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首周りが太いとリスクが高い

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 首囲が心血管代謝危険因子と関連あるのかどうかを調査したところ、男女ともに首囲が増加することで相対的リスクが高まること、その傾向は女性の方が強いことが分かりました。

Neck Circumference as a Novel Measure of Cardiometabolic Risk: The Framingham Heart Study
Sarah Rosner Preis, Joseph M. Massaro, Udo Hoffmann, Ralph B. D'Agostino, Sr., Daniel Levy, Sander J. Robins, James B. Meigs, Ramachandran S. Vasan, Christopher J. O'Donnell, and Caroline S. Fox
J Clin Endocrinol Metab. 2010 August; 95(8): 3701-3710.
Published online 2010 May 19. doi: 10.1210/jc.2009-1779

川口利の論文抄訳


発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 内臓脂肪は、BMIや腹囲のように、標準的人体測定尺度以上に代謝リスクを与える独特な病原性脂肪貯留物である。大量の内臓脂肪を抱える人は、インスリン抵抗性・2型糖尿病・アテローム性動脈硬化のリスクが高くなる。しかしながら、内臓脂肪は心血管代謝の危険因子との緩やかな相関原因にしかならず、他の仕組み、あるいは他の脂肪貯留物も心血管疾患(CVD)発現危険因子の原因になっているかもしれないことを示している。

 首囲によって推定される上半身の皮下脂肪が、内臓脂肪以上にリスクを与えるかもしれない。解剖学的には、上半身の皮下脂肪は、内臓脂肪と比較して別の区画に位置する独特な脂肪貯留物である。全身の遊離脂肪酸濃度は、主に上半身の皮下脂肪によって決定され、この脂肪貯留物が危険因子病因論における重要な役割を果たしているかもしれないことを示している。遊離脂肪酸濃度が上がることは、インスリン抵抗性・超低比重リポ蛋白コレステロール産生増加・内皮細胞機能障害と関連づけられてきている。首囲はBMIや腹囲以上に代謝危険因子と独立した相関があるかもしれないとする研究もある。加えて、ある男性研究は、MRIで測定された上半身の皮下脂肪水準が高いことは、より高いLDL-C値やより低いHDL-C値と関連あることを示した。しかしながら、首囲と内臓脂肪の連帯影響力を調査した研究は今までのところ報告されていない。

 それ故に、本分析の目的は、首囲の心血管代謝相関を明らかにし、首囲が内臓脂肪とは独立して心血管代謝危険因子と関連あるかどうかという特定の問いをすることである。

●方法

(1)対象者
 Framingham Offspring Studyと第3世代コホート(*1)の参加者が、多検出器CT(multidetector computed tomography = MDCT)サブ研究に誘われた。適格者となるためには、男性は35歳以上、女性は40歳以上、妊娠しておらず体重が160kg未満である必要があった。Offspringから1,422人、第3世代から2,093人、合計3,515人が2002~2005年にMDCT走査を受けた。本分析においては、1型糖尿病を有する人、首囲・腹囲・BMI・内蔵脂肪データに不備がある人を除外し、最終標本は3,307人となった。本分析での測定値は、1998~2001年実施のOffspring7回目検査時および2002~2005年実施の第3世代1回目検査時のものを使用した。

(2)脂肪症測定
1 首囲は、テープメジャーにより最も近い1/4インチまで計測された。対象者は直立し頭をフランクフルト水平面に置くよう求められ、テープメジャーの上縁を咽頭隆起の直下に当て直角に首の長軸に合わせた。
2 腹囲は、へその位置で計測され、最も近い1/4インチまで記録された。
3 身長と体重は標準的方法で計測され、キログラム体重÷メートル身長の二乗でBMIが算出された。
4  対象者はMDCT走査を受け、熟練技師が皮下脂肪組織と内臓脂肪評価を行った。

(3)心血管代謝危険因子測定
1 収縮期血圧と拡張期血圧は研究医により2度計測され、平均値が取られた。高血圧は、収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg、高血圧治療を受けていることと定義した。
2 1晩絶食後に総コレステロール値・LDL-C値・HDL-C値・トリグリセリド値が測定された。低HDL-Cは、男性では40mg/dL未満、女性では5040mg/dL未満と定義した。高トリグリセリド値は、150mg/dL以上、または血中コレステロール降下薬治療を受けていることと定義した。
3 空腹時血糖値・インスリン値・プロインスリン値が測定された。糖尿病は、空腹時血糖値が126 mg/dL以上、またはインスリン治療を受けている、または血糖降下薬治療を受けていることと定義した。
4 インスリン抵抗性は、HOMA-IRにより算出された。糖尿病ではない標本中の最大四分位群に入った場合をインスリン抵抗性ありと見なした。
5 メタボリックシンドロームの存在は、全米コレステロール教育プログラムの標準に従い定義した。
6 過去1年間において、1日に1本以上のタバコを吸ったと報告した場合は、喫煙者と定義した。
7 男性で1週間に14杯超、女性で1週間に7杯超を日常的アルコール摂取と定義した。

(4)統計分析
1 首囲と内臓脂肪は標準化され、異なる脂肪貯留物との回帰係数が求められた。

2 トリグリセリド値・インスリン値・プロインスリン値・HOMA-IR値は、ログ変換された。すべての分析は、性別に特化して実施された。インスリン値・プロインスリン値・HOMA-IR値に関しては、糖尿病ではない対象者に限定して分析がされた。

3 年齢で補正を加え、首囲と心血管代謝危険因子との相関係数を算出した。

4 首囲と二分心血管代謝危険因子とのロジスティック回帰モデルを組み立てた。
①モデル1 年齢・現在の喫煙(ある・ない)、アルコール摂取量(男性は1週間に14杯超と14杯以下、女性は1週間に7杯超と7杯以下)、閉経後状況(はい・いいえ)、ホルモン補充療法(ある・ない)で補正。
②モデル2 モデル1の変数に加え、内臓脂肪でも補正。
③モデル3 モデル1の変数に加え、BMIと腹囲でも補正。
④モデル4 モデル1の変数に加え、BMIと内臓脂肪でも補正。

5 2次分析として、比例ハザードモデルを使い、Offspring7回目検査時から2007年12月31日までの間における、首囲とCVD発生および冠動脈性心疾患(CHD)との関連を調べた。CVDは、心筋梗塞・アテローム血栓性梗塞・脳塞栓症・脳内出血・くも膜下出血・CVD死と定義し、CHDは、心筋梗塞およびCHD死と定義した。発生件数に不足があるため、第3世代対象者はこの分析には含めなかった。さらに、MDCTサブ研究対象者だけではなく、Offspring7回目検査を受けたすべての対象者に研究標本を拡大した。7回目検査時にCVD傾向であった対象者は、首囲・BMI・腹囲データに不備がある対象者同様に除外され、この分析に対する最終標本は3,086人となった。年齢と性別で補正を加えたモデルの他に、年齢・性別・アルコール摂取・喫煙・糖尿病・収縮期血圧・高血圧治療・総コレステロールのHDL-Cに対する割合・トリグリセリド値・脂質低下治療・閉経状況・ホルモン補充療法で補正を加えた多変量モデルを組み立てた。

●結果

(1)対象者特性
 3,307人中48%が女性、男性平均年齢は49.8歳、女性平均年齢は52.1歳となった。

(2)首囲の相関係数
 首囲は、総コレステロール値とLDL-C値を除くすべての心血管代謝危険因子(腹囲・BMI・腹部皮下脂肪組織・内臓脂肪・インスリン値・プロインスリン値・HOMA-IR値・空腹時血糖値・収縮期血圧・拡張期血圧・HDL-C値・トリグリセリド値)と相関関係があった。男性では、総コレステロール値もLDL-C値も首囲との相関が見られなかったが、女性では、弱いものではあるが、統計的に有意な相関が見られ、総コレステロール値相関係数r=0.09、LDL-C値相関係数r=0.14となった。

(3)危険因子の首囲に対する線形回帰
 標準化偏回帰係数βを信頼区間95%にて算出し、首囲の標準偏差1増加ごとの危険因子との関連を調べた。標準偏差1は、男性では首囲2.9cm、女性では首囲2.8cmに相当する。男性では、モデル1において首囲は、総コレステロール値とLDL-C値を除いたすべての危険因子(収縮期血圧・拡張期血圧・HDL-C値・トリグリセリド値・空腹時血糖値・インスリン値・プロインスリン値・HOMA-IR値)と相関が見られた。モデル2において内臓脂肪で補正を加えると、効果量は実質的に弱められたが、総コレステロール値とLDL-C値を除いたすべての危険因子と強い関連が残ったままとなった。例えば、男性における首囲標準偏差1の増加(首囲2.9cm増加)は、モデル1では収縮期血圧2.4mmHg増加に関連あり(P<0.0001)、内臓脂肪でも補正を加えたモデル2では、1.3 mmHg増加に関連があった(P=0.002)。モデル3および4では、収縮期血圧・総コレステロール値・LDL-C値・空腹時血糖値とは有意とはならなかったが、他の危険因子とは、βは弱められたが統計的に有意なままとなった。

 女性では、モデル1ではすべての危険因子と相関が見られたが、モデル2では男性同様に総コレステロール値とLDL-C値との相関は見られなくなった。例えば、女性における首囲標準偏差1の増加(首囲2.8cm増加)は、モデル1では収縮期血圧4.0mmHg増加に関連あり(P<0.0001)、内臓脂肪でも補正を加えたモデル2では、1.8 mmHg増加に関連があった(P=0.002)。モデル3では収縮期血圧との相関は見られなくなり、モデル4では拡張期血圧との相関も見られなくなった。

 性別と首囲との相互作用エビデンスは、収縮期血圧P<0.0001・総コレステロール値P=0.002・LDL-C値P<0.0001・HDL-C値P=0.0002・空腹時血糖値P=0.03となった。すべての危険因子に対して、女性の方が首囲の標準偏差1増加に伴う危険因子の効果量が大きかった。

(4)二分危険因子の首囲に対するロジスティック回帰
 分類された心血管代謝危険因子の首囲標準偏差1増加に伴うオッズ比を算出した。男性女性ともに、モデル1において首囲は、高血圧P<0.0001・低HDL-C P<0.0001・高トリグリセリドP<0.0001・糖尿病P<0.0001・メタボリックシンドロームP<0.0001・HOMA-IR最高四分位P<0.0001とのオッズ比増加に関連があった。モデル2および3においても、首囲はすべての分類別心血管代謝危険因子と有意な相関があった。モデル4においては、女性で高血圧と糖尿病、男性で高血圧との相関は見られなくなった。

(5)首囲と内臓脂肪との相互作用
 首囲および内臓脂肪の三分位と心血管代謝危険因子との相互作用を分析した。内臓脂肪のどの三分位においても、首囲の三分位によって危険因子水準が段階的に増加した。男性では、首囲と内臓脂肪は、インスリン値P<0.0001・プロインスリン値P=0.0009・HOMA-IR値P<0.0001・総コレステロール値P=0.0004・LDL-C値P=0.0002・トリグリセリド値P=0.008と有意な相互作用が見られ、女性では、空腹時血糖値P=0.003・インスリン値P<0.0001・プロインスリン値P<0.0001・HOMA-IR値P<0.0001・LDL-C値P=0.004と有意な相互作用が見られた。

(6)CVDおよびCHDを結果とする2次分析
 平均6.7年における追跡調査期間中に、CVDは男性110件、女性68件、合計178件、CHDは男性70件、女性39件、合計109件発生した。首囲の標準偏差1増加に伴うCVDハザード比は、年齢と性別での補正モデルにおいて1.20(信頼区間95% 1.04~1.38 P=0.01)、多変量補正モデルにおいて1.05(信頼区間95% 0.89~1.23 P=0.56)となった。CHDハザード比は、1.13(信頼区間95%0.94~1.36 P=0.19)、多変量補正モデルにおいて0.97(信頼区間95% 0.79~1.19 P=0.75)となった。首囲と性別の間にはCVDおよびCHDに対する統計的有意な相互作用は存在しなかった。

●考察

 本研究では、首囲と心血管代謝危険因子との関連をFramingham Heart Study参加者において調査した。まず、首囲は心血管代謝危険因子との関連がある。次に、首囲は、男性と比較すると女性において、より強く有害危険因子との関連ある。第3に、首囲・内臓脂肪・BMIは、独立して心血管代謝リスクの原因となる。第4に、首囲と内臓脂肪の相互作用が、いくつかの心血管代謝危険因子において観察され、首囲が大きく内臓脂肪も大きい人が、最も高い有害危険因子HPVをもっていることとなった。最後に、首囲とCVDおよびCHD発生リスクとの関連は見られなかった。

 本研究は、上半身皮下脂肪の代用となる首囲が、内臓脂肪とは独立して、そして相乗して新たな、個別的な、病原性脂肪貯蔵物であると示している。内臓脂肪での補正を加えると、首囲と心血管代謝危険因子との関連は弱まったが、ほとんどの関連は統計的に有意なままであったことを言及するのは重要である。

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