗性は、BMI増加と関連あるが、標準体重の人でもインスリン抵抗性になるかもしれず、全般的な肥満のみがインスリン抵抗性決定要因ではないことを示している。
インスリン抵抗性はBMIと相関するが、メタボリックシンドロームの鍵となる要素である腹部肥満とより強い関連がある。伝統的には、BMIや腹囲のような簡易計測が腹部肥満評価に用いられている。しかしながら、局部的な肥満が特異な代謝リスクを与えるかもしれない。放射線画像は、内臓脂肪組織容量と皮下脂肪組織容量を測ることで、より正確な腹部肥満評価を見込むことができる。脂肪組織、特に内臓脂肪組織は、CVD危険因子と強い関連のあることが示されてきている。
皮下脂肪組織と内臓脂肪組織で測定した腹部肥満とインスリン抵抗性の関連を調べた研究もあるが、それらの研究結果は一貫したものとはなっておらず、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の両方がインスリン値と相関することを示している研究もあれば、内臓脂肪組織のみが相関するとしている研究もある。これらの先行する研究には、小さな標本規模と絞り込まれた患者集団による限界があり、食い違う結果の説明になるかもしれない。Framingham Heart Studyにおける先行する分析では、内臓脂肪組織と皮下脂肪組織の両方が、トリグリセリド・HDL-C・収縮期血圧・拡張期血圧を含む代謝危険因子と相関することを示してきている。本研究では、これらの研究結果を拡大するつもりであり、脂肪組織測定とインスリン抵抗性との関係をより明らかにするために、大規模集団研究標本において、性別・年齢・BMIによる下位群分析を含め、腹部皮下脂肪組織および内臓脂肪組織と様々なインスリン感受性測定値との関連を調査するものである。
●方法
(1)対象者
Framingham Heart Study(*1)のOffspringコホートと第3世代コホートの対象者が、多検出器CT(multidetector computed tomography = MDCT)サブ研究に誘われた。適格者となるためには、男性は35歳以上、女性は40歳以上、妊娠しておらず体重が160kg未満である必要があった。Offspringから1,422人、第3世代から2,093人、合計3,515人が2002~2005年にMDCT走査を受けた。1型糖尿病および2型糖尿病を有する人、内臓脂肪組織または皮下脂肪組織測定データに不備がある人、インスリンとプロインスリン両方のデータに不備のある人が除外され、最終標本は男性1,602人、女性1,491人、合計3,093人となった。本分析での測定値は、1998~2001年実施のOffspring7回目検査時および2002~2005年実施の第3世代1回目検査時のものを使用した。
(2)脂肪測定
対象者はMDCT走査を受け、熟練技師が皮下脂肪組織と内臓脂肪組織評価を行った。皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の容積(cm³)は、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の区画を分ける腹壁を手作業でたどり、決定した。BMIは、キログラム体重÷メートル身長の二乗で算出され、腹囲はへその位置で計測され、最も近い1/4インチまで記録された。
(3)インスリン抵抗性および共変数測定
1 空腹時血糖値・インスリン値・プロインスリン値測定を行った。インスリン値とプロインスリン値は、Offspringコホートでは放射免疫測定法、第3世代コホートでは酵素結合免疫吸着測定法という異なる方法で測定されたため、第3世代の測定値はOffspring測定値に合わせ標準化された。
2 糖尿病は、空腹時血糖値126mg/dL以上、またはインスリン治療をうけている場合、または血糖降下剤治療を受けている場合と定義した。
3 インスリン抵抗性はHOMA-IRにより算出され、分布の最大四分位群(75パーセンタイル以上)に入った場合をインスリン抵抗性ありと見なした。
4 過去1年間において、1日に1本以上のタバコを吸ったと報告した場合は、喫煙者と定義した。
5 男性で1週間に14杯超、女性で1週間に7杯超を日常的アルコール摂取と定義した。
6 女性で、1年以上月経が止まっていることを報告した場合は、閉経後と見なした。
(4)統計分析
1 年齢と性別で補正を加え、脂肪蓄積測定値とインスリン測定値との相関係数を算出した。
2 脂肪組織の標準偏差増加とインスリン抵抗性とのオッズ比を、ロジスティック回帰により算出した。
3 皮下脂肪組織および内臓脂肪組織の標準偏差変化とインスリン測定値とのβ係数を、線形回帰モデルにより算出した。
4 脂肪組織測定値三分位とインスリン測定値との関連を調べるため、線形回帰モデルを組み立てた。
5 皮下脂肪組織および内臓脂肪組織と性別および年齢(50歳以上・50歳未満)との相互作用を調べた。また、内臓脂肪組織とBMI(25未満・25~29.9・30以上)との相互作用を調べた。
6 一般化線形モデルを使い、皮下脂肪組織および内臓脂肪組織三分位によるインスリン変数の多変量補正平均を算出した。
すべてのモデルは、以下の変数で補正を加えた。
1 年齢(歳)
2 性別
3 現在喫煙(ある・ない)
4 アルコール摂取(ある・ない)
5 閉経後状況(はい・いいえ)
6 ホルモン補充療法(ある・ない)
7 内臓脂肪組織に関するモデルでは、BMIと腹囲による補正も加えた。
●結果
(1)対象者特性
男性の平均値による特性は以下の通りであった。
1 年齢 49.3歳
2 BMI 28.2kg/m²
3 腹囲 100.2cm
4 腹部皮下脂肪組織 2,607cm³
5 内臓脂肪組織 2,189cm³
女性の平均値による特性は以下の通りであった。
1 年齢 51.7歳
2 BMI 26.9kg/m²
3 腹囲 92.6cm
4 腹部皮下脂肪組織 3,135cm³
5 内臓脂肪組織 1,326cm³
(2)脂肪蓄積測定値とインスリン測定値との相関係数
年齢と性別で補正を加えた脂肪蓄積測定値とインスリン測定値との相関係数は、正方向への相関を示した。詳細は以下の通りとなり、統計的に高い有意性を示した(P<0.0001)。
1 インスリン値
皮下脂肪組織 相関係数r=0.41
内臓脂肪組織 r=0.49
BMI r=0.48
腹囲 r=0.48
2 プロインスリン値
皮下脂肪組織 相関係数r=0.39
内臓脂肪組織 r=0.47
BMI r=0.47
腹囲 r=0.46
3 HOMA-IR値
皮下脂肪組織 相関係数r=0.43
内臓脂肪組織 r=0.52
BMI r=0.51
腹囲 r=0.51
4 プロインスリン/インスリン割合
皮下脂肪組織 相関係数r=0.26
内臓脂肪組織 r=0.30
BMI r=0.31
腹囲 r=0.30
全体として、内臓脂肪組織の方が皮下脂肪組織よりも相関が強く、内臓脂肪組織・BMI・腹囲での相関係数の大きさは同様となった。
(3)脂肪組織の標準偏差増加とインスリン抵抗性とのオッズ比
皮下脂肪組織および内臓脂肪組織の標準偏差1増加に伴う多変量補正オッズ比は以下の通りとなった。信頼区間は、すべて95%である。
1 皮下脂肪組織標準偏差1増加に伴うインスリン抵抗性オッズ比 2.48(2.24~2.74 P<0.0001)
2 内臓脂肪組織標準偏差1増加に伴うインスリン抵抗性オッズ比 3.46(3.08~3.90 P<0.0001)
3 BMIを補正に加えた場合の内臓脂肪組織標準偏差1増加に伴うインスリン抵抗性オッズ比 2.18(1.88~2.52 P<0.0001)
4 BMIの代わりに腹囲を補正に加えた場合の内臓脂肪組織標準偏差1増加に伴うインスリン抵抗性オッズ比 2.21(1.90~2.56 P<0.0001)
5 皮下脂肪組織と内臓脂肪組織を一緒に多変量補正モデルに入れた場合
皮下脂肪組織のインスリン抵抗性オッズ比 1.53(1.36~1.71 P<0.0001)
内臓脂肪組織のインスリン抵抗性オッズ比 2.70(2.36~3.08 P<0.0001)
6 皮下脂肪組織よりも内臓脂肪組織の方が、インスリン抵抗性に対する有意に強い予測因子となった。(皮下脂肪組織と内臓脂肪組織比較におけるP<0.0001)
(4)皮下脂肪組織および内臓脂肪組織の標準偏差変化とインスリン測定値とのβ係数
皮下脂肪組織および内臓脂肪組織の標準偏差1増加に伴う、四つのインスリン測定値との関連は、以下の通りとなった(P<0.0001)。
1 皮下脂肪組織
インスリン値 β=0.16
プロインスリン値 β=0.19
プロインスリン/インスリン割合 β=0.02
HOMA-IR値 β=0.18
2 内臓脂肪組織
インスリン値 β=0.20
プロインスリン値 β=0.25
プロインスリン/インスリン割合 β=0.03
HOMA-IR値 β=0.23
皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の両方が、インスリン変数四つと統計的に有意な相関となった。皮下脂肪組織よりも内臓脂肪組織の方が、すべてのインスリン変数に対しての影響度合いが大きかった。
(5)脂肪組織測定値三分位とインスリン測定値との関連
最低三分位群を比較基準として、皮下脂肪組織および内臓脂肪組織における三分位が上がるごとのインスリン抵抗性変数の多変量線形回帰分析を行った結果、以下の通りとなり、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の両方がインスリン抵抗性と統計的に有意な相関を示した(P<0.0001)。
1 皮下脂肪組織
①インスリン値
最低三分位群 男性1,597cm³・女性1,722cm³(比較基準)
第2三分位群 男性2,401cm³・女性2,861cm³ β=0.16
最高三分位群 男性3,600cm³・女性4,656cm³ β=0.35
②プロインスリン値
最低三分位群(比較基準)
第2三分位群 β=0.18
最高三分位群 β=0.42
③プロインスリン/インスリン割合
最低三分位群(比較基準)
第2三分位群 β=0.02
最高三分位群 β=0.05
④HOMA-IR値
最低三分位群(比較基準)
第2三分位群 β=0.19
最高三分位群 β=0.41
2 内臓脂肪組織
①インスリン値
最低三分位群 男性1,234cm³・女性543cm³(比較基準)
第2三分位群 男性2,092cm³・女性1,180cm³ β=0.19
最高三分位群 男性3,127cm³・女性2,104cm³ β=0.43
②プロインスリン値
最低三分位群(比較基準)
第2三分位群 β=0.25
最高三分位群 β=0.54
③プロインスリン/インスリン割合
最低三分位群(比較基準)
第2三分位群 β=0.03
最高三分位群 β=0.06
④HOMA-IR値
最低三分位群(比較基準)
第2三分位群 β=0.22
最高三分位群 β=0.49
(6)皮下脂肪組織および内臓脂肪組織と、性別・年齢およびBMIとの相互作用
1 皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の両方ともが、性別との相互作用はなかった。
2 皮下脂肪組織と年齢との相互作用は、インスリン値(P=0.002)とHOMA-IR値(P=0.008)において統計的に有意となり、50歳以上がより強い関連を示した。
3 内臓脂肪組織と年齢との相互作用は、プロインスリン値(P=0.01)とプロインスリン/インスリン割合(P=0.003)において統計的に有意となり、50歳未満がより強い関連を示した。
4 内臓脂肪組織とBMIとの相互作用は、インスリン(P=0.0004)、プロインスリン(P=0.003)、HOMA-IR(P=0.003)となり、肥満群において最も大きな効果量が見られた。
(7)皮下脂肪組織および内臓脂肪組織三分位によるインスリン変数の多変量補正平均との相互作用
インスリン値(P=0.002)、プロインスリン値(P=0.01)、HOMA-IR値(P=0.002)に関して、有意な相互作用があった。全体として、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の両方で最高三分位群に入った人が、最も高いインスリン値・プロインスリン値・HOMA-IR値を示した。皮下脂肪組織最高三分位群の人では、内臓脂肪組織がインスリン値・プロインスリン値・HOMA-IR値に対して最も強い関連を示した。
●考察
本研究において、腹部皮下脂肪組織および内臓脂肪組織とインスリン測定値との関連を調査した。研究結果は5要素となった。
1 皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の両方が、インスリン値・プロインスリン値・プロインスリン/インスリン割合・HOMA-IR値と統計的に有意な相関となった。
2 内臓脂肪組織の方が、皮下脂肪組織よりも強い相関をインスリン変数に対して示した。
3 脂肪組織貯留物と年齢層との相互作用を見出した。50歳以上では、内臓脂肪組織がインスリン値やHOMA-IR値とより強く関連し、内臓脂肪組織とプロインスリン値およびプロインスリン/インスリン割合との関連はより弱くなった。
4 内臓脂肪組織とBMIとの相互作用を見出した。内臓脂肪組織は、標準体重の人と比較すると、肥満の人においてインスリン値・プロインスリン値・HOMA-IR値により大きな影響を与えた。
5 インスリン値およびプロインスリン値に対する、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の相互作用を見出した。どちらか一方だけが多い人よりも、皮下脂肪組織も内臓脂肪組織も多い人が、より高いインスリン値やプロインスリン値を示した。
結論としては、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の両方がインスリン抵抗性と相関する。しかしながら、内臓脂肪組織の方が、皮下脂肪組織よりもさらに強くインスリン抵抗性と関連しており、伝統的な肥満測定値を考慮に入れても、インスリン抵抗性に対して約2倍高いリスクを有することになる。