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6歳永久歯での虫歯は大きな危険信号

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 マレーシアでの調査ですが、6歳の小学生が12歳になるまで虫歯の記録を調べたところ、6歳で永久歯に虫歯があった子どもたちは、12歳でも虫歯があるリスクが高く、乳歯から永久歯に生え変わった後が大切であることが分かりました。

Assessment of dental caries predictors in 6-year-old school children - results from 5-year retrospective cohort study
Mohd Masood, Norashikin Yusof, Mohammad Ibrahim Abu Hassan and Nasruddin Jaafar
BMC Public Health 2012, 12:989 doi:10.1186/1471-2458-12-989
Published: 16 November 2012

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 齲歯(虫歯)は、一般にはびこっていることと治療の費用が高いことで大きな公衆衛生問題となったままであり、最終的には生活の質に影響を及ぼす口腔痛や歯の損失の主要因となっている。最近のエビデンスは、虫歯は多因子的疾病で、遺伝子的・行動的・社会的・環境的因子によって全く様相が変わるを示している。虫歯のこの複雑な病因を考えると、口腔疫学者にとっての大きな挑戦は、疾病および不快な結果を制御する社会的に適切な公衆衛生手段に焦点をあてるために、虫歯の潜在的な決定要因と予測因子を示すことである。虫歯増加を高める危険因子に関する研究は、虫歯の最も強力な予測因子のうちの一つが、乳歯におけるベースラインでの虫歯経験であることを示してきている。しかしながら、同様の結果を見出していない研究もある。

 予測因子識別の他に、虫歯予防における口腔疫学者にとってのもう一つの挑戦は、ある一定の人口集団が高い程度の虫歯を抱えている、あるいは虫歯発現リスクが高いという歪んだ分布である。世界的には1970年代初期から罹患率の有意な全体的減少があるのだが、少数において疾病の程度の高さがいまだに報告されており、高リスク者のレッテルを貼られているのだ。虫歯程度の分布は開発途上国において特に歪みを増してきており、疾病の分極化につながり、健康における不平等が増している。時を経て、虫歯有病率の歪んだ分布が多くの国において明らかになってきており、12歳の子どもの少数が、高いあるいは極めて高いDMFT(*1)(齲蝕歯数)値を有しているのである。歪んだ分布と虫歯の高リスク分布は、子どもにおける適切な虫歯リスク評価と予測を正当化するものである。

 このように、最も大きなリスクを抱える分集団を見極め、虫歯罹患率に関連する予測因子を明らかにすることが、いくつかの理由により必要となるのである。第一に、疾病の主たる危険指標と予測因子は、早期予防手段により最も利益を受ける人の識別を可能にするということである。次に、これら対象者の早期識別は、保健行政が、虫歯リスクの高い人に焦点を当てた最適の予防戦略を開発することや地域社会における予防プログラム効果を後押しすることを可能にする。開発途上国にとって検討が重要なのは、リスクのある人を識別するために無差別に市場化されている商業的虫歯検査キットの費用対効果の問題である。

 虫歯の危険因子や予測因子を示しているほとんどの研究が、横断的設計を採用するかコホート設計を用い、ほとんどが高所得国における比較的小さな標本を含む短期追跡調査期間のみでのものとなっている。疾病傾向は対照的であることから、低所得国や中所得国における集団ベースの標本を含むコホート研究設計での、より長期にわたる虫歯予測因子の包括的研究が必要とされる。ほとんどの先進工業国において虫歯が減少している一方で、ほとんどの開発途上国においては反対のことが起きている。それ故、このマレーシアのコホート研究は、5年間追跡調査を受ける6歳の子どもでの虫歯発現の割合や型を調査し、学童における5年後虫歯経験に関連あるかもしれないベースライン時危険因子を示す目的で設計された。

●方法

 マレーシアのシャー・アラム市、および都市と田園の混在地域セベラン・プライの政府補助学校に通う当初6歳の小学生を含む5年間の後ろ向きコホート研究である。両地域ともに、国の上水道フッ素化計画の一部として、1976年以来0.5~0.8ppmレベルのフッ素添加公共水道を利用できるようになっている。上水道フッ素化のほかに、フッ素添加練り歯磨きも広く入手可能となっている。しかしながら、局所用フッ化物は必要性を示されておらず、めったに使われない。

 当初標本は、1,987人の6歳児を含んだが、5年の研究期間を通して、情報不備により157人の記録が除外され、最終的には1,830人の子どもが対象となった。多段集団無作為抽出法を用いた。両地域からすべての学校と各校の標準6年生登録数をリスト化した。調査に最低必要と考えた1,915人という標本規模を両地域すべての学校での標準6年生登録全数で除し、各人の選択確率が0.136になるという計算に基づき、192人の学校からは26人、338人の学校からは46人という具合に、学校間での偏りが出ないようにした。

 5年間のデータは、毎年実施の学校歯科記録から、2010年に後向きに収集された。記録カードは、人口統計学的データ(年齢・性別・民族)、歯科衛生状況(虫歯経験・歯肉炎)、それぞれの子どもに対する治療要求に関する情報を含んでいた。記録カードにある情報のすべては、マレーシア保健省により運営される学校歯科医療促進計画の一部として、2004~2009年まで収集された。すべての検査と記録は熟練歯科療法士によってなされ、医療データは、教育行政により保管されたている各子どもの歯の状況と施された治療の記録を示した。各子どもの虫歯経験は、世界保健機関の虫歯診断区分を用い、Dは未処置齲蝕歯、Mは喪失歯(齲蝕により抜去された歯)、Fは処置済みの歯、Tは永久歯数、Sは永久歯面数で記録された。

 子どもたちのベースライン時の虫歯レベルにより、5年後に虫歯のある相対危険度評価を行った。さらに、虫歯と選択説明変数(性別・民族・田舎/都会)との二変量および多変量ロジスティック回帰分析を実施し、オッズ比を算出した。住民1万人以下の地域は田舎、1万人以上の地域は都会とした。

 回帰分析の結果変数は2分化し、虫歯のない子どもにはDMFT=0・コード0、虫歯のある子どもにはDMFT>0・コード1を使用した。二変数ロジスティック回帰分析は以下の3モデルで実施した。
モデル1 性別(女子は0・男子は1)
モデル2 民族(インド人系0・中国人系1・マレー人系2)
モデル3 田舎/都会(田舎0・都会1)
 最後に、すべての説明変数を統合したモデルで、多変量ロジスティック回帰分析を実施した。

 本研究では、人に対する虫歯リスク密度と歯に対する虫歯リスク密度を以下のように算出した。
1 IDP 新たに虫歯に冒された人数÷少なくとも一つの虫歯病変を有する人的総リスク期間(人年)
2 IDT 新たな虫歯本数÷歯的総リスク期間(歯年)
 IDPの人年、およびIDTの歯年は、虫歯がない状態での人および歯の観察期間合計を示している。

 2004~2009年まで、ある学校での毎年の歯科検診および治療は、5年間同じ月に実施されたが、虫歯が見つかった場合に、いつからかなのかを正確に記録することは医療的に実現不能なため、特殊な計算式を用いて、人および歯に関するリスク期間計算を実施した。

 ●結果

 1,830人の対象者中、男子が950人(51.9%)、女子が880人(48.1%)、民族分布は、マレーシア人系44.2%、中国人系31.1%、インド人系21.5%となった。40.3%がシャー・アラム、59.7%がセベラン・プライの子どもたちで、65.6%が都会、34.4%が田舎の学校だった。

 ベースライン時(6~7歳)および5年後(11~12歳)のDMFT指数は以下の通りであった。

1 ベースライン時
① DMFT0  1,745人 95.4%
② DMFT1    63人  3.4%
③ DMFT2    18人  1.0%
④ DMFT3    3人  0.2%
⑤ DMFT4    1人  0.1%
⑥ DMFT5以上  0人  0%

2 5年後
① DMFT0  1,281人 70.0%
② DMFT1   273人 14.9%
③ DMFT2   152人  8.3%
④ DMFT3    73人  4.0%
⑤ DMFT4    30人  1.6%
⑥ DMFT5以上  21人  1.1%

 ベースライン時と5年後のDMFT要素を見ると、F(処置済みの歯)がD(未処置齲蝕歯)やM(喪失歯)と比較して、最も増加していた。ベースライン時に少なくとも一つの虫歯があった子どものリスク評価分析では、ベースライン時の状況と5年後も存続していることとの関連は強く、相対危険度は、3.78(信頼区間 95% 3.48~4.10 P<0.001)となった。

 また、居住地域と虫歯発生の関連は有意で、田舎に住んでいる子どもを比較対象とした時に、都会に住んでいる子どものオッズ比は1.80(信頼区間 95% 1.46~2.22 P<0.001)となった。性別や民族との関連は有意とはならなかった。

 虫歯発生密度に関しては、ベースライン時から5年後までに、虫歯に冒された人の割合(IDP)は5.8人/100人年、虫歯に冒された歯の割合(IDT)は0.76歯/100歯年となった。

●考察

 12歳学童の大部分にあたる70%は虫歯のない状態であり、30%という小さな割合においてのみ集中していた。6歳の時点で永久歯に虫歯のあることは、後年での虫歯発現の強い予測因子となることが対象集団からは見出された。6歳における永久歯での早期虫歯が12歳での虫歯発現を予測するという強力なエビデンスは、ほとんど費用をかけず入手することのできるもので、高価な技術ベースの商業的虫歯予想キットの必要性や費用対効果に疑問を投げかけるものである。

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