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中年期の脈圧は認知症リスクの予測因子とはならない

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 前回と同じホノルル・アジア加齢研究において、中年期での血圧構成4要素(収縮期血圧・拡張期血圧・脈圧・平均動脈圧)と晩年期での認知症リスクを調べたところ、最大の予測因子は収縮期血圧であり、脈圧は収縮期血圧以上にリスク情報を提供することはないとの結論が出ました。

Midlife Pulse Pressure and Incidence of Dementia
The Honolulu-Asia Aging Study
Michael H. Freitag, MD, MPH; Rita Peila, PhD, MS; Kamal Masaki, MD; Helen Petrovitch, MD; G. Webster Ross, MD; Lon R. White, MD, MPH; Lenore J. Launer, PhD, MSc
Stroke. 2006; 37: 33-37 Published online before print December 8, 2005, doi: 10.1161/01.STR.0000196941.58869.2d

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 先行する研究は、中年期の収縮期血圧が晩年期の認知機能低下や認知症発症の予測となることを示してきている。本研究は、この関係が脈圧であるところの拍動に起因しうるのかどうか、あるいは血圧の非拍動性構成要素によるのかどうかを探究するものである。

 日系アメリカ人男性の地域密着型研究であるホノルル・アジア加齢研究からのデータを用いている。中年期の血圧は1971~1974年に測定され、認知症評価は晩年に実施された。1991年に認知症ではなく、完全な追跡調査データを有する2,505人が、1994~1996年および1997~1999年に認知症発症の再検査を受けた。年齢は、71~93歳までであった。時間尺度としての年齢に伴う生存率分析が行われ、収縮期血圧や拡張期血圧はもちろんのこと、中年期と晩年期の脈圧三分位、および平均動脈圧との関連における認知症発症リスクに関するハザード比を信頼区間95%で推定した。

 平均5.1年の追跡調査において、7.5%にあたる189人がアルツハイマー病または血管性認知症発症と識別された。脳血管危険因子で補正後、認知症は有意に収縮期血圧と関連があり、収縮期血圧120mmHg未満の群との比較で、140mmHg以上の群のハザード比は1.77(信頼区間95% 1.10~2.84)となったが、脈圧三分位との関連はなかった。抗高血圧治療を受けたことのないサブグループに限った分析では、血圧の4構成要素四すべて(収縮期血圧・拡張期血圧・脈圧・平均動脈圧)が有意に認知症と関連した。血圧の2構成要素によるモデルでは、収縮期血圧のみが標本全体においても、抗高血圧治療を受けたことのないサブグループにおいても有意なままとなり、標本全体における収縮期血圧140mmHg以上のハザード比は2.29(信頼区間95% 1.23~4.25)となったが、脈圧は認知症リスクと有意な関連とはならなかった。

 中年期の脈圧は、独立して認知症発症との関連はない。中年期の収縮期血圧が、認知症発症を予測する最も強力な血圧構成要素である。

●方法

(1)対象者
ホノルル・アジア加齢研究は、1991年にホノルル心臓プログラムを継続して始まり、心臓プログラムの開始年1965年にハワイのオアフ島に居住していた、1900~1919年生まれの日系アメリカ人を対象とする集団ベースのコホート研究である。対象者は、1965~1974年の間に、3度検査を受けた。4,768人中3,734人が、1991~1993年に、認知症例調査を含む4度目の検査に参加した。さらに2度の検査が、1994~1999年の間に実施された。

(2)認知症例調査
 認知症を識別するための多段階での症例調査手順は1991年に始まった。全対象者に100点法のCognitive Abilities Screening Instrument(CASI)が実施され、より詳細な神経心理学的検査・神経学的検査・代理人との面談を含むさらなる評価を実施するため、部分的集団が選択された。認知症診断を受けた人たちは、血液検査と脳の画像検査を受けた。診断は、神経科医と、認知症に関する経験を有する2人の本研究担当医によるコンセンサス会議において決定された。認知症は、国際的に認められている指針に従い診断された。

(3)血圧測定
 血圧は、それぞれの検査時に、座位での左腕測定による5分間隔で実施した3回の測定平均値として記録された。本分析は、中年期における3度目の検査と、晩年期における4度目の検査での血圧測定に基づいている。脈圧は収縮期血圧-拡張期血圧、平均動脈圧は拡張期血圧+脈圧の1/3とした。

(4)交絡因子および共変数
 年齢・教育水準・心血管危険因子で補正を加えた。
1 中年期におけるアルコール摂取量は、全くなし・1杯未満/日・1~2杯/日・3杯以上/日とした。
2 喫煙は、全くなし・以前喫煙・現在喫煙とした。
3 足関節・上腕血圧指数は0.9で二分し、これより低い場合は、全般性アテローム性動脈硬化指標として解釈した。
4 抗高血圧治療歴は、1~3度目検査時で自己申告され、4度目検査時での薬瓶提示で確認された。
5 糖尿病は、世界保健機関(WHO)糖尿病の分類・診断専門委員会基準によって定義された。
6 脳卒中と冠動脈心疾患歴は、1965年のベースライン時と、以降追跡調査期間を通じて実施されている病院記録の監視により評価された。
7 アポリポ蛋白Eε4対立遺伝子について、一つまたは二つのε4対立遺伝子保有は陽性、それ以外は陰性とした。

(5)統計分析
 4度目の検査で226人が認知症と診断され、本分析からは除外されたため、追跡調査は認知症ではない3,508人が対象となった。このうち、4度目検査と5度目検査の間に418人が死亡、462人は参加しなくなり、72人は3度目検査時の血圧データ不備となった。5度目の検査で132人、6度目の検査で112人が認知症診断を受け、148人がアルツハイマー病、39人が血管性認知症、51人がパーキンソン病や特定できない亜型を含む他の認知症であった。他の認知症の不均質を考慮し、分析からは除外した。したがって、分析標本は、4度目検査時に認知症ではなく、少なくとも1度の認知症に関する追跡調査を受け、3度目検査時の血圧データを有する2,505人となった。

 分析標本を脈圧による三分位に分類した。
1 42mmHg未満
2 42~51.5mmHg
3 51.5mmHg超

 平均動脈圧での三分位分類も行った。
1 94mmHg未満
2 94~105mmHg
3 105mmHg超

 収縮期血圧と拡張期血圧は、米国合同委員会「高血圧の予防、発見、評価と治療に関する第7次報告」(JNC 7)に従って分類した。160/100mmHg以上のステージ2と140~159/90~99mmHgのステージ1は、標本規模により統合した。

 年齢を時間尺度とする比例ハザードモデルにより、認知症発症と血圧構成要素のそれぞれとの関連についての信頼区間95%での相対危険度推定を行った。認知症発症年齢は、認知症ではなかった最後の検査と認知症診断がされた最初の検査の中間点と定義した。

 脈圧と認知症リスクとの間に関連があるなら、収縮期血圧で補正を加えた後でより低い拡張期血圧に対するリスクが増大すると予測される。これに関して、人口統計学的危険因子と心血管危険因子で補正を加えた多変数モデルで分析を行った。また、本コホートでの先行分析において、降圧剤治療を受けた群と受けていない群での結果に差異が見られていることから、降圧剤治療を受けた1,066人と、一度も受けたことのない1,439人での層別分析を行った。さらに、アポリポ蛋白Eε4が、分析対象の関連を加減するのかどうかも調べた。

●結果

 分析対象者2,505人の中年期検査時での平均年齢は57.9歳、認知症の最初の評価時での平均年齢は76.9歳で、その後平均5.1年の追跡調査を受けた。認知症を発現しなかった対象者と比較して、発現した対象者は有意により年齢が高く、修学年数がより少なく、中年期でのより多くのアルコール摂取があった。中年期の脈圧がより高い対象者は、有意により年齢が高く、修学年数がより少なく、CASI得点がより低く、BMI値がより高く、収縮期血圧・拡張期血圧ともにより高かった。また、高血圧治療を受けたことのある傾向があり、糖尿病・冠動脈心疾患・脳卒中の診断を受けたことのある傾向があった。

 血圧構成要素は、様々な相関関係を示し、例えば、収縮期血圧と脈圧の相関係数は0.69、収縮期血圧と拡張期血圧の相関係数は0.58となったが、拡張期血圧と脈圧では僅か0.08であった。

 血圧の単独構成要素での年齢で補正を加えたモデルにおいては、脈圧ではなく、収縮期血圧・拡張期血圧・平均動脈圧が認知症発症と有意に関連した。多変数モデルにおいても、収縮期血圧のみが、120mmHg未満との比較で、140mmHg以上のハザード比は1.79(信頼区間 95% 1.10~2.84)と有意な関連のままとなった。

 高血圧治療を一度も受けたことのない群では、血圧の4構成要素すべてが、正方向に有意に認知症発症と相互関連があり、心血管交絡因子で補正を加えた後も関連は著しくは変化しなかった。例えば、収縮期血圧では、120mmHg未満との比較で、140mmHg以上のハザード比は2.66(信頼区間 95% 1.51~4.68)となり、脈圧では、最低三分位群との比較において、最高三分位群のハザード比は1.81(信頼区間 95% 1.08~3.04)となった。

 中年期の脈圧が認知症リスクと関連あるのかについて、収縮期血圧で補正を加えたモデルにおいて、より低い拡張期血圧が認知症リスクを増大させるかどうかを調べた。収縮期血圧および拡張期血圧の分類全体を通して、より高い収縮期血圧が最も高いリスクと関連したが、より低い拡張期血圧との関連はなかった。

 血圧の2構成要素での分析では、分析標本全体でも糖尿病治療を一度も受けたことのない群でも、脈圧で補正を加えた後に中年期の収縮期血圧のみが有意なままとなった。脈圧の高い・低いによる有意な傾向は存在しなかった。

 血圧の単独構成要素モデルにおいては、アルツハイマー病と血管性認知症に対しても同様の結果となった。ベースライン時のCASI得点を加えても、結果は著しくは変化しなかった。高収縮期血圧とアポリポ蛋白Eε4対立遺伝子保有、または高脈圧とアポリポ蛋白Eε4対立遺伝子保有との間に有意な相互作用は存在しなかった。中年期での血圧構成要素の代わりに晩年期の血圧構成要素で分析を実施しhたところ、有意な結果となるものは存在しなかった。

●考察

 本研究では、拍動性と非拍動性の血圧影響を識別するために、中年期での血圧4構成要素と認知症発症との関係を調査した。中年期の収縮期血圧が最大の予測因子である一方、脈圧は、収縮期血圧単独以上に認知症リスクに関する有意な追加情報を提供するには至らなかった。実際に、中年期の拡張期血圧は、脈圧の三分位に従って減少ではなく上昇しており、その年齢においては、脈圧が高いことは拡張期血圧がより低いことではなく、収縮期血圧がより高いことによって主に説明されることを証明している。ある研究者たちは、収縮期血圧と拡張期血圧両方がモデルに組み込まれ、拡張期血圧が認知症リスクと負の関連となった場合にのみ、脈圧が収縮期血圧単独以上に追加の予測力を提供するという主張をした。本研究では、収縮期血圧で補正を加えた場合に、拡張期血圧の負の関連に対するエビデンスは存在しなかった。本分析が中年期の拡張期血圧に基づいており、動脈壁硬化による拡張期血圧減少以前に測定されたことに注目することが重要となる。晩年期の血圧は、認知症のアウトカムとは全く関連がなかった。このことは、認知症自体と関連する血圧値変化を反映しているのかもしれないし、晩年期の血圧測定後平均5.1年という比較的短い追跡調査期間を反映しているのかもしれない。

 本研究は、日系アメリカ人男性に限定されたものであり、女性や、他の民族、より若い対象者では異なる結果となるかもしれない。

 本研究においては、中年期での脈圧と認知症発症との関連は、主に脈圧と収縮期血圧との強い相関関係によって説明されるもので、収縮期血圧に脈圧を加えることは、収縮期血圧単独以上に有意な情報を提供することにはならなかった。また、晩年期での血圧構成要素は、認知症との関連はなかった。

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