全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

インスタントラーメンがメタボ女性を生む

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

安くて手軽なインスタントラーメン。昨日は夜食に袋麺、今日はお昼にカップ麺、とついつい利用している方が多いのではないでしょうか? 肥満や高血糖を特徴とするメタボリック症候群のリスクとの関連性が、米国の栄養学雑誌「The Journal of Nutrition」に報告され、米国内ではこの夏、大きな話題となりました。

大西睦子の健康論文ピックアップ96

大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。著書に「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側 」(ダイヤモンド社)。

大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートと編集は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。


一人当たり消費量No.1の韓国で調査

米ハーバード大学の研究者らは、2007年から2009年の韓国の国民健康栄養調査(KNHANES)をもとに、インスタントラーメンを食べる頻度を含む食事パターンと疾病・健康状態の関係を分析しました。19歳から64歳の計1万711人(女性55%)が、調査の対象となりました。

Hyun Joon Shin, Eunyoung Cho, Hae-Jeung Lee, Teresa T. Fung, Eric Rimm,Bernard Rosner, JoAnn E. Manson, Kevin Wheelan10, and Frank B. Hu.
Instant Noodle Intake and Dietary Patterns Are Associated with Distinct Cardiometabolic Risk Factors in Korea.
J. Nutr. June 25, 2014
doi: 10.3945/jn.113.188441

世界インスタントラーメン協会(World Instant Noodles Association)のデータによると、インスタントラーメン消費量トップ10カ国のうち8カ国がアジアで、韓国は2013年に合計36億食も消費しており、一人当たり消費量が世界一となっています。

韓国では、1998年から2007年の間に体重過多の成人が26%から32%に、メタボリック症候群が25%から31%に増加。その結果、心血管疾患による死亡数や全死亡数が上昇したのみならず、それに伴ってヘルスケア費も増加しました。その原因として、ハンバーガーやインスタントラーメン、ピザなどのファーストフードに代表される不健康な食生活が指摘されてきました。ただ、メタボリック症候群とインスタントラーメン単独との関係については明らかになっていませんでした。


有病率との関係は認めず

KNHANESの参加者は63項目の食品に関するアンケートに答えており、その結果から、研究者らは男女に共通する2つの食事パターンを見つけました。

●伝統食が中心:
穀物、豆類、魚、野菜、キノコ、海藻、果物やジャガイモが豊富な食事

●肉と加工食品が中心:
米や穀物は少なく、肉、炭酸飲料、揚げ物、ファーストフードやインスタントラーメン、パン、クッキー、魚肉練り製品、アイスクリーム、ハンバーガー、ピザが豊富な食事

肉と加工食品の傾向がもっとも顕著な2142人の人たちは、男性では週に2回、女性では週に1.2回、インスタントラーメンを食べており、他方、伝統食の傾向がもっとも顕著な人たち(同数)では男性が週に1.1回、女性が週に0.7回でした。

興味深い点は、週に2回以上インスタントラーメンを食べる人、および肉と加工食品中心の人たちには、男女ともに▽若者▽より多くのアルコールを飲む▽喫煙者▽運動しない▽炭水化物の摂取が低い、という傾向がありました。肉と加工食品が中心の人たちは、腹部の肥満、高LDL(悪玉)コレステロール、高トリグリセリド(中性脂肪)が増加し、低HDL(善玉)コレステロールが減少、メタボリック症候群のリスクが高い傾向を示しました。

伝統食中心の人たちは、▽高齢者▽活動的▽教育や所得の水準が高い▽禁煙者、という傾向が見られ、腹部の肥満や高血圧が少ない、つまりメタボリック症候群のリスクが低い傾向を示しました。

ただし、伝統食中心と肉・加工食品中心のどちらのグループも、メタボリック症候群の有病率と強い関係は認められませんでした。


女性は週1食でもリスク高まる

次に研究者らは、同じKNHANESの回答者について、インスタントラーメンを食べる頻度と、メタボリック症候群やそのリスク要因との関連性を詳細に統計分析しました。

その結果、男女差が明らかになりました。週2回以上インスタントラーメンを食べる女性では、月に1度も食べない女性に比べて68%もメタボリック症候群の有病率が高くなり、週に1回インスタントラーメンを食べる女性では、月に1度も食べない女性に比べて26%高くなることが示されました。こうした傾向は、平素の食事が伝統食中心であろうと肉・加工食品中心であろうと、調査対象の女性全般に認められた一方、男性では確認されませんでした。つまり女性は、平素いくら健康的な食事に注意していても、インスタントラーメンを習慣的に食べるだけで、メタボリック症候群のリスクが高まるのです。

なぜ、女性だけリスクが高まったのでしょうか。その理由として研究者らは、性ホルモンや代謝などの男女の生物学的な違いを考察しています。ただそれ以外にも、同じ食事パターンでも摂取した食品群の割合の違いが男女で違うとか、メタボリック症候群の診断における腹囲の基準の男女差、社会的に望ましいとされる回答をしてしまうことで調査の正確さに影響が出ていること、などを可能性として挙げています。

研究者らはさらに、環境ホルモンとして知られる「ビスフェノールA(BPA)」と呼ばれる化学物質の関与を懸念しています。BPAは インスタントラーメンの発泡スチロール容器によく使用され、熱湯を入れた時に溶け出すことが指摘されています。BPAは女性ホルモンのエストロゲンと似たような構造を持つため、エストロゲン様の作用を及ぼし、ホルモン調節機構を攪乱してしまうのです。脂肪の生成を加速させ、肥満との関連も報告されています。

Ben-Jonathan N, Hugo ER, Brandebourg TD.
Effects of bisphenol A on adipokine release from human adipose tissue: implications for the metabolic syndrome.
Mol Cell Endocrinol 2009;304:49-54.


せめてカップは移し替えて

今回、インスタントラーメンに科学的見地から改めて警鐘を鳴らした筆頭著者のヒョン•ジュン•シン医師は、ハーバード公衆衛生大学院、栄養疫学博士課程在籍ですが、もともとベイラー大学医療センター臨床心臓学フェロー、つまり心疾患の専門家でもあります。シン医師は、米国大手メディア「TIME」に対して、「即席麺は生麺と違い、美味しくするためにかなり加工されていますし、5分以内に調理できて簡単です。でも生麺だって、インスタントより数分間長くゆでるだけです。あなたの心臓にとって、その数分間待つことは十分価値のあることです」と話します。

TIME:
How Instant Noodles Can Hurt Your Heart 
(2014年8月20日)

論文が発表されたのは6月のことですが、8月に入ると米国内で報道が相次ぎ、全米が騒然となりました。

Newswise:
Can Instant Noodles Lead to Heart Disease, Diabetes and Stroke?
Source room: Baylor Scott & White Health
(2014年8月11日)

abc 10 news:
The untold dangers of ramen noodles
(2014年8月15日)

これに対し日本国内では、インターネットのニュースで取り上げられたものの、テレビや新聞によって後追い報道されることもなく、瞬く間に他の話題にかき消されていったとのこと。とはいえ、先に取り上げた世界インスタントラーメン協会のデータによれば、2013年の日本のインスタントラーメン消費量は55億食です。一人当たりの消費量は韓国より少ないものの、合計量で見れば、日本は中国・香港とインドネシアに次ぐ世界第3位の市場です。論文の指摘が事実なら、決して看過できるものではありません。

カップラーメンは、緊急時には役に立ちますが、毎日の食事としてはどうでしょうか。インスタントラーメンは、塩分と脂肪、炭水化物、添加物が多く、ビタミンやミネラルなどの栄養価が低いことが気がかりです。どうしても、という時は、ぜひ野菜などの具をたっぷり加えたオリジナルラーメンにアレンジしてみてください。もちろん、使い捨ての発泡スチロール容器ではなく、陶器などの食器に盛りつけてくださいね。洗い物などちょっとした手間をいとわなければ、BPAにさらされずに済みますし、環境にも優しくなれますね。

  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索