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尿失禁を治療しない理由

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 高齢化社会において尿失禁は大きな健康問題となっています。治療を受けないのはなぜかを分析しました。

Gender-specific external barriers to seeking care for urinary incontinence
Svihra J, Luptak J, Svihrova V, Mesko D.
Patient Prefer Adherence. 2012;6:773-9. doi: 10.2147/PPA.S37180. Epub 2012 Nov

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 尿失禁は、無意識な尿漏れと定義され、ありふれた健康問題である。尿失禁は、種類・頻度・重症度・誘発因子・社会的影響・衛生や生活の質に対する影響・漏れを食い止める方法・該当者が援助を捜し求めたり望んだりするかどうかにより説明され得るのである。

 緊張性尿失禁は、努力や身体運動、あるいは、くしゃみや咳による無意識な尿漏れを指す。切迫性尿失禁は、緊急性が伴う、あるいは直接に緊急性が先立つ無意識な尿失禁を指す。切迫性尿失禁は、排尿と排尿の間の頻繁な少量損失、または、完全なる排尿による大災害的な漏れとして描写される。

 大規模な集団ベースの疫学的研究は、異なった年齢層・性別・人種における、そして特定の疾患を抱える人における尿失禁の高い有病率と発生率を示してきている。尿失禁は、多くの疫学的研究において特定の質問票で測定されているように、生活の質に重要な影響を与える。

 尿失禁の治療を求めるための障壁は、病気を抱える人が治療を求めることを妨げる外的条件、交通機関や健康保険のような外的障壁である。そのような障壁は、内的条件、つまり、病気を抱える人が治療を求めることを妨げる気持ちであるところの困惑・恐れ・不安といった内的障壁とは異なる。医療の質は、尿失禁患者が治療を求めることを妨げる障壁に従って測定され得る。様々な研究が治療を求めることに焦点を当ててきているが、そのどれもが有病者の治療への障壁を操作できるようにはなっていない。

 失禁治療探究障壁質問票(The Barriers to Incontinence Care Seeking Questionnaire = BICS‐Q)は、ある研究者たちによって作成された、治療を求めるための外的障壁測定のための有効ツールである。患者による治療への費用ないしは障害認識として障壁の概念を操作可能にするために開発された。国際尿失禁会議質問票(The International Consultation on Incontinence Questionnaire - Urinary Incontinence Short Form = ICIQ‐UI SF)は、特にプライマリーケアにおける、尿失禁の基礎評価のために作成された。両質問票ともに、失禁患者による医療探究の研究で妥当性を検証されてきている。質問票は、大規模疫学的研究における対象者の尿失禁に関する様々な面を研究することを考慮に入れている。本研究の目的は、尿失禁を抱える成人集団における障壁・性別・医療の不均衡を比較することである。

●方法

(1)対象者
 本横断的研究は、ある中央ヨーロッパの国において2009年の3月から6月に無作為抽出されたプライマリーケア・クリニックにおいて実施された。尿失禁を有する患者の集団において、治療探究のための特定障壁が分析された。質問票に基づく調査には、すべての年齢層の男女が含まれた。対象者は、外来クリニックの患者リストから無作為抽出された。除外区分は、尿失禁治療を受けている場合、研究参加を拒否した場合、尿失禁がない場合、認知機能低下の場合とした。

(2)過程および測定
 患者は、自分の主治医との診察を受けた後に、紙の質問票に回答した。標本化は各医師によって1週間で行われた。標本化の期間は、2009年3月から6月までだった。質問票は研究者によって回収され、研究データベースに入れられた。

 二つの有効質問票が尿失禁治療探究障壁測定のために使用された。BICS‐Qは、以下の14項目で構成されており、0=全くない 1=少しある 2=それなりにある 3=非常にある、の四つから選択式で回答するものとなっており、各質問の得点を合計して、全体の得点を算出し、より高い障壁得点は尿失禁治療探究可能性が低くなると関連づけられることとなる。
1 不快な尿漏れに関して自分を診察してくれる医師がいない。
2 保険が現金払い費用を払い戻すまでに長期間の遅延がある。
3 自分の保険は計算が複雑過ぎる。
4 自分の抑制できない尿漏れの査定費用が高額過ぎる。
5 クリニックへの交通手段がない。
6 予約時の待ち時間が長過ぎる。
7 クリニックが遠過ぎる。
8 予約がずっと先になってしまう。
9 診察時間が限られている。
10 検査されたり、色々と質問されたりするのが好きではない。
11 医師や看護師が、何を何のためにしているのか説明したり、自分の質問に答えたりしてくれる時間を取らない。
12 自分が深刻な問題を抱えているかどうか分かるのが怖い。
13 何かの理由により、医師が怖い。
14 医師やスタッフが健康に関する自分の不安に興味を示さない。

 ICIQ‐UI SFは、以下の3項目と得点配分で構成されており、3項目の合計点が高いほど尿失禁の深刻度が増すことと関連づけられる。
1 どれくらいの頻度で尿が漏れますか? 
(一つチェックしてください)
0点 一度もない                  
1点 おおよそ1週間に1回、あるいはそれ以下    
2点 1週間に2~3回               
3点 おおよそ1日に1回              
4点 1日に数回                  
5点 常に                      

2 あなたはどれくらいの尿漏れがあると思いますか?
  あてものを使う使わないにかかわらず、通常はどれくらいの尿漏れがありますか?
(一つチェックしてください)
0点 ない
2点 少量
4点 中等領
6点 多量

3 全体として、尿漏れがあなたの毎日の生活をどの程度妨げていますか?
0(まったくない)から10(非常に)までの数字を○で囲んでください。
0(まったくない) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10(非常に)
ICQI合計得点 (    )

4 どんな時に尿が漏れますか?
  (あてはまるものすべてにチェックをしてください)
a ない-尿は漏れない
b トイレにたどり着く前に漏れる
c 咳やくしゃみをすると漏れる
d 眠っている間に漏れる
e 体を動かしている時や運動している時に漏れる
f 排尿を終えて服を着た時に漏れる
g 理由が分からずに漏れる
h 常に漏れている

 すべての対象者が、紙ベースの人口統計学的質問票、BICS‐Q、ICIQ‐UI SFに回答し、その後性別によって群分けがされた。

(3)分析
 BICS‐Q得点と性別で補正を加え、多変量ロジスティックモデルによるオッズ比を算出した。

●結果

 全体で、39のセンターから1,014人が無作為抽出され、567人が分析対象に含めるか除外するかの評価を受けた。研究グループの平均年齢は、68.7歳±平均偏差15.4(22~98歳)となった。平均BICS‐Q総得点は7.5点±平均偏差7.3(0.0~42.0点)、平均ICIQ‐UI SF総得点は13.9点±平均偏差4.6(1.0~21.0点)となった。

 対象者は、尿失禁に対する治療探究障壁に基づいて4群に分類された。
1 障壁なし300人
2 軽い障壁(BICS‐Q<5点)150人
3 中程度障壁(BICS‐Q6~36点)116人
4 深刻な障壁(BICS‐Q>36点)1人

 治療探究に対する最も頻繁な障壁は、医師に対する恐怖、予約時に長時間待つ、最寄りのクリニックまで遠いの三つで、いずれも50%を超えた。軽度から中程度の尿失禁がある患者(ICIQ‐UI SF≦12点)は、BICS‐Q平均得点が5.9点±平均偏差5.4、尿失禁重度から大変重度の患者(ICIQ‐UI SF≧13点)は、BICS‐Q平均得点が8.3点±平均偏差8.0だった。この差異は、統計的に有意だった(P<0.05)。これらの結果は、重度の尿失禁患者では治療探究可能性が低くなるという考えを支持していることになる。

 研究グループは、男性147人、女性420人で構成され、女性BICS‐Q平均得点は7.4点±平均偏差6.9、男性BICS‐Q平均得点は7.7点±平均偏差8.4、女性ICIQ‐UI SF平均得点は13.6点±4.6、男性ICIQ‐UI SF平均得点は14.6点±4.7となった。対象患者は、尿失禁治療を受けているかどうかと性別により4群に分類された。男性患者のうち、63.3%にあたる93人、女性患者の67.1%にあたる282人は尿失禁に対して何の治療もしていないと報告した。女性では、年齢とBMIにおいて、男性では、前立腺切除術歴と教育レベルにおいて、治療を受けている群と受けていない群の間に統計的有意差が存在した。治療を受けた男性は有意により低いBICS‐Q得点となった。

 治療探究に影響を与えるかもしれない危険因子の性別による補正オッズ比は以下の通りである。
1 肥満(BMI>30)
  女性2.13(信頼区間 95% 1.35~3.34)
  男性0.83(信頼区間 95% 0.36~1.93)
2 緊張性尿失禁
  女性1.57(信頼区間 95% 0.94~2.36)
  男性9.38(信頼区間 95% 1.07~12.62)
3 切迫性尿失禁
  女性2.40(信頼区間 95% 1.49~3.87)
  男性1.75(信頼区間 95% 0.84~2.65)
4 BICS‐Q得点が20点を超えている場合
  女性1.09(信頼区間 95% 0.45~2.65)
  男性3.06(信頼区間 95% 1.05~9.89)
これらの差異は、すべて統計的に有意であった。
尿失禁が5年以上続いている場合、女性の方が男性よりも、やや強く治療探究をしない可能性との関連があり、オッズ比は女性1.21(信頼区間 95% 0.77~1.88)に対して男性0.51(信頼区間 95% 0.23~1.13)となった。子宮摘出術歴、前立腺切除術歴は、尿失禁治療探究障壁として危険因子割合が低く、女性オッズ比0.83(信頼区間 95% 0.51~1.34)、男性オッズ比0.18(信頼区間 95% 0.08~0.41)となった。

●考察

 尿失禁治療探究に対する外的障壁は、性別により特定される。女性の場合は、肥満・切迫性尿失禁が、男性の場合は、緊張性尿失禁がより苦痛となっている。より長い平均余命が、高齢者人口増加につながっており、本研究結果は、将来における尿失禁人口への医療改善に寄与するかもしれない。尿失禁治療探究に対する障壁の識別は、効果的な社会プログラムや保健プログラム、政策を創り出す導きとなる可能性がある。性別に特定の障壁が、尿失禁有病者についての医療決定をする際に考慮されなければならない。しかしながら、障壁のリスクがより高い患者については、尿失禁をうまく処置する動機づけがされなければならない。

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