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子どもも塩分過剰に要注意
スナック菓子やファストフード、ハム・ソーセージなどの食肉加工品を通して、現代の子どもたちの塩分摂取量は多くなっているとみられます。その先に待っているのは。。。
大西睦子の健康論文ピックアップ11
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
2006年の厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、40~74歳の日本人のうち、男性の約6割、女性の約4割が高血圧※1といわれています。高血圧症になると、虚血性心疾患※2や脳血管障害※3などを合併するリスクが高くなります。厚生労働省の「健康日本21」※4によると、国民の血圧が平均2mmHg下がれば、脳卒中による死亡者は約1万人減り、循環器疾患全体では2万人の死亡が防げると推定されています。
日本高血圧学会減塩委員会は、高血圧の予防のために、血圧が正常な成人に対して、食塩摂取を1日6g未満に控える食塩制限を勧めています。世界保健機関(WHO)は、世界の人の減塩目標を5gとしています。しかし、2010年における日本の成人1日あたりの塩分平均摂取量は、男性で11.4g、女性で9.8gと、目標を上回ってます。高齢になればなるほど高血圧の影響は大きくなりますので、若い頃から食生活に気をつけて、高血圧のリスクを減らすことが重要と思われます。
しかし、最近、加工食品やファーストフード、スナック菓子を食べる子供が増えたため、子供たちの塩分摂取量が増加しています。小児期に血圧が高いと、成人になってからの高血圧症を発症したり、若くして心疾患を合併し、亡くなる原因となります。
なお、「食塩」が槍玉にあげられていますが、高血圧等の真犯人は、その主な構成要素である「ナトリウム」という物質です。食塩は、理科で習った「塩化ナトリウム(NaCl)」とほぼ同じもので、食塩量=ナトリウム量ではなく、食塩の約40%がナトリウム量に相当します。
ナトリウム量(mg)×2.54÷1000=食塩相当量(g) です。
過去20以上の観察研究で、児童(12歳以下)のナトリウム摂取量と血圧には関係があることが報告されています。また、過去の10のランダム化比較試験※5で、児童のナトリウム摂取量を適度に減らすと、血圧も下がることが明らかになりました。また12歳以上については、ナトリウム摂取を減らすと、メタボリック症候群や肥満が改善されることが報告されています。しかし、20歳未満の子どもについて、体重とナトリウム摂取量および血圧の関係を調べた研究は、これまで限られていました。
今回ご紹介する論文は、米国における子供の、ナトリウム摂取量と高血圧および肥満の関係についての報告です。
Sodium Intake and Blood Pressure Among US Children and Adolescents.
Yang Q, Zhang Z, Kuklina EV, Fang J, Ayala C, Hong Y, Loustalot F, Dai S, Gunn JP, Tian N, Cogswell ME, Merritt R.
Pediatrics. 2012 Sep 17. PMID: 22987869.
●方法
対象者は、米国国民栄養健康調査2003-2008に参加した8歳から18歳の6235人の子供です。被験者の普段のナトリウム摂取量およびカリウム摂取量、総カロリー摂取量の推計は、米国国立がん研究所(NCI)が開発した2段階方式を用いて、人種・民族や年齢も加味しながら男女別に行いました。
●結果:
1日当たりナトリウムの摂取量は平均3387mgであり、37%が体重過多(overweight)あるいは肥満(obese)でした。平均ナトリウム摂取量は、年齢とともに増加が見られました。摂取量は、女性被験者グループよりも男性被験者グループの方が多く、肥満・体重過多よりも正常な体重の人が多い傾向がありました。人種・民族ごとに見た消費量は、非ヒスパニック系白人が一番高くなりました。調査対象者全体では、高血圧・高血圧予備軍の人は14.9%でした。
1日当たりナトリウム摂取量が1334mgから8177mgの範囲だった対象者を、摂取量に応じて4つのグループに分類しました。全体で見ると、平均最高血圧は、ナトリウム摂取量の少ないグループが106.2mmHg、ナトリウム摂取量の多いグループが108.8mmHgで、ナトリウム摂取量の多いグループの方が2.6mmHg高くなりました。特に、肥満・体重過多の子供では、ナトリウム摂取量の少ないグループが109.0mmHg、ナトリウム摂取量の多いグループで112.8mmHgと3.8mmHg高い値が出ました。正常体重の子供は、ナトリウム摂取量の少ないグループが104.8mmHg、ナトリウム摂取量の多いグループで106.6mmHgと、高く出たのは1.7mmHgでした。1日1000mgナトリウム摂取量が増えることで高血圧・高血圧予備軍となるリスクは、肥満・体重過多の子供では74%も認められましたが、正常体重の子供は6%でした。
●考察
この研究により、ナトリウム摂取量が最高血圧と関係し、摂取量が多いと高血圧・高血圧予備軍のリスクが増えることが分かりました。さらに、肥満や体重過多の子供たちでは、この傾向が強いことも分かりました。
1989年にRocchiniらは、肥満の10代の子どもの血圧はナトリウム摂取量の変化に特に敏感であり、この感度は、高インスリン血症※6および高アルドステロン症※7、交感神経系※8の高活性にも影響する可能性を報告しました。成人では、ナトリウム摂取量の血圧への影響が、体重過多やメタボリック症候群※9の人でより顕著になることが実証されています。
今回の報告では、正常体重の子供たちについてはナトリウム摂取と高血圧予備軍や高血圧のリスクとの間に特段の関係を認めませんでしたが、だからと言って、「高ナトリウム摂取は高血圧のリスクに影響がない」と解釈されるべきではない、と筆者らは述べています。
米国の2010食生活指針によると、2歳以上の子どもの1日のナトリウム摂取量は2300mg(食塩で約5.8g)未満とすることが推奨されています。特に、アフリカ系アメリカ人や高血圧、糖尿病、慢性腎臓病の子供は、1日1500mg(食塩で約3.8g)未満にとどめるよう推奨されています。
しかしながら、平均的なアメリカ人の食事中のナトリウムの75%以上が、加工食品やファーストフードなどに由来し、アメリカの子どもたちのナトリウム摂取量を減らすことは依然として困難な状況です。日本でも、子どもの塩分摂取量が増えていると予想されます。、
生活習慣病による高血圧は、毎日の食生活で予防できます。子どもの頃から、塩分の多い加工食品やファストフード、スナック菓子ではなく、健康的な食事を心がけたいですね。