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職場環境を改善 エルゴノミクス

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

内側から見た米国医療6

反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。12年7月からメイヨークリニック勤務。

 メイヨークリニックにはエルゴノミクス(Ergonomics)という部門があります。最近日本で流行りの経済用語に似ていますが、経済とは全く関係ありません。日本語に訳すと「人間工学」です。人間の能力や特徴を踏まえた上で、周りの物や環境を自然な動きや状態で使えるように設計し、デザインする学問のことを指します。それにより、疲労からくるケガや誤認によるミスを防ぐことを目的とします。

 古くはヒポクラテスが外科医の手術台のデザインに言及した記述があるなど、その概念は古代ギリシャに遡ります。正式な学問として発達したのは19世紀以降で、航空産業を代表として、労働環境の改善や安全性の向上に大きく役立ってきました。最近は医療分野への応用が著しく、医療機器や医薬品のデザインは人間工学の知見を多く採り入れています。例えば、病院の空気の配管は黄色、酸素は緑と統一されており、配管出口の形はそれぞれ違います。これは空気の管を間違えて酸素の配管に繋ぐことを不可能にしており、人的ミスが入り込む余地をなくしています。また医薬品のラベルの色や文字の大きさを工夫し、取り間違いを防ぐなども例に挙げられます。

 メイヨーのエルゴノミクス部門は、それらとは異なり、雇用者の労働環境を改善することが主な仕事です。私自身も、慢性的な腰痛を持つ薬剤師の方をその部門に紹介した経験があります。その方は薬の調剤で立ち仕事が多いのですが、コンピューター入力の際に頻繁に屈む必要がありました。座って操作する場合も椅子やキーボードが調節可能な型ではなく、窮屈な姿勢での操作を余儀なくされていました。他にも、長時間キーボード操作をする事務職員の繰り返す手首関節炎、病院のウェブデザインを担当する方の慢性頭痛など、職場環境と関連する疾病は多くあります。

 エルゴノミクス部門に紹介すると、専門のスタッフが現場に入って評価し、環境改善に関する提案をしてくれます。例えば高さを調節できる台や、角度を自由に調整できるキーボードを導入するなどです。医学的見地から医師が助言を加え、それを基に現場の責任者がどう対応するか決めます。

 新たな備品購入の予算は当該職場の部門から捻出されるので、すべての提案が反映されるわけではありません。しかし、例えば1人の看護師が1週間欠勤した場合、傷病手当や保険料、代わりの人員にかかる費用などすべて含めて、病院にとって約2500ドルの損失になるそうです。職員の生産性や士気の低下を招くことも、マネージャーとしては避けたいところです。さらに、職員が心地良く仕事をできる環境を整えることは、職場の良い雰囲気を作るために必須です。心のこもった対応を通じて最高の患者ケアを提供するためには、必要な投資とも言えるでしょう。

 これは必ずしも病院に限らず、多くの企業に当てはまると思います。しかし専門の部門を持っているとは、さすがメイヨーと思わざるを得ませんでした。

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