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有酸素運動が脳の機能低下を抑える

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 MRI画像を用いて、加齢によってどのように脳が変化するのかと有酸素運動の効果を調べたところ、加齢によって最も重大な影響を受ける領域は、有酸素運動の効果も最も大きいことが分かりました。

Aerobic Fitness Reduces Brain Tissue Loss in Aging Humans
Stanley J. Colcombe, Kirk I. Erickson, Naftali Raz, Andrew G. Webb, Neal J. Cohen, Edward McAuley, and Arthur F. Kramer
J Gerontol A Biol Sci Med Sci (2003) 58(2): M176-M180 doi:10.1093/gerona/58.2.M176

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 人間の脳は、30代から徐々に組織を失っていくと共に、認知パフォーマンスも低下していく。予想される高齢者人口の急増と高齢者医療に関連する驚異的なコストを考慮すると、脳の劣化を減らすか逆行させるかもしれない仕組みを見極めることが、重要な公衆衛生目標となる。先行する研究は、有酸素運動トレーニングが高齢者における認知機能を向上させること、および実験室の高齢動物の脳の健康を改善することができることを証明しており、有酸素運動は高齢のヒトにおいて脳の健康を改善する仕組みを提供することを示している。本研究では、有酸素運動と高齢者における生体内の脳組織密度との関係を、ヴォクセル形態計測技術を用いて調べた。

 高解像度MRIを55歳以上の人に実施した。画像は、灰白質および白質に分けられ、定位空間に登録され、年齢・有酸素運動・多くの他の健康マーカーの作用として組織密度の系統的変動が調べられた。

 先行する加齢と脳容積に関する研究と一致して、年齢作用としての組織密度の強い低下が、前頭皮質・頭頂皮質・側頭皮質に見られた。さらに重要なことに、これらの領域における低下は、調節変数で統計的な補正を加えても、心血管フィットネスの作用として実質的に減少されたことが分かった。

 これらの研究結果は、循環器系疾患を越えて有酸素運動の有益効果の及ぶ範囲を広げるもので、高齢者の脳の健康への運動利益に対する強固な生物学的根拠を示すものである。

●背景

 正常老化の過程において、ヒトの脳は30代前半に組織を失い始める。30~90歳の間において、前頭皮質・頭頂皮質・側頭皮質で不釣り合いに高い損失を伴いながら、大脳皮質のおよそ15%、大脳白質の25%が平均的に損失すると推定される。この型は、この期間を通しての認知パフォーマンス低下と密接に結び付いている。

 先進国での高齢人口における予想される急速な増加と認知低下に関連する驚異的なコストを考慮すると、中枢神経系の構造的・機能的低下を避けるための効果的な仕組みを見極めることが、緊急の公衆衛生目標として急速に現れてきている。いくつかの厳密な縦断的研究と最近のメタ分析の一つが、心血管フィットネスの向上が、人間の認知能力に対して正の作用を及ぼす可能性を証明してきている。本論文においては、高齢のヒトにおいて、より高い水準の有酸素運動と脳組織の余地とを結び付けることになる、初めて知られるエビデンスを報告する。

 動物モデルを使っての心血管運動と中枢神経系の健康とのつながりに関する最近の試験は、有酸素運動が幅広い脳の健康マーカーに対して効果を与えることを示してきている。これらの効果は、脳由来神経栄養因子・セロトニン・毛細血管密度・ニューロン形成の水準が増加することを含め、一連の細胞・分子系によって及ぼされている。これらは、変化に対してより可塑的で適応性のある保存状態のよい脳へと結び付くのである。

 実行機能に対する運動の強力な調節効果を考慮すると、これらの機能を支える前頭皮質・前頭前野皮質・側頭皮質が、おそらく動物モデルにおいて示されたのと同じ仕組みを通じて、心血管フィットネスが増すことで加齢による低下を選択的に抑えることを示すはずだと推測する人もいるであろう。しかしながら、今日まで、ヒトの脳に対する有酸素運動の効果は、体系的に調査されてきてはいないのである。

●方法

(1)対象者
 55歳以上の右利きで、高機能な、地域居住老齢者を募集広告で集めた。55歳未満の場合、ミニメンタルステート検査得点が20点未満の場合、脳卒中歴や他の器質性脳機能障害歴がある場合は除外した。さらに、MRIに対する安全上の関係から、金属製インプラントやペースメーカーを装着している場合、閉所恐怖症である場合も除外した。対象者は、研究への登録以前に、心血管負荷試験への参加に対する医師からの同意書を取ることを求められた。

(2)測定
 高解像度MRIによる灰白質および白質地図に基づく測定を実施した。最初に高解像度脳画像撮影を行い、次に心血管フィットネス評価を行った。ヴォクセル形態計測技術を用い、心血管フィットネスの脳組織密度における加齢性変化への影響評価を行った。高空間分解能を伴う脳全体にわたる組織委縮推定をすることで、脳質での変化を特定の場所で見ることができると同時に、全体的な委縮測定にも利点がある。

 画像から脳組織ではないものを取り除き、脳脊髄液・灰白質・白質三つの3D画像に分けた後に、灰白質地図および白質地図は、定位調整システムに登録された。

(3)分析
 脳の領域低下に対する年齢とフィットネスの影響評価のため、対象者の年齢と推定最大酸素摂取量得点に関連する系統的変動を、プリプロセス画像を用いて統計的パラメトリックマッピングにより調べた。灰白質地図と白質地図別々に、概念的に同一の分析を実施した。密度地図の各点を、年齢(年齢)と最大酸素摂取量得点(フィットネス)を独立変数として、地図のその地点の推定組織密度を従属変数として、重回帰に入れた。年齢のみに関連する脳の各地点での組織密度変化、フィットネス水準のみによる変化、年齢に関連する組織密度の変化をフィットネスがどの程度加減するかを示す、三つの限定要素地図ができた。

●結果

 68人が研究に興味を示し、そのうち55人が適格者となった。年齢が若過ぎることで3人、ペースメーカー装着者が1人、ミニメンタルステート検査得点欠陥が1人、閉所恐怖症8人が除外された。

 対象者の年齢は55~79歳で、平均年齢は66.5歳、55.6%が女性、平均修学年数は16.1年と教育水準は高い傾向にあった。推定最大酸素摂取量得点は11.21~49.90となった。

 脳の画像において、年齢作用としての灰白質および白質密度の実質的低下が観察された。先行して報告されている容積に関する結果と一致して、加齢性の灰白質密度低下は、前頭前野皮質・上頭頂皮質・内側側頭皮質・下側側頭皮質において観察された。運動領と後頭部における統計的に信頼できる変化は認められなかった。さらに、容積研究や最近の拡散テンソル画像研究と一致して、後部および側部と比較して、前部白質路により大きな加齢性組織密度低下のエビデンスが見られた。

 加齢によって最も重大な影響を受ける領域は、有酸素運動の最も大きな効果も示した。灰白質に対する心血管フィットネスの補助効果は、前頭前野皮質・上頭頂皮質・側頭皮質において最も大きかった。白質では、フィットネスの最大有益効果は、前方の白質路と前頭葉から頭頂葉後部を横断する白質路で観察された。

 心血管フィットネスの測定に加えて、本研究では、アルコール摂取量・カフェイン摂取量・ホルモン補充療法・修学年数・高血圧を含めて、他の潜在的調節変数に関するデータ収集も行った。確認分析では、フィットネスと確かに相互関連のあるすべての調節変数で統計的補正を加えても、活性化のピークが打ち消されることはなく、心血管フィットネスと神経組織密度とのより直接的つながりに対するエビデンスを支持するものとなった。

●考察

 加齢と認知についての現存する行動に関する文献と動物モデルにおいて予測されたように、心血管フィットネスと神経変性との関係について、ヒトにおいて初めて実験的確証を提供することから、本研究結果は科学的に重要である。高齢者における認知機能と中枢神経系の健全性を保護し増強する役割を心血管フィットネスが有することには、強固な生物学的根拠があるようである。

 本研究結果は、公共政策や臨床的推奨の問題にも直接的に影響を及ぼし、ヒトの脳組織の老化影響を避けるための簡易で費用のかからない仕組みを示すことになる。最も重要なことに、有酸素運動によって最も大きな余地を示す大脳皮質と白質は、日々の機能をうまく進めることに対して中心的役割を果たしており、これらの領域での低下は、様々な臨床的症状と関連がある。

 本研究で報告された結果は、循環器系疾患マーカーを越えて有酸素運動の有益効果の及ぶ範囲が広がり、脳の健康にも影響を与え得るということを示している。

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