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アルツハイマー病のリスク因子(加齢・教育水準・遺伝子)

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 前回と同じカナダの研究から、少し後で発表された論文をご紹介いたします。アルツハイマー病の危険因子を幅広く調査したところ、加齢・教育水準の低さ・アポリポ蛋白E4対立遺伝子保有がリスクを上げること、関節炎・非ステロイド系抗炎症薬使用・ワイン摂取・コーヒー摂取・定期的な身体活動がリスクを下げる可能性のあることが分かりました。

Risk Factors for Alzheimer's Disease: A Prospective Analysis from the Canadian Study of Health and Aging
Joan Lindsay, Danielle Laurin, René Verreault, Réjean Hébert, Barbara Helliwell, Gerry B. Hill, and Ian McDowell
Am. J. Epidemiol. (2002) 156 (5): 445-453. doi: 10.1093/aje/kwf074

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 アルツハイマー病の危険因子に対する前向き分析が、全国的な集団研究であるCanadian Study of Health and Agingの主要目的であった。1991年に65歳以上で適格者であった6,434人中、1996年に4,615人が生存しており、追跡調査に参加した。すべての対象者が、危険因子調査票に記入した1991年には、認知機能が正常であった。認知状態は、ふるい分け面談、必要がある場合は臨床評価というベースライン時と同じ2相での手順で、5年後に再評価された。分析には、194人のアルツハイマー病症例群と、3,894人の認知機能正常な対照群が含まれた。

 加齢・教育水準がより低いこと・アポリポ蛋白E4対立遺伝子は、アルツハイマー病リスク増大と有意な関連があった。非ステロイド系抗炎症薬使用・ワイン摂取・コーヒー摂取・定期的な身体活動は、アルツハイマー病リスク低下と関連があった。認知症の家族歴・性別・抑うつ歴・エストロゲン補充療法・頭部外傷・発汗抑制剤または制酸剤使用・喫煙・高血圧・心臓病・脳卒中は、アルツハイマー病リスクとの統計的に有意な関連は見られなかった。

前向きな関連は、さらなる研究がなされることが正当である。特に、定期的な身体活動は、アルツハイマー病や他の多くの症状に対する予防戦略の重要な要素となる可能性がある。

●背景

 認知症は、高齢者人口において増大する問題となっている。公共医療や社会に対するその影響は、平均余命が長くなるにつれ、より詳細にはベビーブーム世代が高齢化するにつれ、医療政策策定者や医療サービス提供者にとって懸念の増すところである。65歳以上のカナダ人では、アルツハイマー病が認知症のほぼ三分の二を占めている。今日までのアルツハイマー病の危険因子に関する疫学研究の大半は、アルツハイマー病有病者と認知症のない対照群とを比較する後向き症例対照研究となっている。後向き研究は、生き残りバイアスや思い出しバイアス(*1)を含む方法論的問題を受けやすい。さらに、情報が代理者から入手されなければならないことから、極めて詳細な曝露情報を収集することは困難である。認知症の家族歴のような有病率調査において示されているアルツハイマー病の危険因子あるいは保護因子のいくつかは、前向き研究においては支持されてきていないのである。

 前向き設定を用いた調査が、アルツハイマー病に関する病因のより詳細な像を明らかにするべきではあるのだが、これまでに得られた結果は一致を見ていないのである。The European Community Concerted Action on Epidemiology and Prevention of Dementia(EURODEM)研究グループは、喫煙をアルツハイマー病のより高いリスクと関連づけた一方で、他の研究では、喫煙とアルツハイマー病発症との間に有意な関係は観察されなかった。EURODEM研究グループは、女性であることと教育水準の低いこととがアルツハイマー病リスク増大と関連あることも見出した。反対に、他の研究においては、性別と教育水準はアルツハイマー病発症の危険因子として報告されなかった。追跡調査期間の長さや、研究対象者の選択や人数など、方法論的な差異がこれらの食い違いを説明することになるかもしれない。

 Canadian Study of Health and Aging(CSHA)は、高齢者における認知症の大規模・全国的・多機関・縦断的研究であり、その有病率・発症・危険因子に重点を置いている。第1相CSHA-1の一部として、症例対照研究が実施された。年齢・認知症の家族歴・教育水準・関節炎・非ステロイド系抗炎症薬利用は、アルツハイマー病と有意に関係があった。本研究では、CSHA-1において認知機能正常であった対象者から収集した危険因子データと、5年後のCSHA-2におけるアルツハイマー病発症診断データに基づき、後発のアルツハイマー病発症に対する危険因子の前向き分析結果を報告するものである。

●方法

(1)当初評価CSHA-1
 カナダ全土10州の36の都市部および郊外から抽出された65歳以上の男女による代表標本により、1991~1992年に実施された。対象となった9,008人は面談を受け、認められる健康状況・慢性病・基本的日常生活動作および日常生活関連動作の確認がされた。修正版ミニメンタルステート検査により認知症のふるい分けが実施された。得点が77点以下で陽性判定を受けた対象者、および78点以上の陰性判定対象者からは無作為抽出標本が、3段階の臨床評価を受けるよう求められた。
1 看護師により再度修正版ミニメンタルステート検査が実施され、薬物治療・病歴・家族健康歴のデータ収集が行われた。
2 医師による、標準的健康診断と神経学的検査が実施された。
3 精神測定学者による神経心理学的組み合わせ検査が、修正版ミニメンタルステート検査得点50点以上の対象者に実施され、結果は神経心理学者により解釈された。
予備診断は、医師と神経心理学者によって個別に実施され、その後症例会議に持ち込まれた。認知症は「精神障害の診断と統計の手引き-改訂第3版」基準に基づき、アルツハイマー病は国立神経疾患・伝達障害研究所、および脳卒中/アルツハイマー疾患・関連疾病協会の基準に基づき、認知機能障害や血管性認知症は他の特定基準に基づき、意見の一致した診断を分類した。
1 認知機能障害はない
2 認知障害はあるが認知症ではない(cognitive impairment - no dementia:CIND)
2 アルツハイマー病の可能性大または可能性あり
3 血管性認知症
4 その他の特定認知症
5 分類不能な認知症

 危険因子に関する詳細情報は、ふるい分け検査または臨床評価に基づき認知機能正常であった対象者により、CSHA-1で記入された自己記入式調査票から収集された。この危険因子調査票には、人口統計学的特徴・職業的及び環境的(危険因子への)曝露・生活様式(喫煙・アルコール摂取・選択された食品目の摂取・定期的運動)・病歴や家族健康歴(意識消失を伴うあるいは伴わないこれまでの頭部損傷・慢性疾患・薬剤使用)が含まれていた。対象者は、定期的な運動に取り組んでいるかについて、はい・いいえ、で回答することを求められたが、定期的に関しては、明確には定義されていなかった。定期的なビール・ワイン・蒸留酒の摂取は、週に1回以上と定義された。定期的な茶とコーヒーの摂取は、ほぼ毎日と定義された。

(2)追跡調査CSHA-2
 追跡調査は1996~1997年に実施された。連絡を取ることが可能で、参加に同意した対象者は、CSHA-1から平均5年経過に伴う健康状態および機能の変化測定のため、再度面談を受けた。認知症のふるい分け検査、看護師による評価、臨床評価を含め、CSHA-1と同じ過程による診断を受けた。CSHA-2のコンセンサス会議での認知症診断は、CSHA-1と同じ基準による診断と、さらに新しい基準である、アルツハイマー病に関する「精神障害の診断と統計の手引き-第4版」基準、および血管性認知症に関するNational Institute of Neurological Disorders and Stroke-Association Internationale pour la Recherche et l'Enseignement en Neurosciences (NINDS-AIREN)基準による診断とを行った。本分析の症例定義には、より新しい基準が用いられた。血液サンプル採取が行われ、アポリポ蛋白E4対立遺伝子状態は臨床的に検査された二次標本において測定された。

 追跡調査実施以前に死亡した対象者に関し、死亡日と死亡原因は州の人口動態統計から入手され、親族または他の情報提供者が、対象者の死亡3カ月以前の身体的・認知的状態評価のために面談を受けた。追跡調査期間中に死亡した対象者に対しては、認知症の可能性が三つの異なる情報源から推定された。
1 死亡診断書にある認知症の記載
2 死亡に先立つ記憶問題・アルツハイマー病・老年認知症に関する代理人からの情報
3 完全な診断評価2~5カ月以内に死亡した71人の分析に基づく、死亡者が死亡以前に認知症を有していた可能性を推定するロジスティック回帰モデル
これらの推測は、死亡者の87.2%にあたる1,022人から入手可能となった。この方法では、認知症の型を診断することはできないため、死亡者は主分析からは除外した。二次分析として、除外された死亡者の潜在的影響評価が実施され、認知症による死亡分類すべてをアルツハイマー病に含め、認知症ではない死亡を対照群に含めた。

 ニューファンドランド州からの対象者については、1996年の法律制定により、代理人からの同意による研究参加が禁止されたことによって除外することとなった。

(3)分析
 CSHA-1時点での地域在住者のみが分析に含まれ、症例対照分析は、CSHA-2での症例群と対照群により実施された。分析に含まれるためには、対象者は、当初の認知症ふるい分けで陰性、またはCSHA-1臨床診断でCINDあるいは認知症ではないことが条件となった。症例群は、CSHA-2においてアルツハイマー病の可能性大または可能性ありと診断された対象者で、比較は、CSHA-2にける追跡調査時の臨床評価またはふるい分け検査でCINDまたは認知症ではなかった、群認知機能障害なしのまま残った対照群とで実施された。

 症例群と対照群での、平均や割合に関する差異を比較した。様々な危険因子に対する一変量による粗オッズ比と多変量による補正オッズ比を、ロジスティック回帰モデルにて求めた。年齢・性別・教育水準は、潜在的交絡因子としてすべての多変量モデルに加えられた。年齢・性別・アポリポ蛋白E4対立遺伝子状態によるリスクの修飾が、相互作用項を用いて調べられた。

●結果

 最終分析に残ったのは、症例群194人と対照群3,894人となった。アポリポ蛋白E4対立遺伝子状態は、症例群98人、対照群515人、合計613人から入手できた。

 CSHA-1での特徴を、症例群・対照群・認知症の有無にかかわらず死亡者・参加拒否またはデータ不備者で比較すると、死亡者を含めて症例のあった対象者はそれ以外の群と比較して年齢がより高く、死亡者を含めて対照群の女性割合はより少なく、生存している症例群の修正版ミニメンタルステート検査得点はより低く、生存している症例群および対照群の慢性疾患数はより少なかった。

 症例群と対照群において、年齢・性別・教育水準分布は、有意差が認められた。CSHA-2のふるい分け時での年齢中央値と幅を見ると、症例群が87歳(69~105歳)に対して、対照群では78歳(70~100歳)となった。症例群では修学年数もより少なく、対照群中央値11年に対して、症例群中央値は10年となった。年齢・性別・教育水準で補正を加えたオッズ比を調べると以下の通りとなった。
1 性別と教育水準で補正を加え、年齢層でのオッズ比を比較すると、年齢層が高いほどより高いアルツハイマー病リスクとの強い関連があった。年齢を連続変数として扱うと、年齢が1年高くなるごとのアルツハイマー病リスク増加は23%(信頼区間95% 1.19~1.26)となった。
2 年齢と性別で補正を加え、教育水準が最も低い群のアルツハイマー病リスクを調べると、より教育水準が高い群の約2倍のリスクがあった。
3 性別とアルツハイマー病リスクとの関連は観察されなかった。

 年齢・性別・教育水準で補正を加え、選択された推定上の危険因子に対するオッズ比を調べると以下の通りとなった。
1 アルツハイマー病または老年認知症の家族歴は、後発のアルツハイマー病発症とは関連なかった。
2 少なくとも一つのアポリポ蛋白E4対立遺伝子保有者は、二つのアポリポ蛋白E3対立遺伝子保有者との比較において、3.28倍のアルツハイマー病リスクがあった。
3 危険因子質問票に含まれていた、先行する、あるいは現在存在する慢性疾患のうち、関節炎のみが、アルツハイマー病リスクの低下と有意に関連があり、高血圧・脳卒中・心臓病・抑うつ・頭部外傷・糖尿病・甲状腺疾患・すべての型のがん・胃潰瘍とアルツハイマー病リスクとの統計的に有意な関連は観察されなかった。
4 非ステロイド系抗炎症薬の使用は、アルツハイマー病リスクを35%低下させ、この効果は、主に非サリチル酸によるものであった。
5 非ステロイド系抗炎症薬と関節炎を一緒にして、年齢・性別・教育水準と合わせたモデルに入れると、同じようなオッズ比となり、どちらの因子もアルツハイマー病に対して保護的なままとなったが、非ステロイド系抗炎症薬と関節炎の相互作用に有意性はなかった。
6 降圧剤・制酸薬・副腎皮質ステロイド・エストロゲン補充療法とアルツハイマー病との関連は見られなかった。

 年齢・性別・教育水準で補正を加え、生活様式関連変数とアルツハイマー病リスク推定をすると、以下の通りとなった。
1 5年の追跡調査において、喫煙はアルツハイマー病リスクと有意な関連とはならなかった。
2 定期的なアルコール摂取は、アルツハイマー病リスク低下と関連があり、ワインの摂取がリスクを50%低下させた。
3 日常的なコーヒー摂取と定期的な身体活動は、どちらも31%アルツハイマー病リスクを低下させた。
4 茶の摂取・発汗抑制剤使用との関連は認められなかった。
5 すべての報告された危険因子に対して、年齢・性別・アポリポ蛋白E4状態によるリスクの修飾エビデンスは見られなかった。
6 結婚歴・対象者の生誕時における親の年齢、出生順、職歴、インク・塗料・溶媒・ゴム・接着剤・殺虫剤・燻蒸剤・放射線・麻酔薬への曝露、ダウン症候群・精神遅滞・パーキンソン病・甲状腺疾患の家族歴とアルツハイマー病リスクとの関係は観察されなかった。

 死亡者を除いた分析と、認知症による死亡をアルツハイマー病症例群に、認知症によらない死亡を対照群に加えた分析でのオッズ比を比較すると、以下の通りとなった。
1 死亡者を加えた分析においても、定期的な身体活動の有益効果は強く高い有意性を示した。
2 関節炎・非ステロイド系抗炎症薬使用・ワイン摂取・コーヒー摂取は、オッズ比1.0を下回ったが、統計的に有意ではなくなった。

●考察

 CSHAは、65歳以上のカナダ人口の代表的・全国的標本に基づく大規模コホート研究であり、本分析の前向きな特質・高い回答率・慎重な標準化に基づく認知症ふるい分けおよび臨床評価・質問票を通じての検討・データの符号化および編集が長所である。

 本研究からは、加齢・教育水準の低さ・アポリポ蛋白E4対立遺伝子保有が、アルツハイマー病リスクを高めることと関連あることが分かった。一方で、関節炎・非ステロイド系抗炎症薬の定期的な使用・ワイン摂取・コーヒー摂取・定期的な身体活動が、アルツハイマー病リスクを低下させることと関連があった。認知症の家族歴や喫煙は、アルツハイマー病リスクと関係なかった。さらに、エストロゲン補充療法は、保護的とはならなかった。

 高齢者のアルツハイマー病発症に関する本大規模前向き研究は、しばしば示されてきた病因に関する仮説のいくつかを確証した。本研究で見出された興味をそそる保護的関連については、さらに研究されることが正当である。アルツハイマー病に対する予防戦略は、ほとんど探究されてきていない。定期的な身体活動は、アルツハイマー病や他の多くの症状に対する新たで安全な予防戦略となる可能性があり、さらに調査されるべきである。

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