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無殺菌牛乳を飲んでも発がんリスクは上がらない

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 米国で、女性を対象に無殺菌牛乳の摂取経験とがん発症リスクとの関連を調べたところ、ウシからヒトへの発がん性ウイルス伝染という既に発表されているエビデンスを支持することにはならないとの結果が出ました。

Unpasteurized Milk Consumption and Subsequent Risk of Cancer
Thomas A. Sellers, Ph.D., Robert A. Vierkant, MAS., Julie Djeu, Ph.D., Esteban Celis, M.D., Ph.D., Alice H. Wang, Nagi Kumar, Ph.D., and James R. Cerhan, M.D., Ph.D.
Cancer Causes Control. 2008 October; 19(8): 805-811.
Published online 2008 March 15. doi: 10.1007/s10552-008-9143-8

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

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●背景

 避けうるがんの原因を識別することは必要性が高い。脂肪・肉・フルーツや野菜・微量栄養素の摂取など、食事の様々な面に関する研究が広く実施されてきている。乳製品一般、とりわけ牛乳もがんリスクとの関係を調査されてきている。女性においては、牛乳の摂取は大腸がんと子宮頸がんリスクを低下させるかもしれないが、乳がんや子宮体がんには効果はない。肺がんに対する結果は極めて雑多なもので、リスク低下を示す研究もあれば、リスク増大を示すものもあり、性別や腫瘍の組織診によって変わるのかもしれない。卵巣がんに関する最近の評論は、低脂肪乳の摂取は予防効果があると結論づけたが、12コホート研究の蓄積データ分析では、ラクトースの摂取量増加とがんリスク増大とが関連あることを認めた。これらの過去の研究で考慮に入れられていないと思われるのが、牛乳が殺菌されていたのかどうかという点である。

 健康な牛の牛乳は比較的少ないバクテリアしか含んでいないが、牛から切り離される際に汚染が起こりうる。さらに、米国食品医薬品局によれば、不健康な牛は様々なバクテリアやウイルスを伝染させる可能性があり、エンテロトキシン産生黄色ブドウ球菌、カンピロバクター・ジェジュニ、サルモネラ、大腸菌、結核菌、ウシ型結核菌、ブルセラ菌などが含まれる。ウシ型白血病ウイルス(BLV)は、ヒトT細胞白血病ウイルス同様にレトロウイルスで、よく牛に感染する。動物に感染したBLVのほとんどはB細胞性リンパ増殖性症を発症させ、1~5%がリンパ肉腫で死ぬ。ある研究によると、試験された人の74%が血清中にBLVに対する抗体を持っていた。このように、無殺菌牛乳による人のがんリスク増大、とりわけBLV感染の可能性が懸念されるのである。

 低温殺菌は、病原体微生物からの健康被害を最低限にし、製品の貯蔵期間を延ばすために食品業や乳業において広く用いられている熱加工である。商業的には1900年代初頭に導入され、ほとんどの牛乳は現在低温殺菌されている。国の法律は、州をまたいでの生乳輸送を禁じているが、各州には独自の規則があり、多くは販売を許可している。人が消費するために商業経路を通じて生乳を販売することは、近年では42の州すべてまたはその一部において違法となっている。低温殺菌牛乳と比較した際の生乳の健康利益を理解したことで、生乳入手増大を求める消費者運動がある。低温殺菌は、栄養素や酵素を破壊し、潜在的に有害な病原体とともに保護的バクテリアを殺し、アレルギー・関節炎・他の疾病との関連があると信じられている。さらに、ウシ成長ホルモンの生合成とともに過剰に刺激されることで牛乳のインスリン様成長因子の生理活性レベルが高まり、低温殺菌によってさらに高められることが、研究によって証明されてきている。前世紀の中間点と比較すると、無殺菌牛乳に触れることはより一般的ではないものの、人生の初期において、とりわけ農地や農村地帯に居住していた場合、無殺菌牛乳に接触した人はいまだに多く存在している。本報告は、Iowa Women's Health Study(IWHS)において、潜在的がんリスクと無殺菌牛乳との関連を調査しようとしたものである。

●方法

(1)対象者
 IWHSは、閉経後の女性におけるがんおよび他の慢性疾患リスク識別のために設定された前向きコホート研究である。1986年1月に、1985年に有効なアイオワ州運転免許を有していた55~69歳の女性リストから無作為に抽出された99,826人に対してアンケート調査が郵送された。41,836人の回答者が研究前段階コホートを形成した。自己申告による回答に含まれたのは、教育レベル・喫煙習慣・アルコール摂取・生殖因子・薬剤使用・人体測定学因子・家族のがん既往歴であった。追跡調査アンケートが、1987、1989、1992、1997、2005年に郵送され、生存状況・現住所が更新され、選択された必要データが入手された。4回目の追跡調査において、「あなたの人生における無殺菌牛乳の摂取はどのような状況ですか?」との質問がされ、一度も摂取したことがない・子どもの時のみ摂取した・成人してからのみ摂取した・子どもの時と成人してからの両方摂取した、の四つの選択肢から回答を求められた。死亡については、アイオワ州死亡証明データベースへの各年リンクに加え、補助的に全米国民死亡記録データベースへのリンクにより確認された。

(2)除外およびがん症例
 分析以前に、除外基準により、ベースライン時に皮膚がんを除いたがんへの罹患や化学療法を報告した者3,881人、ベースライン時から1994年までの間におけるがん罹患者4,795人、死亡または無回答によって4回目のアンケートに回答しなかった者16,563人、無殺菌牛乳摂取に関して回答しなかった者466人を除外した。除外は相互排他的なものではないため、22,808人がコホートに残った。さらに、部位特定除外を行い、乳房切除術を受けた者164人は乳がん分析から、子宮摘出術を受けた8,191人は子宮がん分析から、卵巣摘出術を受けた6,413人は卵巣がん分析から除外した。

(3)分析
 無殺菌牛乳摂取とがんリスクとの関連を相対危険度により算出した。成人してからのみ無殺菌牛乳を摂取したと回答した人はほとんどいなかったため、子どもの時と成人してから両方摂取した群と統合し、一度も摂取したことがない・子どもの時のみ摂取した・成人してから摂取したという3群に分類した。分析には以下のモデルを用いた。
1 年齢のみで補正を加えたモデル
2 がんリスクと関係ある交絡因子で補正を加えた全がんモデル
3 がん種別ごとのモデル(乳がん、造血器がん、リンパ腫、子宮がん、卵巣がん、気管支または肺がん、すい臓がん、結腸がん、直腸がん、上部消化器がん、近位結腸がん、遠位結腸がん、他のがん)

●結果
 22,808人の女性対象の分析において、追跡期間の138,800人年中2,379件のがん症例が確認された。アンケートへの回答者で、無殺菌牛乳摂取を一度も摂取したことがないと回答したのは21.8%のみであった。無殺菌牛乳摂取は、子供の時のみが59.2%、2.5%が成人してからのみ、子どもの時と成人してからが16.5%だった。

 全がんリスクと無殺菌牛乳摂取との関連を、一度も摂取なしの群を1.0とした相対危険度で見ると以下のようになった。

年齢のみで補正の場合は、がんリスク低下と関連があった。
1 子どもの時のみ摂取群 0.90(信頼区間95% 0.82~0.99)
2 成人してから摂取群  0.85(信頼区間95% 0.75~0.97)

多変量補正の場合は、がんリスク低下との関連は弱まり、統計的に有意ではなくなった。
1 子どもの時のみ摂取群 0.92(信頼区間95% 0.83~1.02)
2 成人してから摂取群  0.91(信頼区間95% 0.79~1.04)

 がんの病因的不均質を考慮すると、全がんを統合した分析は重要な発見を隠してしまっている可能性もあるとの危惧から、そのがんに特定の危険因子による補正を加え、13の部位別がんにおける分析を実施した。成人してからの生乳摂取と直腸がんリスクとの間には、強い負の相関が見られ、相対危険度0.26(信頼区間95% 0.10~0.69)となったが、わずか5件の症例に基づくデータであることを付加しておきたい。他のがんにおいては、統計的な有意性は見られなかったが、効果の点推定の方向は、負の方向が6、どちらでもないが5、増大の方向が2となった。

●考察

 本研究は、がんのリスクが無殺菌牛乳摂取をしたことのある女性において増大するとの仮説を検証したもので、この仮説は、発がん性ウイルスが牛乳を通じてウシからヒトへと伝染する可能性があるとの発表済みエビデンスに基づくものであった。本研究からのデータは、がんの潜在的危険因子としてこのことを支持するエビデンスを与えるものとはならず、むしろ、生乳を摂取した女性はがんのリスクが低下する可能性があるというものであった。

 発がん性ウイルスが牛乳を通じてウシからヒトへと伝染しても、ヒトの中では生物的に活性化しないという可能性もある。また、BLVを中心としたワクチンプログラムがウシからヒトへ無傷の病原体を伝染させることへの予防となっているのかもしれない。喫煙やBMIのようにがんリスク増大と相互関連のある因子もあれば、出産回数が多いことや農地に居住していることなどがんリスクを低下させる因子もあった。様々な潜在的交絡因子を考慮しはしたが、がんリスクに対する無殺菌牛乳の影響を引き出すのは困難と言える。

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