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脈圧が高いと心房細動リスクも高くなる

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脈圧は収縮期血圧(血圧の上の値)と拡張期血圧(下の値)の差を指します。これが高い人ほど心房細動発症リスクが高くなると分かりました。

Pulse Pressure and Risk of New-Onset Atrial Fibrillation
Gary F. Mitchell, MD, Ramachandran S. Vasan, MD, Michelle J. Keyes, MA, Helen Parise, ScD, Thomas J. Wang, MD, Martin G. Larson, ScD, Ralph B. D'Agostino, PhD, William B. Kannel, MD, MPH, Daniel Levy, MD, Emelia J. Benjamin, MD, ScM
JAMA. 2007;297(7):709-715. doi:10.1001/jama.297.7.709
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川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

成人における不整脈の最も一般的症状である心房細動(atrial fibrillation:AF)は、死亡率や脳卒中のリスク増加と関連がある。推定では米国で230万人の成人が現在AFを有しており、その数は加齢とともに実質的に増加すると予想されている。AFの有病率は年齢とともに著しく増加し、実質的生涯リスクは男女ともに4人に1人となっている。研究者たちは鍵となるいくつかの臨床的危険因子を明らかにしてきており、その中には加齢・収縮期血圧の上昇・糖尿病・高血圧・心不全・心臓弁膜症・心筋梗塞・肥満が含まれている。非リウマチ性AFの心エコーでの危険因子は左心房拡張・左心室壁の厚さ増大・左室収縮機能障害である。

加齢によるAF発症の急激な増加は加齢にともなう急速な動脈壁硬化と平行して起こる。付随して上昇する脈圧が心臓への拍動負荷を増すため、左心室肥大・左心室拡張障害・左心房の拡大を増長する。左心房の大きさや圧の上昇および左心室拡張機能障害は、線維症と心房の電気的リモデリングへとつながり、AF発症の基質を作ることになるかもしれない。この原因経路と矛盾することなく、心エコーで左心室拡張機能の異常が見られることはAF発症リスクの増大と関連がある。

このように、加齢に伴う拍動負荷増大は高齢者におけるAF発生率増加の鍵となる決定要因かもしれない。先の研究は、収縮期圧が引き続いて起こるAF発症リスクと関連あることを示してきているが、知っている限りでは、平均血圧や脈圧のAF発症リスクへの相対的寄与は包括的に評価されてはいない。よって、本研究では、AF発症に対して、脈圧が簡易に計測のできる潜在的に変更可能な危険因子となるかもしれないという仮説を大規模地域密着型Framingham Studyの中で検証した。

●方法

(1)対象者
 Framingham Heart Study(*1)およびFramingham Offspring Study(*1)コホートの対象者から、1979~1982年に実施されたFramingham Heart Study16回目の検査参加者2,351人と、1979~1983年に実施されたFramingham Offspring Study2回目の検査参加者3,863人を本研究に対する適格者とした。これらを本研究のベースライン時検査とした。35歳未満701人、AF既往症または現症状あり127人、共変数となる項目や追跡調査情報に不備あり55人を除外し、最終標本は5,331人(うちFramingham Heart Studyコホートから41%2,202人、女性55%2,946人)となった。

(2)臨床評価および定義
1 既往歴確認、身体検査、心エコーがFramingham Heart Studyの各検査時に実施された。
2 血圧は、Framingham検査時ごとの医師による座位聴診血圧2回の平均値とした。
3 脈圧は、収縮期血圧と拡張期血圧の差として算出した。平均動脈圧は、拡張期血圧+脈圧の1/3として算出した。
4 身長、体重は直接計測し、BMIはキログラム体重÷メートル身長の二乗により算出した。
5 空腹時血糖値120mg/dl.以上、ランダム血糖値200mg/ dl.以上、インスリン使用、高血糖症治療薬使用の場合を糖尿病と定義した。
6 再分極異常を伴う電位増加を心エコー診断左心室肥大と定義した。
7 ベースライン時検査では、スタンダードなMモード心エコーも実施された。収縮終期での左心房直径をアメリカ心エコー図学会のガイドラインに基づき計測した。
8 心臓血管疾患関連すべての入院と医師追跡診察に関する医療記録が3名の専門家によって検討され、ガイドライン文書によって判定された。

(3)心房細動
 病院や医師のカルテ、またはFramingham Heart Studyでは2年に1度Framingham Offspring Studyでは4~8年に1度行われた定期的Framingham検査の一つからでも、心エコーに心房細動ないしは心房粗動が認められた場合は心房細動との診断を下した。

(4)統計分析
 最初に、脈圧と新たにAFを発症するリスクとの関連を調べた。死亡は調査打ち切り、追跡調査は20年後に終了し、最終対象者は2004年12月での打ち切りとなった。

 次に、AFと血圧の様々な要素(収縮期、拡張期、平均、脈圧)との関係を調べた。これらのモデルにおける効果量は、収縮期血圧と脈圧に関しては20mm Hgごと、拡張期血圧と平均血圧に関しては10 mm Hgごととした。

 さらに、脈圧とAFとの関係は、脈圧が左心房あるいは左心室の組織や機能に与える影響によって左右されるのかどうかを調べた。ベースライン時検査で測定された心エコーによる左心房の大きさ、左心室の容積、分割短縮による補正モデルを用意した。

●結果

(1)研究標本
 ベースライン時の男性平均年齢は56歳(35歳から90歳まで)、女性平均年齢は58歳(35歳から91歳まで)で、男性の平均脈圧は51 mm Hg 、女性の平均脈圧は53 mm Hg であった。脈圧は収縮期血圧と高い相関にあり、ピアソン相関係数(*2)はr=0.87 P<0.001であった。平均動脈圧とは中程度の相関でr=0.53 P<0.001、拡張期血圧とは弱くr=0.07 P<0.001となった。

(2)AFの発症
 平均16年の追跡調査期間中、男性363人、女性335人が平均期間中間値12年でAFを発症した。20年間蓄積されたAF発生率は、脈圧グループに従って急上昇した。先立って、男性62人女性33人が心筋梗塞を、男性46人女性41人が心不全を起こした。追跡調査期間中に1,956人(女性994人)が亡くなり、そのうち1,523人(女性778人)はAFを発症しなかった。
1 脈圧40 mm Hg以下         75人(対照群の5.6%)
2 脈圧41 mm Hg以上~49mm Hg以下 123人(対照群の9.1%)
3 脈圧50 mm Hg以上~61mm Hg以下 199人(対照群の14.8%)
4 脈圧61 mm Hg超          301人(対照群の23.3%)
5 4群全体におけるハザード比      1.19(信頼区間 95% 1.08~1.31 P<0.001)

(3)多変量分析
 年齢と性別による補正を加えたモデルでは、脈圧が20mm Hg上昇することはAF発症リスクを34%高めることが分かった(信頼区間 95% 22%~47% P<0.001)。BMI・喫煙・心臓弁膜症・心筋梗塞・心不全・糖尿病・心エコー左心室肥大・高血圧治療で補正を加えた後も、24%リスクが高まり、脈圧とAFの関連は有意なままとなった(信頼区間 95% 11%~39% P<0.001)。平均動脈圧はAF発症リスク増加とは関連なかった(10mm Hg上昇することによるハザード比0.96 信頼区間 95% 0.88~1.05 P=0.39)。血圧の要素による分析では、収縮期血圧と脈圧はAFとの間で有意な関連を示したが、拡張期血圧と平均動脈圧とは有意な関連とはならなかった。収縮期血圧だけのモデルで見ると、20mm Hg上昇することによるハザード比は1.14(信頼区間 95% 1.04~1.25 P=0.006)となり、これに拡張期血圧を加えたモデルで分析すると、10mm Hg上昇することによるハザード比は0.87(信頼区間 95% 0.78~0.96 P<0.01)となった。ある収縮期血圧に対しては、より低い拡張期血圧(より高い脈圧となる)がAF発症リスクをより高めることに関連することとなった。

(4)心エコーモデル
 脈圧とAF発症リスク間の関係は異常な動脈壁硬化が拍動負荷や左心室の組織や機能に与える影響に起因しうるのであり、左心房の組織や機能に異常をきたすことになるとの仮説を立てた。この仮説検証のため、ベースライン時心エコーの左心室分割短縮・左心室容積・左心房直径を加えたモデルを使った。左心室分割短縮と左心室容積は、AF発症率と有意な関係にあった。このモデルにおいても脈圧は予測因子として有意なままで、ハザード比は1.23(信頼区間 95% 1.09~1.39 P=0.01)であった。

●考察

 本研究を通じて、脈圧はAF発症の重要な予測因子であることが示された。ベースライン時心エコーの左心房の大きさ・左心室容積・左心室分割短縮を含めても有意性があったことは、脈圧上昇によって根拠づけられる動脈壁硬化がAFの潜在的に変更可能な危険因子ということになる。血圧の要素との関連で見ると、収縮期血圧と拡張期血圧を両方考慮に入れることが重要で、脈圧は、AF発症リスクを含めた様々な終末点に関して血圧との関連を解釈する際に考慮されるべきものとなる。脈圧が上昇することは、近位の動脈壁硬化が進んでいることを示しており、加齢・BMI・糖尿病との関連がある。さらに、心筋梗塞・心不全・左心室肥大・左心室拡張機能障害・左心房拡張の素因ともなるのである。

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