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睡眠のリテラシー46
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高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員
日頃、自動車をどのくらい運転していますか。仕事として毎日運転する方もいれば、週末のドライブを少しという方もいるでしょう。
どちらであれ、元気に出発して、無事に帰宅することが何より大切です。ただし、事故さえ起こさなければよいとは言えません。ご承知の通り、運転する前、している最中、あるいは駐車する時に禁止されていることが数多くあるからです。
それらの交通ルールをきちんと守って運転することは私たちの責任で、交通違反は、いつか大事故につながりかねません。
交通違反は、運転者が意図的に行うものとそうでないものに大きく分けられます。例えば、スピード違反は自分がアクセルを踏み過ぎるから制限速度をオーバーしてしまいます。飲酒運転や最近頻発している危険ドラッグ運転も、そうした薬物を自分が摂ったせいで起こります。
一方、ハンドルを握っている時に意図的に居眠りする者はいません。自分にとっても他者にとっても危険であるとよく認識しているからです。また、警察庁の統計で死亡事故の原因となった交通違反第2位(第1位は「漫然運転」)の脇見運転も、前を見ないで運転していることと同じで危険に決まっているので、意図してやっている者はいないはずです。ちなみに、脇見運転による死亡事故の6割以上で歩行者が犠牲になっており、この問題は深刻です。
さて、自動車の安全な運転に良好な睡眠が欠かせないことは多くのデータから示されています。ところが、交通違反と睡眠がどのように関連するかについての調査研究は、これまでほとんど行われてきませんでした。
これら意図しない違反である居眠りや脇見を適宜チェックできる装置がないことや、たとえ運転中に幾度かウトウトしたり、脇見したりしても、事故が起こらなければ、見かけ上は問題なしとされてしまうためだったのかもしれません。
そこで今回は、模擬運転装置を使った英国での実験をご紹介します。実験中、参加者の顔(視線)をビデオで撮影し、どのくらい脇見したかを調べます。睡眠を8時間とった条件に比べて、睡眠5時間の条件では全体で1.5倍多く脇見をしました。
このうち、事故を招いた脇見についてみると、睡眠の短い条件では3秒未満の脇見は2倍ほど、それ以上長い脇見は4倍ほど多くなることが分かりました。
睡眠の短い時に脇見が本当に多くなるのであれば、無事故と共に無違反を叶えるためには、しっかり眠ってから運転することが必要となります。
睡眠が足りないと、無意識に交通違反をしやすくなり、結果として他人の命を奪うことになるとすれば、見過ごしにできる問題ではありません。今後、スピード違反や信号無視など他の交通違反と睡眠の関連も調べていく必要があるでしょう。