全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

心肺機能が高いほど心血管疾患リスクは低い

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

冠動脈性心疾患発生の推定リスクが低い男女を対象に、心肺機能と30年間での総死亡リスクや心血管疾患死亡リスクとの関連を調べたところ、心肺機能の高い方がリスクは低いと分かりました。

Cardiorespiratory Fitness and Long-Term Survival in "Low-Risk" Adults
Carolyn E. Barlow, MS; Laura F. DeFina, MD; Nina B. Radford, MD; Jarett D. Berry, MD, MS; Kenneth H. Cooper, MD, MPH; William L. Haskell, PhD; Lee W. Jones, PhD; Susan G. Lakoski, MD, MS
J Am Heart Assoc. 2012;1:e001354 doi: 10.1161/JAHA.112.001354.

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

↓↓↓当サイトを広く知っていただくため、ブログランキングに参加しました。応援クリックよろしくお願いします。

●背景

 Framingham Risk Score (FRS)は、将来の冠動脈性心疾患(CHD)発生に対する10年後のリスクを推定する世界的なリスクスコアである。FRSでは、三つの分類があり、今後10年間でのCHD発生リスクが10%未満と推定される低リスク、10~20%と推定される中リスク、20%超と推定される高リスクとに分かれる。FRSは、年齢・喫煙歴・コレステロール値・血圧などの伝統的危険因子に基づいている。FRSは10年間のCHDリスク評価の至適基準として広く認められており、低密度リポ蛋白コレステロール(LDL-C)のような治療されていないCHD危険因子に対する医学療法を始めるための境界点について医師に情報を与える予防保健ガイドラインにおいて利用されている。FRSは、CHDの危険因子として年齢にかなりの重点を置いており、治療の出発点が熟年者に偏り、その結果、より低いリスクを短期間しか抱えていない若い患者には、人生におけるCHDリスクは高いにもかかわらず、治療の優先権が与えられていない。

 この限界に照らして、自分たちを含むいくつかの研究グループは、最大運動試験での心肺機能測定はもちろん、C反応性蛋白(*1)や伝統的危険因子に対する家族歴を加え、冠動脈カルシウム探知のためにCTを用いる新たな分類システムを開発してきた。しかし、この分野における先の研究の大部分は、スタチンのような早期の意欲的な予防療法の臨床目的により、伝統的には低リスクと分類されてきた人を中リスクへと適切に分類し直すことに焦点をあててきた。低リスクと分類されたままになっている人に対しては、より少ない重点しか置かれていないのである。これらの人が人口の大きな割合を占めており、低リスクの人が人生を通して必ずしも低リスクのままでいるわけではないことを考慮すると、低リスクの人は重要な亜集団となるのである。

 心肺機能は、心血管疾患(CVD)の強力な予測因子であり、伝統的危険因子を越えて、CVD死亡率を短期(10年)と長期(25年)の両方にわたり予知向上させている。しかしながら、心肺機能が、FRSによって適切に低リスクと分類された人において、長期のCVDリスク予知になるのかどうかは調査されてきていない。したがって、本研究において、Cooper Center Longitudinal Studyにおいて低リスクと分類された男女11,190人を対象に、心肺機能の予知重要性を評価するものである。

●方法

(1)対象者および健康診断
 30~50歳でベースライン健康診断を1970~1983年の間にCooper Clinicで受け、研究登録時のFRSでCHD10年リスクが10%未満の低リスクとして分類され、糖尿病歴のない男女が対象者となった。Cooper Clinicのベースライン時訪問で、広範囲健康診断が実施され、人体測定、ラボ解析、最大運動トレッドミル(*2)試験による心肺機能評価が行われた。年齢・性別・健康習慣に関する情報は、アンケートにより入手され医師により確認された。BMIは測定体重と身長から算出した。血圧は、対象者が5分間座った後に標準聴診法で測定した。身体活動は、4分類による身体活動指標変数で評価され、0は定期的身体活動なし、1はウォーキング・ジョギング・ランニングを除いた身体活動、2は週に0~10マイルのウォーキング・ジョギング・ランニング、3は週に11~12マイルのウォーキング・ジョギング・ランニング、4は週に20マイル超のウォーキング・ジョギング・ランニングに分けた。収縮期血圧(最高血圧)と拡張期血圧(最低血圧)は、コロトコフ音(*3)の最初と5番目が記録された。12時間絶食後の前肘静脈血を採取し、ブドウ糖と脂質の血漿濃度が、米国疾病管理予防センター(CDC)の脂質標準化プログラムの品質管理基準を満たす形で、Cooper Clinicラボで自動生物検定により測定された。

 心肺機能は最大トレッドミル運動で以下のように測定した。
1 最初は、トレッドミルの速度を3.3マイル/時=88メートル/分にセット
2 最初の1分間は傾斜設定を0%にし、2分目は2%にする
3 その後1分ごとに1%ずつ上げる
4 25分後からは、傾斜設定は変更しないが、少しずつ速度を上げ、継続できなくなったら試験終了
5 対象者を年齢と性別による層別に心肺機能によって5群に分類

(2)死亡確認
 すべての対象者は、ベースライン時検査から死亡日または2008年12月31日まで追跡調査を受けた。死亡に関しては、国民死亡記録データベースが主たるデータ源となった。心血管関連死亡については、国際疾病分類第9版ならびに第10版を用い特定した。

(3)統計方法
 年齢・性別・BMI・ブドウ糖・喫煙状況・収縮期血圧・総コレステロール・早発(50歳未満)CHD家族既往歴による補正を加え、ハザード比を算出した。また、心肺機能と性別、心肺機能とBMIの相乗交互作用も調査した。

●結果

 ベースライン時のコホート平均年齢は41歳±標準偏差4、平均BMI値は24.8±標準偏差3.5、平均FRSは男性が5%±標準偏差2、女性が3%±標準偏差2だった。平均FRSおよびFRS<6%対6~9%の対象者の割合は、心肺機能5分類群によって変動があり(P<0.001)、以下のようになった。
1 最低五分位群 平均5%±標準偏差2、FRS<6%が52%、FRS6~9%が42%
2 第二五分位群 平均5%±標準偏差2、FRS<6%が62%、FRS 6~9%が38%
3 第三五分位群 平均5%±標準偏差2、FRS<6%が68%、FRS 6~9%が32%
4 第四五分位群 平均4%±標準偏差2、FRS<6%が72%、FRS 6~9%が28%
5 最高五分位群 平均4%±標準偏差2、FRS<6%が82%、FRS 6~9%が18%

 心肺機能のMET値を比較すると以下のようになった(P<0.001)。
1  最低五分位群男性 8.7(信頼区間 95% 4.4~9.9)
2  第二五分位群男性 10.2(信頼区間 95% 9.4~10.8)
3  第三五分位群男性 11.4(信頼区間 95% 10.3~12.2)
4  第四五分位群男性 12.6(信頼区間 95% 11.3~13.5)
5  最高五分位群男性 14.8(信頼区間 95% 12.6~22.5)
6  最低五分位群女性 6.6(信頼区間 95% 4.4~7.6)
7  第二五分位群女性 7.7(信頼区間 95% 6.3~8.5)
8  第三五分位群女性 8.7(信頼区間 95% 8.1~9.4)
9  第四五分位群女性 9.5(信頼区間 95% 8.5~10.3)
10 最高五分位群女性 11.5(信頼区間 95% 9.9~18.3)

 BMI値を比較すると以下のようになった(P<0.001)。
1  最低五分位群男性 27.9±4.3標準偏差
2  第二五分位群男性 26.3±2.9標準偏差
3  第三五分位群男性 25.4±2.5標準偏差
4  第四五分位群男性 24.9±2.3標準偏差
5  最高五分位群男性 23.9±2.0標準偏差
6  最低五分位群女性 24.4±5.1標準偏差
7  第二五分位群女性 22.5±3.2標準偏差
8  第三五分位群女性 21.9±2.8標準偏差
9  第四五分位群女性 21.3±2.2標準偏差
10 最高五分位群女性 20.6±1.6標準偏差

 身体活動との関係では、身体活動量が増すほどより高い心肺機能を有していることと関連があった(P<0.001)。また、それぞれの群でほとんどの心血管危険因子が正常域には納まっているものの、心肺機能の5分類群は、BMI・総コレステロール値・血圧・空腹時血糖値・喫煙とそれぞれ負の相関にあった(P<0.001)。

 27年±2平均偏差を通して、最低五分位群では群の15%が死亡したのに対し、最高五分位群では群の6%であった(P<0.001)。CVDによる死亡で見ると、最低五分位群では群の5.2%であったのに対し、最高五分位群では0.8%であった(P<0.001)。

 心肺機能MET値が1上がることと30年間での死亡およびCVDリスクとの関連を調べたところ、ベースライン時の心肺機能が1MET上がると、総死亡は11%、CVD死亡は18%低下することが分かった。また、最高五分位群での30年間での死亡リスク、CVD死亡リスクに関して最低五分位群を1.0とした時のハザード比で比較すると以下のようになった。
1 最高五分位群死亡リスク   0.54(信頼区間 95% 0.42~0.70)
2 最高五分位群CVD死亡リスク 0.29(信頼区間 95% 0.16~0.51)

 性別もBMI値も、心肺機能とCVDとの関連を変えることはなかった。

●考察

 本研究のデータは、心肺機能を最高利用できるように適応させる予防的生活様式の介在が、中年において低リスクである人であっても、CVDにならずに生存するために考えられるべきであることを示した。FRSで低リスクの人において長期の生存とCVDへの予知評価を加える因子を明瞭にすることは極めて重要である。本研究は、低リスクの人の心肺機能向上のための量および強度にまたがる運動処方適応に関して臨床診療に対する重要な含みを有している。実際、異なるリスク集団にわたって推奨されている中強度から強度の身体活動への定期的な取り組みは、第1次予防にとって重要な的となるのである。

1 |  2 
  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索