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胃食道逆流疾患の危険因子は胃炎・糖尿・高血圧
中国で、胃食道逆流疾患の危険因子に関する調査をしたところ、糖尿病・高血圧の人はリスクが高く、慢性胃炎を有しているとリスクが極めて高くなるとの結果が出ました。
Prevalence and risk factors of gastroesophageal reflux symptoms in a Chinese retiree cohort
Tiantian Chen, Ming Lu, Xiaofeng Wang, Yajun Yang, Juan Zhang, Li Jin and Weimin Ye
BMC Gastroenterology 2012, 12:161 doi:10.1186/1471-230X-12-161
Published: 15 November 2012
川口利の論文抄訳
発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。
●背景
胃食道逆流疾患は、厄介な症状と関連があり、生活の質に次々と重要な影響を与えるかもしれない。最近何十年かで欧米の国々は胃食道逆流疾患の流行を経験しており、ある系統的統括論文は、欧米諸国での胃食道逆流疾患有病率は10~20%であると結論づけている。近年、胃食道逆流疾患有病率の急速な増加がアジアで報告されているが、アジアに住む人々に関する研究は、今のところ稀である。
肥満や腹部肥満が、特に欧米に住む人々において、胃食道逆流疾患リスクを高めるという考えが広まっている。高いBMI値は、胃食道逆流疾患・びらん性食道炎・食道腺癌リスクを用量依存的に高めることに関連する。いくつかの研究が、肥満の胃食道逆流疾患に対する悪影響は、食道胃接合部の器質的変質を通じてであると報告している。しかしながら、すべての肥満患者が胃食道逆流疾患を発現するわけではないことから、病因は多因子的に違いなく単一の生理学的要因によって説明され得るものではない。さらなる観察によって、胃食道逆流疾患と高血圧・高トリグリセリド血症・糖尿病を含む代謝性危険因子との関連が示されている。さらに、胃食道逆流疾患と消化性潰瘍や胃炎との示唆的関係もあるが、結果は一貫したものとはなっていない。
それ故に、本研究では、泰州退職者コホートにおいて、胃食道逆流症状の調査をし、BMI、腹囲、ウェスト・ヒップ比や他の因子が症状と関連するのかどうかを確かめようとするものである。
●方法
(1)対象者およびデータ収集
泰州縦断的研究第2フェーズは2007年12月に開始された。泰州市の一地区である海陵区の社会保険局に登録しているすべての退職者が健康診断を受けるよう誘われ、血清脂質・ブドウ糖・その他の血液生化学的プロフィール検査のため血液サンプルが採取された。人口統計学的特徴や生活様式に関する情報も、主要慢性疾患既往歴と同様、それぞれの対象者から収集された。2008年9月から胃食道逆流症状に関する簡易アンケートが加えられ、2009年8月の登録終了まで使用された。熟練面接官が、過去12カ月間に胸やけまたは酸逆流に苦しんでいるかどうかを対象者に尋ね、もし苦しんでいるという答えの場合は、症状の頻度や症状の開始年齢が尋ねられた。胸やけと酸逆流は、胃食道逆流疾患の主症状で、これらの症状評価のためにアンケートを使用することは、逆流が実際に起こっていることの信頼に足る測定として確認されている。胸やけの症状は、胸骨の後ろ側の焼けるような感覚と定義され、酸逆流は、苦いか酸っぱい味の液体が咽喉または胸に入り込んでくることと定義された。症状頻度は、月に1回未満・月に1回・週に1回・週に2~3回・週に3~4回・毎日のいずれかで報告された。症状が、睡眠・食習慣・身体活動といった日常生活に影響を与えるかどうかも尋ねた。症状の影響は、無視できる・弱い(ほとんど無視できるくらい)・中度(無視はできないが我慢はできる)・ひどい(日常生活に影響が出る)・とてもひどい(日常生活に著しく影響が出る)のいずれかで報告された。影響の最大値を取って重症度スコアが作成され、無視できると弱いとの2分類は一つにまとめられた。対象者は、H2受容体拮抗薬(H2Ra)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)のような、症状に対する医薬品を服用しているかどうかも尋ねられた。
(2)曝露評価
体重・身長・腹囲は熟練スタッフによって計測された。腹囲は、外側触診時の肋骨弓の尾部点と腸骨稜の中位で計測された。BMIは、キログラム体重をメートル身長の二乗で除して算出された。ウェスト・ヒップ比は、腹囲を臀部囲で除して算出された。さらに、BMI値を3群に分類し、24.0未満・24.0~27.9・28.0以上とした。体重超過はBMI24.0~27.9、肥満はBMI28.0以上と定義した。
腹部肥満は、腹囲88cm以上の女性、および92cm以上の男性と定義した。ウェスト・ヒップ比0.89以上の女性と0.95以上の男性も、中心性肥満と定義した。
喫煙状況は、喫煙したことがあるが今はやめている・現在喫煙している・一度も喫煙したことがないの3分類とした。平均週に4回超アルコール摂取をすると報告した対象者を日常的飲酒者とみなし、1日に1杯以上のお茶を飲む対象者を茶摂取とした。
対象者は、病院からの診断による病歴も報告するように求められ、糖尿病・高血圧・心血管疾患・脳血管疾患・腫瘍・喘息・胃炎・消化性潰瘍・肝炎・肺結核・胆石が含まれた。日常的に服用している医薬品についても記録された。
(3)統計分析
胃食道逆流疾患症例は、少なくとも週に1回、胸やけまたは逆流症状を経験したことがあると定義した。胃食道逆流疾患と潜在的危険因子との関連に対するオッズ比を算出した。
●結果
(1)胃食道逆流疾患対象者
2008年8月から2009年8月のベースライン登録終了までに、40~93歳の8,867人がアンケートと健康診断を完了した。データスクリーニングの過程で、年齢・体重・身長の記録に不備のある36件を削除した。8,831人の対象者の平均年齢は62.5歳(標準偏差±8.3)、女性が64.9%を占めた。女性の方が学歴の低い傾向があり、小学校以下が男性41.4%に対して女性60.7%となり、ブルーカラー労働者だった割合も男性79.6%に対して女性93.9%と高い傾向にあった。
8,831人中、胸やけの症状を経験したことがあるという回答は158(1.8%)、酸逆流を経験したことがあるという回答は907(10.3%)だった。これらの症候性対象者のうち、499人は月に1回未満、281人が月に1回、72人が週に1回、55人が週に数回、23人が毎日と回答した。このうち、少なくとも週に1回、胸やけまたは酸逆流の症状があるとした150人を胃食道逆流疾患症例として、月に1回以下とした780人は除外した。胸やけも酸逆流もなく、酸中和薬も服用していない7,901人を対照群とした。
(2)肥満関連因子
平常体重の群と比較して、体重超過群の症状発現に対する多変量補正オッズ比は1.0(信頼区間95% 0.7~1.4)、肥満群では0.7(信頼区間95% 0.4~1.2)となった。同様に、ウェスト・ヒップ比またはウェストのみにおいても、症状と有意な関連は示されなかった。
(3)生活様式関連因子
喫煙は胃食道逆流疾患リスクにおける変化との関連はなく、アルコール摂取や茶の摂取にも有意な関連はなかった。
(4)病歴
糖尿病を自己申告した対象者は、より症状報告があるようで、多変量補正オッズ比は2.2(信頼区間95% 1.4~3.5)となった。高血圧も症状発現との強い関連があり、多変量補正オッズ比は1.4.(信頼区間95% 1.0~2.1)だった。
720人が慢性胃炎を有していると報告し、胃炎のない群と比較すると、多変量補正オッズ比は8.2(信頼区間95% 5.8~11.5)となった。同様に、消化性潰瘍を有する群は、より逆流症状を報告する傾向にあり、多変量補正オッズ比は3.3(信頼区間95% 1.8~6.1)となった。
高血清トリグリセリド(1.8mmol/L)も胃食道逆流疾患の存在と有意な関連があり、多変量補正オッズ比が2.0(信頼区間95% 1.2~3.4)となった。
●考察
胃食道逆流疾患の疫学に関する本集団ベース研究は、中国における8,867人の退職者を調査し、全体的な胃食道逆流疾患有病率は1.7%となり、欧米での有病率よりも低い結果が出た。欧米では、胃食道逆流疾患と肥満との明らかな関連が示されている中で、本研究では有意な関連が見られなかったのは、中国における肥満傾向が比較的小さいことによるのかもしれない。しかしながら、血清トリグリセリド値の上昇や、高血圧・糖尿病・消化性潰瘍・胃炎の病歴が、胃食道逆流疾患発症のリスクを高めることと関連があった。これらの関係の根底にある仕組みをより十分に明らかにするために、さらなる研究が必要となる。